ソフトバンク株式会社と国立大学法人東京工業大学工学院 藤井輝也研究室(以下、東京工業大学)は、雪山や山岳地帯などでの遭難者や、地震などにより土砂やがれきに埋まった要救助者の位置をドローンで特定するシステムの研究開発に2016年から取り組んでおり、2020年には双葉電子と共同で「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」を開発した。
一方で、土砂やがれきの中に深く埋まって圏外となっているスマートフォンを通信圏内にするためには、現場上空をゆっくりと飛行してドローンから発信する電波を地中深くまで届くようにする必要がある他、位置特定の精度を向上させるために現場上空でくまなく測定する必要があり、捜索範囲の広さによっては長時間の飛行が必要になる。
しかし、従来の「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」は、ドローンに搭載しているバッテリーでドローンと無線中継システムに電力を供給しており、1回当たりの飛行可能時間が最大約30分のため、捜索範囲が広い場合は捜索を中断してバッテリーの交換を行う必要があり、迅速な救助支援への障壁となっていた。
このほど、ソフトバンクと双葉電子工業株式会社(以下、双葉電子)、東京工業大学は、地震や台風に伴う土砂崩れなどにより遭難された方や要救助者の捜索を支援することを目的に、ドローン搭載バッテリーで運用していた「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」を地上からの有線給電で運用することで、ドローンを長時間飛行させながら、土砂やがれきの中に深く埋まったスマートフォンの位置を特定する有線給電ドローンシステムを開発した。
同システムの基本的な仕組みは、従来のドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システムと同様である。
土砂やがれきの中に深く埋まった場合、ドローン無線中継システムによって通信圏内となっても、スマートフォンはGPSの信号を受信できないため、位置情報を取得することができない。
そのため、捜索現場の上空にドローンを飛行させ、ドローンに搭載した下向きの指向性アンテナによって、スマートフォンから送信される電波の受信電力と、GPSの信号を受信しているドローンの位置情報を同時に取得することで、飛行経路上で受信電力が最大となるドローンの位置をスマートフォンの現在位置として特定する仕組みになっている。なお、ドローンで特定したスマートフォンの位置情報は、位置情報取得システムによって遠隔地からパソコンやスマートフォンで確認することができる。
一方で、同システムは有線給電ドローンを活用しているため、地上の給電装置からドローンまで電源ケーブルを伸ばすと、捜索現場までの間に倒壊した家屋や倒木があるような場合、電源ケーブルがそれらに引っ掛かって捜索が継続できなくなる恐れがある。
そこで、無線中継システムを搭載してスマートフォンの位置を捜索するドローン(以下「主ドローン」)に加え、電源ケーブルを持ち上げて制御する補助ドローンの計2機のドローンを活用することで、障害物を回避しながら、約200メートルの範囲を連続100時間以上安定して捜索ができるシステムを実現した。
また同開発と併せて、千葉県長生村の双葉電子の長生工場内に土砂の山を築き、その中にスマートフォンを埋めて、同システムによってスマートフォンの位置を特定する実証実験を行った。土砂の山と地上の給電装置の距離は約200メートルで、その間には高さ約10メートルの木々や高さ約3メートルの柵があり、主ドローンだけでは電源ケーブルがそれらに引っ掛かるため捜索ができない環境となっており、主ドローンと補助ドローンの飛行は、異なる操縦者による手動操縦で行った。
実証実験の結果、主ドローンは補助ドローンのケーブル制御によって土砂の山の上空に到達することができ、最大5メートルの土砂に埋まっているスマートフォンの位置を数メートルの誤差で特定することに成功した。この結果により、スマートフォンが土砂やがれきの中に深く埋まって通信圏外かつGPSの信号が受信できない場合であっても、同システムによって位置の特定が可能なことが検証できた。
なお、ソフトバンクと東京工業大学は、2021年に消防庁の「消防防災科学技術研究推進制度」の研究課題に採択されており、同システムはこの研究の一環として開発したものである。
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