ドローン産業の発展へ向け、必要なサービスを包括的に提供していく ―VFR 湯浅氏 インタビュー

企業:

VFR株式会社は、ノートパソコンを提供しているVAIO株式会社の子会社としてスタートした、ドローンの開発・製造、販売までを行う企業だ。

2022年12月5日より航空法が改正され、制度を守ることで、ドローン含む無人航空機を、人が目視できない有人地帯でも飛行することができるようになった。

今後量産が求められる産業用ドローンにおいて必要な事柄や課題、VFRが今後成し遂げていきたい展望などについて、VFR株式会社 代表取締役社長 湯浅浩一郎氏にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS 小泉耕二)

ドローン製造から人材育成まで、3つの事業で社会実装を推進する

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉):  VFRはドローンの開発・製造、販売までを行うということですが、具体的な事業内容について教えてください。

VFR 湯浅浩一郎氏(以下、湯浅): 大きく分けて、「ToA」「ToB」「ToC」という3つの事業を展開しています。

ドローン産業の発展へ向け、必要なサービスを包括的に提供していく ―VFR 湯浅氏 インタビュー
VFRの3つの事業内容

「ToA」は、オープンイノベーションでドローンやドローンポート、シミュレータなどを開発・製造する事業モデルです。

ドローン産業の発展へ向け、必要なサービスを包括的に提供していく ―VFR 湯浅氏 インタビュー
左:ドローンポートの検証をしている様子。 右:完成したドローンポート。

「ToB」は、オープンイノベーションのベースとなる部品やモジュールを自社製品のみならず、他社製品も製造販売します。また、サプライヤーに対し要求仕様を出して部品を購入し、品質保証をした上で、弊社で販売するビジネスモデルです。

「ToC」は、弊社のサービス全般を指しますが、特に注力してゆくのが、ドローン操縦者に対するトレーニングツール(バーチャルトレーナー)やカスタマーサービスです。

ドローンを産業利用するにあたっての一番の課題は、操縦者がまだまだ少ないということです。

既にドローンスクールは存在していますが、単純に飛ばすことができるスキルに留まっていると感じています。

2022年12月5日より国家資格として「無人航空機操縦者技能証明制度」が開始しており、有人地帯の目視外飛行をはじめ、産業分野でドローンを活用するほとんどの場合において、この技能証明を取得する必要があります。

そこで、弊社のドローンを実際に現場で操縦し、点検や物流のオペレーションなどを実践できるサービスの提供を、スクールと連携しながら行っていきます。

ドローン産業の発展へ向け、必要なサービスを包括的に提供していく ―VFR 湯浅氏 インタビュー
ドローンによる点検や物流のオペレーションを実践しているイメージ。

また、社会実装が始まった際に必須となるカスタマーサポートも、今後は行なっていく予定です。

産業用途のドローンに求められる品質やサービスとは

小泉: ホビー用のドローンは、10年ほど前より登場して盛り上がりをみせていましたが、日本では法改正もあり、最近では特に産業用ドローンに注目が集まっているという印象です。

VFRでは、具体的にどのような産業領域での利用を想定されているのでしょうか。

湯浅: 弊社が目指しているのは、どのような業種においても、汎用的にドローンを活用することができる姿です。

例えばドローンメーカとして有名なDJIは、高品質のネットワークカメラや画像伝送技術を自社で開発し、撮影をメインとした利用者用途において素晴らしい製品を作っています。

また、汎用のスマートフォンやタブレットと連携したUXが開発されており、サポート体制もIT業界の流れを汲んだ展開をしていると思います。

しかし、物流や農業などの産業用途でドローンを活用しようとすると、国や地域の特性に合った製品が必要となり、多様性を受け入れるオープンな商品開発が求められます。したがってローカライズやカスタマイズのできないDJIの製品では対応できないシーンも出てくるでしょう。

生産技術もITのハードウェアとは異なり、飛行機を製造する技術や車業界の生産技術から学んで開発する必要があります。

そこで弊社では、国や業種に囚われず、様々なシーンでドローンを活用することができるよう、フレキシブルな体制で取り組んでいます。

最近では、ドローンのオープンソースソフトウェア(OSS)である「ArduPilot」や、そのプロトコルである「MAVLink」なども登場しています。OSSは誰もが利用できるからこそ、進化するスピードは早いです。

しかし、ビジネスで活用する場合には、万が一問題が起きた場合に誰が保証するのかといった、OSS特有の課題もあります。

IT業界であれば、OSSである「Linux」のセキュリティアップデートをはじめとした公式サポートを提供する「Red Hat」などがあります。

ドローン業界でもOSSの機能保証などを行う必要があり、弊社はIT業界のDELLやHPのような対応をする方針をとっています。

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IT業界とドローン業界の役割を表した図。

小泉: 様々な企業から部品の調達をして開発・製造をする上で、部品のサプライチェーンや品質保証までサポートするということですね。

上記を踏まえた上で、どのような活用シーンを描いているのでしょうか。

湯浅: これまでは、日本においてドローンがどのように活用されていくのか、その方向性がはっきりとしていませんでしたが、航空局の方針が徐々に出てきたという状況です。

その結果、日本はアメリカやヨーロッパと比べると、厳しい基準を設けており、機体認証が必要な1種機体と2種機体では、航空機と同じような品質を求めています。

しかし、飛行機を製造している企業が開発を行うとなると、コストがかかりすぎてしまうため、品質保証された機体を低コストで製造していくことが弊社の目標です。

ドローン産業の発展へ向け、必要なサービスを包括的に提供していく ―VFR 湯浅氏 インタビュー
ドローンを製造している風景

今後はホビー用のドローンを作るメーカと、機体認証制度に乗っ取ったドローンを製造するメーカで、2極化していくと思います。

弊社はその両方に対応するスタンスで、進化していきたいと考えています。

柔軟な協業による開発を実現するために

小泉: 御社では機体を主に作られているということですが、管制制御に関して取り組まれていることはあるのでしょうか。

湯浅: 管制制御に関しては、協業という形をとっています。既に発表しているものですと、デバイス統合プラットフォーム「Blue Earth Platform(BEP)」を提供しているブルーイノベーション株式会社と協業し、弊社の機体に「Blue Earth Platform(BEP)」を取り込んでいます。

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ブルーイノベーションとの協業体制を表した図。VFRが関わるハードウェアへの「Blue Earth Platform(BEP)」導入に加え、人材育成も協業していく予定だ。

その他の企業ともコンソーシアムを組むなどして、協業しながら製造・開発を進めているケースもあります。

小泉: 協業するとはいえ、ハードウェアの中にアルゴリズムを組み込まないと管制制御に対応できないと思うのですが、どのように実装されているのでしょうか。

湯浅: ハードウェアの機体の制御は、ドローンメーカである株式会社ACSLと共に進めています。

また、弊社は機体メーカに対して提案を行う立場ですので、基本的にはソフトウェアを開発する企業と共に開発を進めます。

例えばバッテリーの冗長性が必要となった場合、冗長するためのモジュール開発はソフトウェア開発企業に委託し、それを弊社に納品して機体に組み込んでいます。

ただ、協業をして進めていくには、部品を製造するサプライヤーに要求仕様書を出す必要があるのですが、国内のドローンメーカではまだきちんとした要求仕様書が出せてないという課題があります。

万が一トラブルが起きた際には、一旦メーカが責任を問われますが、具体的に部品の不備だったのか、製造プロセスの問題だったのか、設計仕様がおかしかったのか、問題の切り分けをする必要が出てきます。

そこで、弊社が必要な要求仕様書の整理を行っています。

メーカとしての経験を活かし、量産体制を整備する

小泉: VFRはもともとVAIOの子会社として開始されているわけですが、最終的にコンシューマが活用するプロダクト開発を行っていたという経験が活きているのでしょうか。

湯浅: それがVFR を立ち上げたきっかけです。ドローンを製造している企業はほとんどがベンチャー企業で、「量産体制」「カスタマーサポート」「品質保証」という社会実装に必要な要素を持っていません。

VAIOはこれまで量産体制を構築し、カスタマーサポートや品質保証を行ってきました。こうしたメーカとしてのノウハウをドローンの領域でも活かし、ドローンベンチャー企業と協業することで、ドローンの社会実装を行っていきたいと思っています。

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ドローンのベンチャー企業とVFRの関係性を表した図

小泉: 産業用ドローンを量産していくということは、大手の農薬散布用無人プロペラ機メーカなどが競合になるということでしょうか。

湯浅: 競合というよりは、やはりここでも協業が大切になってきます。既にドローンを開発している大手企業と協業しているのですが、歴史があり組織が大きい分、スピーディーに物事を進めていくことが難しいという特徴があります。

例えば弊社が作った部品を納品するのにも、意思決定のプロセスが複雑で、予算がついて承認が下りるまでとても時間がかかってしまいます。

これまで培われてきた技術やノウハウは何者にも代えがたい価値がありますので、協業していくことでドローンの社会実装を共に進めていきたいと思っています。

個人から世界対応まで、幅広くドローンを普及させていく

小泉: それでは最後に、今後の展望を教えてください。

湯浅: 点検用のドローンは、ニーズが急激に伸びるタイミングか来ると思っています。そうした需要に対して対応できる体制を整えていこうと考えています。

農業用ドローンは既に市場があるので、世界各国で展開できるようローカライズできる体制を整えております。

例えばインドはローカルルールが厳しいのですが、農業用ドローンの需要は日本の100倍ほどあります。そのため、機体全部を納品できなくても、機体の部品を納品することができれば大きなビジネスとなります。

こうした国のルールや特徴に合わせた製品開発を行なっていきたいです。

また、承認のハードルが一番高い1種機体を作ることを目標にしています。1種機体の量産は少し先になると思いますが、生産技術・ノウハウを蓄積してゆくために取り組んでいきます。

ドローン産業の発展へ向け、必要なサービスを包括的に提供していく ―VFR 湯浅氏 インタビュー
VFR株式会社 代表取締役社長 湯浅浩一郎氏

さらに、ドローンを活用した実証を、ある程度完成度の高い機体で誰でも簡単に始められるような体制を構築することも、目標のひとつです。

そのために、「ArduPilot」に対応した機体を提供したり、組み合わせが可能な部品の提供をしたりすることで、ベンチャー企業や、さらには個人であってもドローンビジネスに参入できるような仕組みを提供したいと考えています。

映像の世界にYouTuberという新たな軸が生まれたように、工業技術の製品においても新たなアイディアやイノベーションが生まれる支援を行っていきたいです。

小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。

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