通貨のデジタル化 ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融②

昨今金融サービスもデジタル化されていたり、暗号資産取引などデジタルありきでの金融サービスも始まっている。そこで、経済アナリストの馬渕磨理子氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が、「デジタルと金融」についてと対談した。

特集「デジタルと金融」は全四回で、第二回目はデジタル人民元など「通貨のデジタル化」がテーマだ。

馬渕磨理子氏は、京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用に携わった後、金融メディアのシニアアナリスト、株式投資型のクラウドファンディングを手掛けるFUNDINNO(ファンディーノ)で、日本初のECF(投資型クラウドファンディング)アナリストとして政策提言に関わる。現在は、一般社団法人 日本金融経済研究所の代表理事。フジテレビのニュース番組「FNN Live News α」のレギュラーコメンテーターなども務める。

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 次のテーマは、私が非常に注目している「デジタルキャッシュ」についてです。ここ数年で「デジタル人民元」が話題になっています。

中国の基軸通貨である人民元をデジタル化することですが、電子マネーとは何が違うのか、基軸通貨をデジタルにするメリットは何かなど、疑問が湧いてきます。

経済アナリスト 馬渕磨理子氏(以下、馬渕): 前提として、中国がなぜそのような動きをしているかを説明します。世界の基軸通貨は「ドル」であり、世界中の貿易の決済はドルで行われています。つまり、中国の対抗にはアメリカという存在がいるのです。

小泉: アメリカは消費人口が多いので、各国がモノを販売してドルで報酬を得るということですね。

米国が構築した最強の仕組み

馬渕: そうです。これだけでも非常に強い影響力があるのですが、さらにアメリカは、米国債という債権を発行しています。そして、その裏付けとなっているのがドルなのです。

米国債は、世界で最も信頼できる金融商品で、中国や日本を始めとする世界中の国々が保有しています。つまり、各国が貿易などで稼いだおカネは、米国債に使われているわけです。これによって、世界で使われる通貨をドルにしている上に、世界に流れたドルをアメリカに還流させるという、最強の仕組みを構築しているのです。

デジタルキャッシュ ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融②
各国がアメリカへ輸出し、利益をドルで得ている。得たドルで米国債を購入している。

小泉: その仕組みには国債が使われているわけですから、アメリカは借金が増える一方なのではありませんか?

馬渕: それはひとつの問題ではありますが、アメリカは世界中から大量の資金を集めることで、軍事費を増強しています。そうして拡大した軍事にひもづく形でスタートアップが登場し、軍事技術を含めた新たな技術が生まれることで、産業が発展しています。「GAFA」と呼ばれる企業がアメリカで生まれた背景も、このサイクルが基軸となっているのです。

デジタルキャッシュ ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融②
最強のサイクルで得た資金を軍事に投資し、新たな産業も発展している。

そして、こうした構造を作り出しているのは、唯一アメリカだけです。このイデオロギーに対立しているのが中国やロシアです。力のある中国は、同じ仕組みを自国で作ろうとしており、その一環に人民元のデジタル化があるという背景があります。

元をデジタル化する中国の狙い

小泉: 元をデジタル化することで、なぜアメリカのような仕組みを構築することが可能なのですか?

馬渕: 中国は人民元の価値を保つために資本規制をしており、人民元が他国に流出しない政策をとっています。そこで、人民元をデジタル化することで、中国と貿易をしている各国とデジタル人民元をベースに取り引きを行うことで、アメリカと同じような仕組みを構築しようと考えているわけです。

小泉: 中国は、取り引きをしている国とは元ベースで行いたいが、刷っているおカネについては資本規制をしている。そこで、デジタル人民元を活用することで、元を還流させようという考えなのですね。

デジタルキャッシュ ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融②
刷った元は他国へ流出させていないため、デジタル化することで米国同様、最強のサイクルを作ろうとしている。

馬渕: その通りです。そうしたアメリカと中国の対立関係の構造が背景にあります。

小泉: こうした構造を構築しようとすると、大きな消費を起こせる国である必要があるということでしょうか。他国のモノを買う購買力がないと成立しないですよね?

馬渕: そうです。加えて輸出する産業があることや、人口が多く、経済成長が見込めることが大前提になります。

小泉: なるほど。だからアメリカと中国の2軸の対立構造が生まれているわけですね。そうなるとこれから先、デジタル人民元を基軸通貨にする国が登場する可能性はあるのですか?

馬渕: 中国は、アフリカを始めとする新興国に投資を行っています。だから、投資を受けている国は必然的にデジタル人民元を使わざるを得ないと思います。一方、日本などアメリカ寄りの国は利用することにはならない。こうした、イデオロギーも関係してくると思います。

新興国の支持を得てデジタル人民元を広げる

小泉: ケニアの道路には中国の国旗が立っているほどですから、あっという間にデジタル人民元が利用されるようになるかもしれませんね。

馬渕: そうですね。インフラ整備など様々な支援を受けているので、構造上で仕方のないことだと思います。

デジタルキャッシュ ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融②
経済アナリスト 馬渕磨理子氏

小泉: 日本も政府が発展途上国に対して援助やODA(政府開発援助)を行っていますが、基本的には「おカネ」で支援しています。一方で、中国はODAにインフラ整備という手法を取っている。そのため、支援を受けた国は分かりやすく、生活の質も上がるので、中国に感謝します。

デジタルの世界でも同じようなことが起きています。現在、米中貿易摩擦でファーウェイは失速していますが、一時期は様々な国に進出し、ファーウェイが通信基地局を建てていました。当時は世界中が中国に統制されていくのではないかという印象も受けました。

最近のトピックでは、ロシアのウクライナ侵略に対して国連総会は、「軍の即時かつ無条件の撤退」を求める特別会合を開きましたが、中国やインドなど35か国が棄権しています。こうした国は中国の息がかかっているといわれていますが、インフラを整備してもらっているなら当然とも感じます。

馬渕: そうですね。そうした国は、現状整備してもらったことに対する感謝もありますが、中国が作ったインフラのメンテナンスも考えると、何十年も中国の支援を受ける仕組みが、既にできあがっているのです。そして、こうした戦略は、アメリカからしたら脅威となっているわけです。

小泉: さらに金融では、デジタル人民元を普及させようとしているわけですね。

デジタルキャッシュ ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融②
IoTNEWS代表 小泉耕二

馬渕: そうです。発展途上国であれば、銀行口座がない人たちも多いので、デジタル化することで末端まで一気に普及する可能性を秘めています。

小泉: 発展途上な地域で、決済だけ最先端になるというアンバランスな状態が生まれるわけですね。

馬渕: そうした新興国が先進国を飛び越えていく、カエル跳びのような現象のことを「リープフロッグ」といいます。先進国は、これまで整えた環境があるが故に、飛躍できないこともあるのです。

小泉: そうして中国のインフラや通貨が浸透していき、米国債を発行しているアメリカの構造のような仕組みを中国が構築していく可能性があるということですか?

馬渕: それがデジタルと金融の恐ろしさだと思います。「なくてはならないもの」になるまで浸透させることができる分野であり、怖さでもあるのです。

日本がデジタル通貨に本腰にならない理由

小泉: そうなってくると、日本はどうするのかが気になります。現状はどうなっているのですか?

馬渕: 日本は中央銀行を担保にしたデジタル通貨に関する実証実験が行われていますが、現時点でデジタル通貨を発行する計画はないとしています。世界の貿易も基本的にはドルに従うため、積極的ではないという印象です。

小泉: 馬渕さんから見て、デジタル通貨を発行してもあまり意味がないということですか。

馬渕: 銀行自体が発展している産業なので、現在行われている実証実験でも、銀行を組み入れた階層になっています。しかし、デジタル通貨を推進しすぎると、銀行という業態自体の必要性を問われかねないので、そこまで押し進めようという気持ちはないのだと思います。

デジタルキャッシュ ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融②
経済アナリスト 馬渕磨理子氏

小泉: 日本銀行が発行するのであれば、デジタル円はあり得るということですか?

馬渕: そうですね。銀行を介在して流通させるのであればあり得ますね。

小泉: そうすると、今の金融システムを壊さずに済みますよね。ただ、デジタル人民元の話のように、市場が大きくなければ実行する意味があまりないのであれば、デジタル円は「デジタルだと交換しやすい」という程度のメリットしかなさそうですね。

馬渕: そうですね。日本は世界の覇権を取りたいわけではないですし、他国を侵食していこうという考えではないので、デジタル円を推進したいという意思はないと思います。

小泉: デジタル円を作ることで日本銀行と都市銀行が利権を守ろうとしているという話をする人もいますが、そもそもやる意味やメリットがあまりないということなのですね。現在、日本では電子マネーが普及し出しています。それらを活用すればいいということでしょうか?

馬渕: そうですね。一方、国際的にデジタル通貨を普及させようという流れがあるので、国として同調しなければならないというのも事実です。ですから、実証実験を行って、導入するかもしれないというパフォーマンスとしての意思表示をしているのだと思います。

デジタル通貨のセキュリティ問題

小泉: 私としては、通貨がデジタル化すると、セキュリティの問題が心配になります。

サイバー攻撃は年々高度化しています。最近の有名な事例では、サイバーセキュリティ先進国であるロシアの国営放送を、「アノニマス」といわれる国際的ハッカー集団がハッキングしました。こうした事件を見ると、サイバー攻撃から守り切ることができないのではないかと感じています。

馬渕: 特に日本はセキュリティに強くないと聞きます。

小泉: 強くないというよりは、今までデジタル社会にしてきていないので、セキュリティの問題が出てきていないだけだと思います。

デジタルキャッシュ ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融②
左:IoTNEWS代表 小泉耕二 右:経済アナリスト 馬渕磨理子氏

世界で一番セキュリティ攻撃されている企業はマイクロソフト、国の設備はペンタゴンです。つまり、早くからデジタル化を進めていて、重要な情報を扱っている組織が標的にされやすいのです。

日本で起きた大きなサイバー攻撃はあまり思いつきません。一般の人に影響があったというところでは、ソニーのプレーステーション・ネットワークが、アノニマスのサイバー攻撃でダウンしたという事件でしょうか。社会に与える影響としては、大きな事件ではないですね。

これが通貨のシステムとなると、世界中から標的にされることが予想されます。日本がそうしたサイバー攻撃を防ぐシステムをいきなり作ることができるというイメージが湧きません。

馬渕: 徐々に進めていくということでしょうか?

小泉: デジタル庁の動きもあって、まずは自治体のシステムがデジタル化されていくと思います。自治体のシステムにも多少のサイバー攻撃があると思うので、防御しながら徐々にセキュリティを強化してくのではないでしょうか。(第3回に続く)

この対談の動画はこちら

以下動画の目次 2. デジタルキャッシュ(17:17〜)より

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