昨今金融サービスもデジタル化されていたり、暗号資産取引などデジタルありきでの金融サービスも始まっている。そこで、経済アナリストの馬渕磨理子氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が、「デジタルと金融」についてと対談した。
特集「デジタルと金融」は全四回で、今回は第三回目、「仮想通貨とNFT」がテーマだ。
馬渕磨理子氏は、京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用に携わった後、金融メディアのシニアアナリスト、株式投資型のクラウドファンディングを手掛けるFUNDINNO(ファンディーノ)で、日本初のECF(投資型クラウドファンディング)アナリストとして政策提言に関わる。現在は、一般社団法人 日本金融経済研究所の代表理事。フジテレビのニュース番組「FNN Live News α」のレギュラーコメンテーターなども務める。
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 次のテーマは「仮想通貨とNFT」についてです。
デジタルマネーをカテゴリー分けすると、QRコード決済やデジタル通貨、仮想通貨(暗号資産)などが挙げられます。仮想通貨は一時期にはバブルとなり、その後には大暴落して大きな話題となりました。馬渕さんは仮想通貨をどのように捉えているのでしょうか?
経済アナリスト 馬渕磨理子氏(以下、馬渕): 私はビットコインが100万円以下の2014年頃に投資を始めました。当時はブロックチェーンの技術に注目が集まっていたのですが、まだ情報は少なく、取り引きできる仮想通貨の種類もあまりありませんでした。
投資した本来のきっかけは、ブロックチェーン技術が様々な分野で使われるという話を聞いたことです。その後、暴騰や暴落を繰り返していますが、基本的には放置しています。

現在、金融業界でも、株主総会の議決権でブロックチェーンが活用されるなど、普及が広がっています。ですから、仮想通貨に投資して値幅を取るという投機的な発想ではなく、長い目で見たときの投資対象として購入しました。
仮想通貨は利益確定するべきでない
小泉: 結果的に暴騰している時期もあったので、もっと買っておけばよかったという後悔はなかったのですか?
馬渕: どこまで上がるのかには注目していましたし、正直もっと買っておけばという気持ちもありました(笑)。しかし、途中で買い足してしまうと平均単価が落ちてしまい、結果マイナスになる可能性があるので放置していました。
小泉: さすが冷静な判断ですね。利益確定をしない方がよいということですね。
馬渕: 税金もややこしいですよね。普通の株とは違うので、今のところは状況が変わるまで置いておくスタンスです。
小泉: 現在では、仮想通貨はビットコインに限らずかなりの種類がありますよね。大手の仮想通貨の取引所で取り扱っている仮想通貨の種類だけでも10種類以上はあります。それ以外にも時価総額や知名度が低い「草コイン」と呼ばれる仮想通貨がたくさんあります。
馬渕: 昔、草コインにも投資していたことがあります(笑)。
小泉: 草コインはどこで買えるのですか。
馬渕: 当時は「Binance(バイナンス)」という仮想通貨取引所から香港に送金して取り引きをしていました。時価総額や知名度が草コインよりも低いことを揶揄(やゆ)して「苔コイン」と呼ばれるものもたくさんありました。しかし、その中から100倍になるような仮想通貨もあったので、分散して投資をしていたのですが、全てビットコインに引き上げて国内に資金を戻しました。
小泉: 仮想通貨を投資や投機という観点で見ると、どの仮想通貨が上がるのかを予測していくということですね。
技術成熟度と投資対象の人気は比例せず
小泉: デジタル的な観点から仮想通貨を見ると、「通貨」という側面と、「ブロックチェーン」という技術の側面が、裏表になっていることが話をややこしくしていると感じています。馬渕さんの場合も、ブロックチェーン技術そのものに投資する対象がなかったからビットコインを買ったということでしたしたよね。
馬渕: そうです。技術そのものに投資できるのであれば、技術に投資をしたかったですね。
小泉: ただ、「ビットコイン」イコール「ブロックチェーンの技術発展」ではないとなってくると、ブロックチェーン技術そのものの成熟度合いを測るような投資対象はないのではと思います。この場合、ブロックチェーン事業をメインに行っている企業に投資をするという考え方になるのでしょうか?

馬渕: それもひとつの方法だとは思います。しかし、ブロックチェーン開発を行っている上場企業だというだけでは、成長性が見込めず投機的になってしまう可能性があります。
だからといって、ブロックチェーン事業を行うスタートアップに投資をしても、M&AやIPOでイグジットするのかどうかも分かりません。結論、直接的にブロックチェーン技術に投資するのは難しいから、一番分かりやすいのが仮想通貨に投資するということなのだと思います。
小泉:現状もそうした状況は変わっていないのでしょうか。
馬渕: 変わっていません。特に現在の株式市場では「ブロックチェーン技術を開発しています」というだけでは評価されません。
小泉: 以前は評価されていたということですか?
馬渕: ブロックチェーンが、現在の「NFT」や「メタバース」のように、株価に影響を与えていた時期もあります。しかし、それは長期的な株価形成ではないので、本質的な投資とはいえません。
小泉: デジタルに長く携わっている者からすると、ブロックチェーンの技術は、馬渕さんがビットコインを買われた2014年頃は成熟した技術ではなかったと思います。ビットコインは古参の仮想通貨なので、仕組み的には成熟度が低いのが実情です。最近では、技術的な成熟度が高い新たなブロックチェーン技術を使った仮想通貨が出てきています。
例えば、脱炭素に寄与する考え方を取り入れた仮想通貨もあります。
仮想通貨の取り引き認証には、マイニング処理という複雑なコンピューター演算作業が必要なのですが、膨大な電力が消費されています。
そこで、マイニング処理の電気消費量を抑えた仮想通貨が登場するなど、仮想通貨業界もサステナビリティや脱炭素を意識した進化を遂げています。

馬渕: そうした成熟した考え方が取り入れられているのですね。
小泉: しかし、投資となると、多くの人はビットコインが比較的安定していると捉えていて、投資対象にしています。ですから、技術や仮想通貨としての成熟度と、投資対象としての人気が比例していない状況なのです。
本来、技術や考え方が成熟しているものに投資してほしいと思いますが、通貨と技術が表裏一体となっているせいで、損得勘定が一番の関心を集めてしまい、人気の偏りが起こっています。そうなると本来の「投資」ではなくなってしまうため、仮想通貨業界の危機を感じています。
トレンドを追い、機敏に反応する金融業界
馬渕: まさに「リアルと金融の乖離(かいり)」という問題が、仮想通貨でも起きているのだと思います。私もすばらしい技術や成熟した考え方をしているところに、本来投資するべきと思います。そして、それが金融のするべきことだと思います。
しかし、常にここには乖離があります。金融では、流通総額が多い方が安定をしていますし、下落しにくいという特徴があります。おカネは集まるところにより集まるという構造があり、それが現実社会との乖離を生んでしまうのです。
小泉: なぜ、投資家はデジタルの最新キーワードに反応するのでしょう。最近ではNFTやメタバースが注目されていますが、今、注目されている技術は大体10年ほど前には完成されています。
技術の中身や進化、成熟度に関わらず、世の中の注目度に左右されているように感じます。これは、デジタル業界の関係者が、正しく多くの人たちに伝えられていないからなのでしょうか?
馬渕: そうした側面もあると思います。一方、投資家や金融業界の人たちは、常に次のインフラなど、世界中の人々が活用するものを探しています。「兆しを感じた時点で乗っておく」という人たちが一部にいるため、株価に動きが出るのです。
こうした現象は、よい側面もあります。新しい技術に資金が集まるということです。それは、技術の後押しをしてくれる可能性につながります。

しかし、ほとんどの技術やサービスは消えていってしまうのが実情なのです。投資家はそれでも次なる産業を生み出すものがあると信じて投資を続けているわけです。
小泉: だから、デジタル業界の新しいキーワードにおカネと人が集まり、波が立つけれども、大半は消えていってしまうのですね。
馬渕: そうです。金融業界はデジタルトレンドを常に追っていますし、機敏に反応します。
小泉: それは、金融業界の人たちが、技術の成熟度合いなども分かった上で、確信犯的に投資しているということですか?
馬渕: 世の中で注目され始めてから知る人もいると思いますが、技術のことを分かった上で盛り上がりに乗っている人もいます。
金融業界では、一般化するかしないかの境目が一番盛り上がります。一般化したら投資対象としては終わりです。その手前で参入することが重要で、技術やサービスが普及するかどうか分からないときに一番おカネが動くのです。
小泉: そうして投資家が投資をし出すことで波が立ち、その波を一般の人たちが見て便乗するため、バブルが起きるわけですね。
馬渕: そうです。また、一部の投機的な考えの人たちにとっては、技術やサービスが長期的に成長するかではなく、バブルが起きたときに利益が確定できればよいのです。
ほかにも、できるだけ早く参入して自分たちでマーケットを作り、いかに先行者利益を得るかを考えている人たちもいます。
こうした考えの人たちは技術に対する尊敬はないと思いますし、技術が社会に浸透することを考えているわけでもありません。これについては私もよくない側面だと思っています。金融の本来のあるべき姿は、技術を理解して、長期的にサポートすることだからです。

小泉: そう考えると、石油産業や土木建築業といった長期的なプロセスで成果が出る産業に、資金が短期間で一気に集まるイメージが湧かない。
一方で、デジタル業界であれば、短期間で世界中の人が使う技術やサービスが生まれる確率が高い。だから、注目が集まり、皆波の兆しを捉えようとしているわけですね。
そして、デジタル業界にも、次に来るデジタルトレンドを誇張して広めたり、キーワードを作ったりする人たちがいます。
馬渕: 「DX(デジタルトランスフォーメーション)」というワードもそうですよね。要はIT化やデジタル化ということだと思うのですが、キーワードがあると分かりやすいですし、盛り上がります。金融業界も、キーワードを待っています。
小泉: そうしたマジックワードが生まれることで、企業にも影響を与えます。
例えば、板金加工業を行っている企業が、NFTやメタバースを活用したいと考えるのです。流行(はや)りのキーワードを活用して何かできないかと考えては見るものの、実事業との差があまりにもあると、NFTを活用することが目的となってしまうこともあります。
こうした状況からも、無責任にデジタルトレンドを説明することは危険だと感じています。技術の成熟度合いや今後の発展性は説明できますが、いつ確実に使えるものになるかは判断が難しいのです。未来像と技術的に実現できること、それにより社会がどれくらい変わることができるのかについて説明のさじ加減が、非常に難しいと思っています。
「マーケット」と「技術」の知識が必要
小泉: 例えば、5Gが2020年に立ち上がったとき、世の中の注目を集めたことで、どうなるのかについてよく聞かれました。聞いてくる人は、大抵、5Gで様変わりする未来の話を期待しています。
しかし、実態は数年ですぐに使いものになるものではないのです。すごく先の話をすれば変わるということはできますが、基地局を建てる必要もあり、すぐに社会が変わるという話は現実的ではないのです。
ただ、世の中で話題になっているときに、盛り上がる話を聞きたいという心理があることも分かるので、どのように説明するかが悩みどころであるわけです。金融業界から見ると、波は立てた方がいいのでしょうか?
馬渕: 金融業界では、政府の資料に基づいてワードが落ちてきます。5Gについて政府が明記していると、有識者がどのように言うか以前に、関連企業の株価が上がるなど、マーケットが動きます。そうした状況に対しては説明をしなければなりません。
小泉: 金融的にデジタルを捉えることと、実技術のリアルな普及には二面性があるということですね。

どちらの立場をとるのかは人それぞれですが、大企業の経営者層などは、両面捉える必要がありますね。
馬渕: その通りです。マーケットの反応とサービスで活用される技術の実態、両方の知識が必要だと思います。
小泉: この両軸を正しく報じている機関はほとんどないですよね。
一般大衆に対する情報は、マーケットのトレンドに寄った話はたくさんありますが、実技術の情報は少ないと感じています。ここは変えていくべき課題だと思います。両軸あるということをまずは理解してもらい、知識がある上で判断することが大切ですよね。
馬渕: そうです。技術に寄り過ぎた情報だと専門家以外理解できない。そうだからかといってマーケットの値動きだけを見て取り引きするのは本来の投資ではありません。
だから、個人にも勉強する姿勢が求められます。そして勉強しようとしたときに、情報が分かりやすい言葉であることも大事です。包括的に知った上で判断することが理想的なのです。
小泉: これで私の長年の悩みがひとつ解決されました。例えば「メタバース」について解説を求められたときに「メタバースで生活している未来が来る」という論調で解説するのは違うのではないかということなのですね。
メタバースが普及するには、デバイスの進化やプラットフォームの勝ち残り競争を経て、世の中に浸透するところから始まり、ようやくプラットフォームが収れんをされてくるのだと思います。だから、メタバースがいつ一般化して、浸透するのかまでは言及できないわけです。
馬渕: 上場企業の人を取材すると、「メタバース」や「Web3.0」の世界に対して事業をやり始めようとする人たちもいますが、あえて発表しないという選択をしている人たちもいます。
それは、現時点でIRのニュースなどで発表すると、株価に影響が出てしまうからです。それは誠実な対応ではないと判断して、事業に着手はしていても、伏せている企業もあるわけです。
小泉: 意図しない含み益が生まれても、企業としても困りますよね。
馬渕: そうです。高騰して下落すると、期待感も薄れてしまう可能性があります。
小泉: 今回の話で気づいたのですが、市場の盛り上がりを馬渕さんが察知されたとき、それがデジタルネタの場合は水を差すことになりますね。
馬渕: 現実を知ることは重要です。最終的にはマーケットも現実に近づきます。

これまで遠隔医療など、様々なトレンドが盛り上がりました。しかし、それらがそれほど使えなかったとなれば株価は下がります。そうした差異を埋めていくためにも、専門家との会話が必要だと思っています。
投資は人の暮らしがよくなるため行われるべき
小泉: 遠隔医療の話でいえば、そのキーワードを見た瞬間に「医療を遠隔で行うことはやめた方がいい」と感じます。なぜなら、通信は途切れるものだからです。だから、遠隔医療を盛り上げる人たちの意図も、盛り上がっていた状況も理解ができませんでした。
馬渕: 加えて、遠隔医療には5Gが絡んでいたので、より普及するという論調でした。
小泉: それについては、何年後の話だという印象ですね。5Gは2020年に立ち上がりましたが、今も普及をしてはいないです。5Gの基地局の設置も、開始から5年程度の時間がかかります。それでも全てのエリアを網羅できるわけではありません。
それよりも、海や山など幅広いエリアで通信を行うことができる衛星通信に投資が集まればよいと思っています。どこまでカバレッジできるかという問題はありますが、今まで通信できなかったエリアで通信ができるようになるメリットは大きいと思います。
例えば、マグロ漁船などの遠洋漁業では、1年ほど船から降りられません。だから、船員は家族と連絡を取りたい。ただ、海上には細い衛星通信しかないので、現状は声だけでコミュニケーションをとっています。
しかし、衛星通信をしっかりと整えれば、画像もやりとりができるようになります。そうした、実際に喜ぶ人たちの顔が見えるような取り組みに、おカネが集まってほしいと思っています。
馬渕: そうです。本来は、本当に人々の暮らしがよくなるために投資は行われるべきなのです。(第4回に続く)
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