2016年7月21日 ザ・プリンス パークタワー東京を会場にして、今回これが5回目、5年目を迎える「SoftBank World 2016 ~情報革命の未来を、その目に 」が開催された。
ソフトバンクグループ代表の孫正義氏(以下、孫氏)の基調講演をはじめ、さまざまな協賛パートナー等によるAI、IoT、SmartRobotをメインカテゴリーとして講演、最先端のテクノロジーやソリューション、具体的な事例に関する展示場も設置された。
孫氏は基調講演で、この週の初め発表されたARMの買収とそこに至った孫氏の思いを熱く語った。
発表の2週間前にARMにプロポーズ
10年位前から「いつかARM」と考えていた孫氏、そんな日が本当来るのか?どのように実現するのか?おぼろげであったという。
買収発表をした7月18日(月)のちょうど2週間前、トルコの港町のあるレストランにて4人でランチをし、その中にARMの会長と社長がいた。そして、その日初めてARMの買収についての提案、プロポーズをしたのだ。
日本の経済史のなかでも最大のこの買収は普通ならば半年もかかってもおかしくないこの発表を、その日からたった2週間でまとめ上げたのだ。
孫氏は昨年のこの講演で「シンギュラリティの意味」を知っているかについて会場に問い、それは1パーセントに満たなかったという。今でもまだ、一般の人々には馴染みのない言葉であるが「人類が今まで体験したなかではじめて遭遇する新たな技術的特異点。コンピューターが、人類にの知能をはるか超えていくこと。超知性である。」であると説明する。
そして孫氏が一年間、これから迎えるシンギュラリティに対して、考えて続けたその答えが、「ARMの買収」であったのだ。
ソフトバンクの今までのビジネスとのシナジーが見えないという評価で発表後、ソフトバクの株価は下がったが、なぜ、ARMがシンギュラリティの中で一番重要な一手になるのかについて、囲碁に例えて語った。
「自分が持っている石の色のすぐ側に石を置くとことは、自分の陣地を広げるわけなのでわかりやすい。でも、囲碁の勝負では必ずしもすぐ側に打つ人が勝つか?
10手先、20手先、50手先のところ、なぜ今そこに、その1点に打たなきゃいけなかったのかというのは、その囲碁の世界に命がけで勝負をしてる人であれば、お互いにわかりあえるということではないか」
ソフトバンクの原点となった一枚の写真
孫氏は40年前の19歳の頃、サイエンス雑誌に載っていた一枚の写真に出会った。
未来都市の設計図のように見えた不思議な写真が、人差し指の指先の上に乗っかるほどの小さな小さな破片であり、それがコンピューターであると気づいたとき、両手両足の指がジーンとなり、いろいろな考えが頭をめぐり、涙が溢れて止まらなくなったという。
孫氏は、40年間その感動と興奮を、脳の潜在意識のなかに封印してきていたが、やっともう一度会え、もう一度この手で抱きしめてと、そういう思いで今を迎えているという。
そして、これがこれからの人類、シンギュラリティのキーワードのなかの最も重要な飛び石の布石になると語った。
シンギュラリティの3つのキーワード
「データを大量に瞬時に吸い寄せて分析し、そして自ら学習して思考するという超知性、この超知性の感情がシンギュラリティであり、シンギュラリティの3つのキーワードというのがAIであり、スマートロボットであり、IoTになる。
この超知性に、大量のデータを、地球上の森羅万象のデータを吸い寄せさせる。そのデータを吸い寄せさせるためには、チップが必要である。
そのチップがありとあらゆる、森羅万象のデータを集め、そのチップの数をどれほどこの地球上にばらまけるか。」
今から20年以内に、ARMは約1兆個のチップを地球上にばらまくことになるという。
この1兆個のチップから、同時並行に、瞬時に、リアルタイムに地球上の森羅万象のデータを吸い寄せ、超知性はもっとも賢く、もっとも素早く、世の中の森羅万象を予知予言することができるようになる。
そして、その超知性を持ったスマートロボットが人類の仲間として、これまで人類が解決することができなかった自然の大災害から守ってくれたり、不治の病から人間の命を守ってくれ、より豊かで、より生産性高く、より楽しい、そういう世の中を迎えることができるようになるだろうと語った。
そして、シンギュラリティに対する重要なカギはIoTで、1兆個のチップをこの地球上のありとあらゆるものにばらまくということであり、次のパラダイムシフトが「IoT」なのだという。
ソフトバンクの中核中の中核になるのがARM
ARMは、チップを製造しているわけでなく、設計をしている会社だ。チップのプロセッサの研究開発をし、設計をして、日本でいえばルネサスや、世界中でいえばテキサスインスツルメンツ、クアルコム、Appleなど世界中のさまざまなチップのメーカーに、ライセンスを提供、設計図を渡している。
分野ごとのARMのマーケットシェアは、スマホでは95パーセントを超え、タブレット、ウェアラブル、ストレージ、自動車など、ARMは非常に高いマーケットシェアをすでに持っている。
多くのパソコンのなかに入ってるインテルのCPUの出荷の数の、約10倍くらい、ARMはいま現在すでに出荷しているという。

自動車が自動運転というようなかたちになると自動車はもはや走るスーパーコンピューター、走るスマートロボットということになっていく。
超知性の走るロボットになり、事故を一切起こさない走るスーパーコンピューターになるという。
一個目の試作から実現していた低消費電力なARMのチップ。偶然による発見。
IoTには「低消費電力」というのは欠かせないカギとなる。
ARMは創業時には二人のエンジニアしかいなかった。当時、1個目の試作を開発するときに、電気につなぐピンを回路につなげるのを忘れてしまった。しかし、つなぎ忘れたのに計算され動いており、よく調べたところ、漏れ電力という非常に微力の電気だけで動いてしまっていたのだ。
孫氏は「これ(ARMの省電力)が、今からのIoTに欠かせないカギになる。電池一個で10年くらい持ってほしいのだ」と語った。
セキュリティを守る機能「TRUSTZONE」
「IoT社会において一番大切になるのはセキュリティだ」と孫氏は語る。
「たった1個の部屋にも、1つの部屋にもIoT機器だらけになり、1兆個もこれが配られるということになるそんな世の中がきた時を、想像してみて欲しい。
誰か悪い人がIoTの機器にハッキングすると、ある日突然、世界中同時にハッキングしたウイルスが、同時に目覚めて悪さをするとどうなるか。
世界中の空を飛んでる飛行機が一瞬で同時に全部地上に墜落し、世界中の高速道路を走っている自動車がある日突然同時に、自動車のブレーキが全部止まり、機能を失う。世界中のハイウェイが同時に大パニック、大事故になる。」
そして孫氏は、「ARMのもつTRUSTZONEという機能はたいへん重要で、計算速度、低消費電力以上に重要になるのがセキュリティ機能になる。」という。
TRUSTZONEはARMのコアのなかに入っているという。
このTRUSTZONEは、アプリケーションプロセッサのプロセスのコアとは別に、セキュアな部分として、一般のインターネットからはアクセスできないよう遮断され、一般のインターネットから入れないようコントロールされているという。
ソフトバンクは、ARMはソフトバンクグループの中核中の中核の会社として、これからパラダイムシフトを迎えていくとのことだ。
パラダイムシフトのたびに、10年に1回くらい、ソフトバンクの主要事業は変わってきた。
ソフトバンクは何屋なのか?に対してひと言で大きくまとめていうと、情報革命屋だという。
この情報革命というのが、孫氏が19歳の時に涙を流したときから始まり、孫氏にとって「生まれた使命、生まれた理由だと思っており、この情報革命のために命と情熱を捧げる、生涯を捧げる」のだと熱く語る。
そして「超知性が現れても、それは人類を破滅させるために迎え入れるのではなくて、人々に幸せを提供するために、不治の病をこの世から消え去らせて、事故の起きない社会のインフラに進化させ、自然の大災害から我々人類を守ってくれる。
これから300年ぐらい、ソフトバンクが生まれ、これからやっていく理由は、情報革命で人々を幸せにするということ。Pepperはダース・ベイダーではなくジェダイになる。」と思いを語った。
【関連情報】
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1975年生まれ。株式会社アールジーン 取締役 / チーフコンサルタント。おサイフケータイの登場より数々のおサイフケータイのサービスの立ち上げに携わる。2005年に株式会社アールジーンを創業後は、AIを活用した医療関連サービス、BtoBtoC向け人工知能エンジン事業、事業会社のDXに関する事業立ち上げ支援やアドバイス、既存事業の業務プロセスを可視化、DXを支援するコンサルテーションを行っている。