この記事は、SmartNews社のイベントスペースで、Industrial Internet研究会の模様をレポートする。記念すべき第一回は、コマツ 執行役員 スマートコンストラクション推進本部長 四家 千佳史氏の講演だ。講演の後、シスココンサルティングサービスの八子氏との対談があったので、そちらは別記事とする。
会の冒頭、発起人の一人であるダイワハウス 海老名氏から、「IoTという言葉を聞かない日はないものの、コンシューマ向けのガジェットが多く、偏っていると思う一方で、海外ではGEやボッシュなどが先進的な事例がみれる。こういった分野も発展していきたい」という思いで、研究会が開催された旨発表があった。
「スマートコンストラクション」という言葉にはなじみがない読者も多いと思う。土木建築業界のことなので、イメージできない方も多いのではないだろうか。
簡単に言うと、これまでの土木工事、例えばある土地を平らにするような工事について、かなりの効率化を実現したソリューションなのだ。
どう効率化を実現しているかというと、土地の測量にドローンが活用され、土木建機がICTによって制御され、その土木建機の運転についても、10年かけて習熟するような熟練工による技術を、わずか3日の研修で可能とする、熟練工にはさらなる効率化をもたらすといったものなのだ。
実際、現在土木建築の分野は、深刻な労働者不足がおきているのだが、このソリューションによって労働者不足が解消され、工期は短縮、ということが実現できたというのだ。
スマートコンストラクションでできること
まずは、下の動画でどういうことができるかを見てほしい。
https://youtu.be/QJXeerRmkFU
コマツ 四家氏の講演
四家氏の経歴はすこし変わっている。
もともと株式会社BIGRENTALという建機レンタル会社を97年に創業し、創業した企業を08年にコマツが買収し、コマツレンタルという会社になった後、四家氏はコマツレンタルの会長職と、コマツの執行役員を兼務しているということだ。BIGRENTALも650名の社員を庸する企業で、そこまでの企業を創業するのもすごいことだが、今回のスマートコンストラクションのソリューションは画期的なソリューションだといえる。
スマートコンストラクションができたそもそもの背景は、日本の建設技能者労働者数がかなり足りなくなるということだ。2025年で130万人の不足が見込まれている。国土交通省は、これに対して機械化、情報化、オートメーション化という流れを作りたいと考えているのが現状だ。一方、土木建築企業のうち、94%のが月商1億円以下で、社員数が10名以下の建設業の企業規模という状況だ。
スマートコンストラクションは、こういった課題を解決したいという想いから始まったソリューションで、決してIoTありきではないところが成功のポイントだといえる。
写真は、コマツの広告だが、商品であるブルトーザーがすごく小さくしか映っていないことがわかる。ブルトーザーは、前進しかできないのと、丁張という目印がないときれいに施工できないという事情があるので、無駄な動きをしたり、丁張をしていく工程に多くの時間が取られていた。しかしこのICT建機を使うことで工期が1/3で実現できたのだという。
結果、ICT建機が導入されれば、工程全体も効率されるかのように思われたが、実際はそう簡単ではなかった。現場に土砂を持ち込むのだが、その土砂の供給が追い付かず、結果工期があまりかわらなかったのだ。ここを変えるには、土砂現場の建機を高性能にしたり、台数を増やしたりするしかない。これからもわかるように、実際の現場では前後の工程があるため、ブルトーザだけをICT化しても、工事全体のボトルネックは解消しないのだ。
それ以外にも課題はあって、同じ自動制御されたブルトーザーであったとしても、オペレータの熟練度によって、燃料消費の差や作業クオリティに差がでたり、土地を測量するのに3Dレーザースキャナによる測量も行ったが、実際との間にかなりのずれが生じ、当初は土の余りがかなりでてしまったのだという。
これについて、四家氏は、「課題は山積みだった」と当時を振り返った。
課題解決のプロセス
こういった様々な課題を解決するために四家氏は次のようなプロセスを作り上げたのだ。
1.正確な施工計画をつくる
従来から、測量から設計・施工計画を立案していたのだが、どうしても必要な土量は不正確になる。それを施工しつつ何度も測量するのだが、これが、スマートコンストラクションとなると、ドローンによる空中からの現況測量を行うようになるというのだ。
ドローンが取得したデータから、測量すべき土地の3Dデータを作成する。これで飛行から24時間後には3次元データになるということだ。
難しいところは、誤差がでないように詳細にデータを取りたいため、かなりのデータ量を取得するのだが、それではデータが過剰になる可能性がある。そこで、データを自動でまびいても、誤差の少ない測量が可能になる技術を使う必要があったそうだ。
次に、施工完成図面の3次元化を行う。測量データと、施工完成図面の二つを重ね合わすと、どのくらいの土を切り取ったり(切土)、盛ったりする(盛土)必要があるかがわかる。
この一連の流れを、コマツが開発した”KomConnect”というクラウドアプリケーションを用いると実現できる。そして、これらのデータをICT建機に送れば、効率的な工事が実現できるようになるというのだ。
KomConnectは、工程の進捗や土量、など様々な情報を見ることができる。
2.計画実績とのギャップをリアルタイムに把握
実際に工事をすすめると、コマツが作るICT建機以外の建機があるのだが、現状を把握するにはこれらからもデータを取得する必要があり、単純に工程どおりに進むわけではない。
そこで、建機の上にステレオカメラをつけ、現況をリアルタイムに3D化するということを実現した。これで、他社製の建機についても現状が把握できるというのだ。
ただ、施工の実績データを管理するということは、建機が地球上のどこにいるのかを正確に明確にしないといけない。そうでないと、せっかく取得した3Dデータもどこの場所のことかがわからなくなるからだ。
しかし、コマツは、もともと建機の刃先を誤差3センチのレベルで地球上のどこにいるかはわかっているので、そのデータにカメラで撮影した3Dデータをあわせて、KomConnectサーバにあげると、現状がわかるということだ。
ほかの建機が掘った形(実績)をすべてつなげていくというのが、世界初コマツのIoTなのだ。
3.施工手段・段取り具をガイダンス
施工の方法がきまると、ICTの建機に情報が配信される。そのやり方にしたがって工事を行うことで、効率的な工事ができるのだ。

4.変動要素の発生可能性を予測する
コマツのICT建機は熟練工の技術も取り込む
komatsu rentalのyoutubeでみれば、熟練オペレータですら、精度よく施工するのが難しい「法面形成」をたった3日でできることがわかる。
ちなみに、動画でもあるとおり、この技術、実際に習得しようと思うと10年はかかる技術ということだ。
https://youtu.be/dq_qW12IPjs
現在次世代技術を活用した施工の解析をやっていて、1/100秒単位のデータをためて、熟練工の技術を研究し、さらなる自動化を進めていこうとしていると締めくくった。
◆コマツ四家氏 講演は全二回
【前編: 土木建築が変わる、コマツの「スマートコンストラクション」 -コマツ 四家氏 】
【後編: コマツのスマートコンストラクションがわずか8か月で実現できたわけーコマツ 四家氏、シスコ 八子氏 対談 】
ニュースで伝え聞いていたコマツの技術だが、実際に四家氏のお話を聞いていると、鳥肌が立つくらいの内容であった。ここまでの実装をたった8か月で行ったこともすごいが、課題を解決するということにIoTを使うというが、情報も少ない中、案外簡単ではなかったはずだ。しかも、SKYCATCH(ドローン)を使っての空撮からデータを起こすことや、完成度の高いクラウドアプリケーションを実現するということ、さらにはコマツ以外の建機も取り込んだソリューションに昇華させていくことは、相当困難な課題もあったに違いない。
さらに、米国のような国土が広い場所では、ドローンの電源が足りず、全体が取れないなどの問題も起きているということで、今後は違う考え方を持ち込む予定というお話を伺った。
これからも、スマートコンストラクションは発展していきそうだ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。