CESはもともとConsumer Electronics Showで、その略称であったのだが2018年に様々なテクノロジー製品が出展されるイベントになっていたこともあり、家電ショーではなくテクノロジーショーとしてシー・イー・エスが正式名称となった。
そして、コロナが流行した2021年以降、CESにおけるテクノロジートレンドはコンシューマーへの便益提供というよりも、社会課題解決、環境貢献にシフトした。
さらに、昨年は製薬メーカーのアボット、今年は農業機械メーカーのジョン・ディアが登壇し、トレンドの起点になっている。しかし、家電メーカーは引き続きその中心に存在し、テクノロジートレンドをリードする存在でもある。
サムスン
家電業界のリーダーでもあるサムスンは、昨年のキーノートのメイン・メッセージでもあった「Everyday Sustainability」の実態を明らかにした。
CEOが部門長を兼務するDX(Device eXperience)部門は2027年までに100%再生可能エネルギーで事業を行うとし、2030年までにNet Zero(炭素排出量ゼロ)とするとした。
また全社でも2050年までに全ての事業を再生可能エネルギーで行うようにシフトし、Net Zeroとすることを宣言。そして、リサイクル素材の利用、省電力メモリー、チップの開発と採用、AIによる電力効率化などを各製品に対応していく。
CES2023で発表された「SmartThings Station」はMatterに対応したスマートホームHUBだ。

家庭内には様々なメーカーの製品があるが、今後はMatterで異なるメーカーの家電もコネクテッドが可能となるため、いち早くそのHUBデバイスを開発した。
機能便益としては生活者の習慣を把握し、最適な家電制御をすることにあるが、電力効率化を同時に実現するものになっている。
様々な家電メーカーが参画するHome Connectivity Allianceを2021年に設立し、Matterを採用したことも、全ては便利以上にサステナビリティの実現のためだ。
パナソニック
同様にパナソニックも昨年発表した環境コンセプト「Panasonic GREEN IMPACT」を軸にした様々な取り組みを伝えた。
中でも高効率でサイズフリーのペロブスカイト太陽電池は、設置場所を問わないもので、ブースでも木のオブジェクトの葉に使われており、様々な場所と用途での利用が期待される。

また、充電式バッテリーグリップをベースに、髭剃り、バリカン、歯ブラシ等のヘッドを付け替えられるMULTISHAPEは、部材や充電池の重複を無くすことで、省資源・廃棄物の減少に貢献する。

昨年、サムスンは無線給電式のリモコンを発表していたが、これも乾電池利用・廃棄を削減することを目的としていて、このような考え方の製品開発が今後はスタンダードになっていくだろう。
LG
CESの名物でもある湾曲するOLEDでブースエントランスをデザインするLGは、競合他社と同じように環境関連の取り組みをアピールしていたが、新たな市場を創出するようなユニークな製品をいくつか発表した。
社内イノベーター育成も兼ねたLG Labsで開発されたものの中で、興味深かったのはスニーカーマニア向けのソリューション「Monster Shoe Club」だ。
昨年秋のIFAで発表されたLG Styler ShoeCaseを活用したNFTプロジェクトだ。
クローゼットに入れるだけで洋服をきれいにしてくれるもLGらしいユニークな製品だったが、そのコンセプトをスニーカーに持ち込み、入れておくだけでスニーカーをきれいにしてくれるボックスがLG Styler ShoeCaseである。
スニーカーをShoeCaseに入れるとメタバース上では、そのスニーカーと連動したバーチャルスニーカーが生成され、リアルスニーカーも含めてアプリで管理できる仕組みになっているという。

体験はできなかったが、新たなトレンドを自社の得意領域でトライしていくアプローチは、生活者の驚きと期待に繋がっていくはずだ。
LGでは色が変わる冷蔵庫も開発しており、音楽に合わせて冷蔵庫表面のパネルの色が変わり、部屋の雰囲気を大きく変化させていた。機能的な便益はないかもしれないが、毎日がちょっとだけ楽しくなる差別化は、くらしの質に影響を与えるのかもしれない。
LGの冷蔵庫のように成熟市場において誰もがわかるデザイン変化による差別化はアプローチの1つとしては有効だ。
自動車産業
家電と双璧ともいえる規模となった自動車業界も成熟産業であり、差別化が難しい状況になってきている。
環境アプローチは各社が推進し、その流れでEVが主力になってきている。また自律走行車も各社が推進しており、機能的には実現できているといっても過言ではない。
その一方で、先進的なEVや自律走行車でも機能による差別化が困難になってきている。
そもそも自動車業界はエンジン開発にノウハウが必要なことがあり参入障壁が高かった。EV化、エンジンのモーター化で開発期間が大幅に短縮されたこと、パーツの組合せで製品が完成することなどもあり、家電と同じような構造になってきている。
もちろん自動車ならではの法規制の問題、求められる安全基準などは高いハードルになっているが、ここ数年でさらに高品質の自律走行電気自動車を開発するハードルが下がった。
GMのEVプラットフォームUltiumは対となるエンジンモーター、そして制御するソフトウェアもセットで提供可能になっている。
また、自律走行プラットフォームとも言えるQualcommのDigital Chassisも注目のソリューションだ。GMの車にも採用されているが、CES2023で話題を集めたソニー・ホンダモビリティが発表したEV「AFEELA」にも採用されていることが明らかになった。

もともとソニーが持っていた光学カメラセンサーを中心とする映像処理技術や、ハイクオリティなAVテクノロジーは強みになるが、自動車のコアとなる部分の多くは外部から入手できる状況になっている。このような状況下でより分かりやすい差別化ができる領域はやはりデザインということになるのだろう。

BMWは昨年発表したiX Flowはモノトーンの外装変化に留まっていたが、CES2023で発表したi Vision Deeはフルカラーで車のボディ全てが変化する。
またフロントウィンドウは全面ヘッドアップディスプレイであり、サイドウィンドウもディスプレイ機能を有していた。まさに状況に合わせて自動車のボディで自己表現することができる。
i Vision Deeはデザインだけでなく、インテリジェンスも大きく進化しているという。人と同じように思考し、会話をすることができる。将来的には様々な表現ができる車体で、ノンバーバルコミュニケーションをすることを考えているのかもしれない。
2023のブランド価値創出のトレンドは、ソーシャル、サステナビリティ
2011年から継続してレポートしているCESだが、領域は大きく拡大し、コンシューマーテクノロジーに留まらず、ソーシャルテクノロジーショーの要素が強くなっているように思えた。
ブランドや企業価値向上に繋がるサステナブルな未来に向けた技術活用、事業戦略のアピールが明らかに増加しているためだ。
このようなトレンドが明らかになっている中でも、プロダクトを開発するメーカーは機能が提供する利便性だけでなく、その先にある人々を楽しませること、より良い暮らしを提供することをつくるために、アイデアの幅を広げ、実現手法も拡大し、ユニークなアウトプットを見せてくれている。
このような状況を踏まえるとこれからは、ソーシャル貢献は前提でありつつ、そこに生活者がワクワクするような期待を創出してくれるプロダクト、領域がトレンドになってくるのだろう。
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。