2017年6月8日、ボッシュ株式会社は東京、渋谷にて年次報告記者会見を行った。
ボッシュは、モビリティの分野に限らず、すべての事業領域において、IoTをリードするサプライヤーを目指している。現在、ボッシュのIoTソリューションは画一的なサービスからユーザーそれぞれの好みに合わせ、カスタマイズする方向へと向かっている。そのカギとなるのがAIだという。
本レポートでは、ボッシュにおけるAIの研究開発と事業への活用を紹介していく。
ボッシュ 2017 年次記者会見 レポート:
ボッシュの2017年度戦略 ボッシュにおけるAIの研究開発と事業への活用 ボッシュのAIを活用したスマート農業向けのソリューション
ボッシュは2017年にAIの研究センター、Bosch Center for Artificial Intelligence(BCAI)を設立した。BCAIは米国のパロアルト、インドのバンガロール、ドイツのレニンゲンに拠点を置いているという。このBCAIのセンター主査であるクリストフ・パイロ氏は、第一回目のレポートで取り上げたヴォルツ氏の講演に続き、ボッシュのAIの取り組みについての詳細を述べた。
ボッシュでは、自動車だけでなく、いわゆる「モノ」を「知能を持ったアシスタント」へと切り替え、自社製品のポートフォリオを差別化を図ろうとしている。そして、その試みとしてAIが重要な役割を担うと捉え、AIの研究に力を入れている。2016年にボッシュは70億ユーロを研究開発分野に投資した。
パイロ氏が主査を務めるBCAIでは、
・自社がもつ最高クラスのAIテクノロジーを製品に反映し、量産間近の製品レベルにすること
・学習機能を備え、ネットワークに対応したスマートな製品をボッシュ内で設計し、それを実現すること
を使命に活動をしているという。
BCAIでは、22分に1回のペースで新しいアイデアが生まれ、毎日20万ギガバイトものデータを収集し、AIを開発するための鍵としているという。
説明可能なAIの開発についても触れた。「ディープラーニングは有効な手法だが、ブラックボックスになるのでなく、状況を論理的に把握できるようにして意思決定に役立てる」という方針を明らかにした。
コネクティッドモビリティー分野
また、パイロ氏は自動運転を前提とした研究の1つとして、歩行者の挙動予測について紹介した。ディープラーニングを適用し、周囲の環境を、路面、自動車、歩道、歩行者、標識などのオブジェクトに応じて色を切り分ける。しかも、例えば歩行者であれば、上の写真のようにそのカタチをきれいに切り取ることができているのだ。
この結果から、歩行者の動きを把握して行動を確率的に予測し、それを避けて進むのか、手前で止まるかなどの行動を決定するという。更に、その判断の良しあしに合わせて報酬や罰を与えることで、AIがよりよく学習できるようにするという。
また、IoTをベースにしたエンジニアリングデザインでは、ビッグデータからAIを活用し、実際の使用状況から製品仕様を最適化し、試験に要する手間を削減することで生産性の向上につなげるという。例えば、電気自動車の1Km毎の制動回数を走行状況のデータを大量に集めてAIで分析した結果、「電気自動車はガソリン車に比べて制動回数が少ない」というプロファイルが得られた。このようなプロファイルを基に仕様を決定することで、的確な開発ができるようになるという。
そして、コミュニティ ベース パーキングではAIが、路肩にある駐車スペースの空き状況をリアルタイムでエンドユーザーに伝達する。従来、駐車スペース探すために平均4.5Kmも無駄に走行していたというが、これを短縮することができるという。今後、この予測精度を向上させることでドライバーの満足度を向上させる。
コネクティッドインダストリー
ボッシュは、工場の生産ラインのデータ分析にもAIを推進している。生産のボトルネックになっているテストステーション(品質検査をするための場所)では、そこでの品質検査にかかる時間を最大23%短縮したという。特に、昨今の高度に最適化された生産ラインでは、さらなる改善を行うにはAIの力が必要だという。
パイロ氏は、「ボッシュ製品は、ユーザの行動や好みを学習し、ユーザをAIがアシストすることにより、その価値を増すことになる」と述べた。ボッシュは、このようなインテリジェントでスマートな製品をつくっていくと語った。
次回のレポートでは、ボッシュがAIの活用により新たな領域に踏み出したことを象徴する農業向けのソリューションを紹介する。
ボッシュ 2017 年次記者会見 レポート:
ボッシュの2017年度戦略 ボッシュにおけるAIの研究開発と事業への活用 ボッシュのAIを活用したスマート農業向けのソリューション
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