「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、”ドライバーがいない”宅急便の実証実験

株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)とヤマト運輸株式会社は、4月24日、次世代物流サービスの実現をめざす「ロボネコヤマト」プロジェクトにおいて、自動運転による宅急便配送の実証実験を行った。

両社は、神奈川県藤沢市の約6kmの公道において「ドライバーが運転席に着座した」状態での自動運転走行を実施。また、「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン」(パナソニックの工場跡地)内の一部公道を封鎖し、レベル4の自動運転に相当する「ドライバーが運転席に着座しない」状態での走行も行った。

さらには、公道において4GLTE回線を用い、信号機の情報を自動運転車両が受信する技術実証を日本信号株式会社と共同で実施した。

DeNAとヤマト運輸が行う「ロボネコヤマト」の目的は、生活者にとってより利便性の高い、自由なライフスタイルを提供する新しい物流サービスの実現だ。

一方で、ヤマト運輸にはドライバー不足という課題がある。この両方の課題を解決するため、「ロボネコヤマト」では「ドライバーが宅配に関与しない」宅配サービスの実現を目指している。

ドライバーの宅配の関与には「運転」と「荷物の受け渡し」があり、この2つの自動化が求められる。2017年4月のプロジェクト開始以降、両社は「荷物の受け渡し」の自動化について、神奈川県藤沢市の一部地域で検証を続けてきた。

藤沢市で「ロボネコヤマト」を利用可能な住民の数は約61,000人(9月11日に対象エリアを拡大した後の人数)。両社は住民から意見を聴きながら、「ロボネコヤマト」を実装する上での課題の洗い出しなどを1年間行ってきた。

そして今年の3月31日に検証を終え、次は運転の自動化(自動運転)のステップへと移る。その実証実験が4月24日に行われた。

同日に開催された記者説明会では、この1年間のサービスの検証結果について株式会社ディー・エヌ・エー オートモーティブ事業本部 ロボットロジスティクスグループリーダー 田中慎也氏よりレビューが行われた。本稿ではまずその内容を、続いて今回の実証実験の内容について紹介していく。

ロボネコヤマト、99%が「今後も使いたい」

「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、「ドライバーが運転しない」宅急便配送の実証実験を実施
株式会社ディー・エヌ・エー オートモーティブ事業本部 ロボットロジスティクスグループリーダー 田中慎也氏

「ロボネコヤマト」のサービスには、「ロボネコデリバリー」と「ロボネコストア」の2種類がある。

「ロボネコデリバリー」は、宅急便の荷物を「欲しいとき」に「欲しい場所」で受け取りできるサービス。ユーザーはスマートフォンを使って10分刻みで配達時間を指定でき、到着の3分前にはスマートフォンに通知が届く。注文から最短40分で届けることが可能だ。

「ロボネコストア」は「ロボネコデリバリー」を拡張したサービスで、藤沢市にある複数の店舗の商品をインターネット上の仮想モールで一括購入し、自宅までまとめて配送する。

どちらも受け渡しの際は、ユーザーは自宅あるいは指定した場所に着いた車両の前へ行き、スマートフォンに表示されたQRコードを車両内にあるリーダーに読み込ませ、タブレットを操作して宅配ボックスから取り出す。

なお、2017年4月から行ってきたサービスではドライバーが運転はするものの、配車ルートについてはAIを使って導くため、ドライバーの経験や勘に頼らない仕組みとなっていた。

「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、「ドライバーが運転しない」宅急便配送の実証実験を実施

「ロボネコデリバリー」を利用したユーザー124人に対して行ったアンケート(インセンティブなしで実施)によると、「今後も使いたい」と答えた人が99%だった(上図)。

「ロボネコストア」でも138人にアンケートを行ったところ、「知人に勧めたい」と答えた人は97%だった。その理由として、「いつ届くのかがピンポイントで分かる」「10分単位で配送を依頼できる」「受け取りが簡単」と答えた人が多かった。

DeNAの田中氏は「この1年間で、ロボネコヤマトのサービス受容性は十分にあることがわかった」と述べた。

配送件数は最高で一日50件、3月は一日平均20~30件だった。リピート率は47.3%で、一度使った人の約半数は、もう一度利用していることがわかった。

不在率は0.53%。田中氏は「宅配における通常の不在率は20%程度。それを0.53%まで下げられたのは、オンデマンド宅配の成果だ」と述べた。一方、0.53%の人が不在だった理由は「忘れていた」、「家に来ると思っていた」などだという。

田中氏は、「ロボネコヤマトは省人化だけではなく、新たな雇用を生むきっかけにもなる」として、次のように述べた。

「ヤマト運輸の質の高い配送体制を維持するには、最適な配送ルートを組むこと、顧客とのコミュニケーション、運転などさまざまなドライバーのスキルが必要だ。そのスキルの壁も、ドライバー不足の原因の一つだ。しかし、ロボネコヤマトの仕組みがあれば、そのようなスキルは要らなくなる。それにより、もっと多くの人が物流業界で働けるようになる。実際に、ロボネコヤマトの車両を運転するドライバーの約半数が女性だ。宅配ドライバー未経験者も働いている」(田中氏)

ロボネコヤマト、次のステップは自動運転

「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、「ドライバーが運転しない」宅急便配送の実証実験を実施

DeNAとヤマト運輸は、4月24日、藤沢市の一部エリアで「ドライバーが運転しない」条件での「ロボネコヤマト」の実証実験を行った。主に、次の3つが検証された。

  • 公道において、ドライバーが運転席に着座した状態での約6kmの走行
  • 封鎖した一部の公道において、ドライバーが運転席に着座しない状態(助手席に着座)での走行
  • 4GLTE回線を経由して車両に信号情報を届ける実験

公道での自動運転走行、クルマと信号機の通信も

公道での約6kmの走行は、上の地図の①から⑥のルートで行われた(①で荷物を集荷してスタート)。「ロボネコストア」で宅配する荷物を2つの地域商店で集荷する実験も行った(④⑤)。このとき、ドライバーは運転席に座っているものの、基本的にハンドルは握らず、運転は行わなかった。

「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、「ドライバーが運転しない」宅急便配送の実証実験を実施

公道を走る際には、4GLTE回線を経由して車両に信号情報を届ける実験も行った(地図の③、上図)。

公道にある信号機に日本信号株式会社の専用無線装置を取り付け、信号情報をリアルタイムで車両へ配信。信号情報を受け取った車両は、それに応じて「進む」「停止」の制御を自動で行う。無線には4GLTE回線を用いた。

自動運転車が周囲の状況を「認識」する方法には2パターンある。一つは、LiDARやステレオカメラなどのセンサーをとりつけ、自動運転車自身で認識する方法だ。今回実験に使われたアイサンテクノロジー株式会社の車両にも、そのような自律的な認識が可能なLiDARなどのセンサー一式が装備されていた。

一方、無線通信を使い、クルマとクルマ、クルマとヒト、クルマとインフラなど、お互いの位置や速度を協調的に認識する方法がある。今後、スマートシティにおける一つの「デバイス」としてクルマを見た場合に、このような協調型の仕組みが重要になると考えられている。

今回は、信号機(インフラ)からクルマへの信号の送信が行われた。警察庁が定めた「信号制御器に接続する無線装置の開発のための実験に関する申請要領」に基づいて行われる、日本初の実証実験ということだ。

ドライバーが運転席にいない状態での自動運転

「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、「ドライバーが運転しない」宅急便配送の実証実験を実施

地図の①(辻堂海浜公園東駐車場)と⑥にて、ドライバーが運転席に着座しない状態(助手席に着座)での走行実験が行われた。⑥の「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン」内の実験においては、その走行の様子と、実際に荷物の受け渡しをする様子が公開された(写真)。

「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、「ドライバーが運転しない」宅急便配送の実証実験を実施
「ロボネコヤマト」のユーザーが荷物を受け取る様子(写真にある宅配ボックスは実証実験用で、実際のタイプとは異なる)
「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、「ドライバーが運転しない」宅急便配送の実証実験を実施
スマートフォン上に表示されたQRコードをリーダーに読み込ませると、自分の荷物を受け取ることができる。
「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、「ドライバーが運転しない」宅急便配送の実証実験を実施
「ロボネコヤマト」で使われる車両の中の様子。左のタッチパネルを操作し、宅配ボックスから荷物を受け取る。タッチパネルの下にあるのはQRコードを読み込むリーダー。

「住民が求める宅配サービス」を模索していく

「ロボネコヤマト」第2フェーズへ、「ドライバーが運転しない」宅急便配送の実証実験を実施
ヤマト運輸株式会社 設備管理部長 畠山和生氏

実証実験を終えたあと、囲み取材に応じたDeNAの田中氏は、「課題はある」として次のように述べた。

「宅配車は目的地に到着してから、住民が受け取りにくるまで待機しなければならない。ただ、道路の幅などによってはそれが難しい場合がある。また今回、宅配車は目的地に到着してから10分間待機するというオペレーションだったが、早く受け渡しが終わり、10分経つまで余った時間をどうするかなどの問題も出てきた。効率を上げるために考えなければならないことは多い」(田中氏)

また、囲み取材に応じたヤマト運輸株式会社 設備管理部長 畠山和生氏は次のように述べた。

「安全性をどう担保するかがいちばん苦労した。今回のノウハウは他の地域にも応用できるだろうが、今回のオペレーションが最適だとは考えていない。あえて、明確なゴールはかかげていない。住民がどのようなサービスを望むかが重要であって、私たちが設定するものではないと思うからだ。今後も、住民が求めるよりよいサービスを模索していきたい」(畠山氏)

DeNAとヤマト運輸は今後も自動運転による「ロボネコヤマト」の検証を続け、次世代の宅配サービスの実現を目指していくという。

【関連リンク】
ディー・エヌ・エー(DeNA)
ヤマト運輸(YAMATO TRANSPORT)
アイサンテクノロジー(AISAN TECHNOLOGY)
日本信号(Nippon Signal)
Fujisawa サスティナブル・スマートタウン

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