第1章~3章の構成を知る
第1章(経産省)は、3節に分かれています。第1節では、日本の製造業の足下の状況や課題について分析しています。足下の業績や経常収支の推移(稼ぎ方の変化など)、工場の国内回帰の実態、我が国の2つの主要課題である「現場力の維持・強化」(人材不足・品質管理)と「付加価値の創出・最大化」の分析など、日本の製造業の課題についてさまざまな切り口から調査が展開されています。
第1節の詳細については次ページで紹介しますが、ここで一つ補足をします。本文の第1節はさらに7つのセクションに分かれています。7番目のセクションでは「明治期創業のものづくり企業から得られるヒント」というユニークなテーマについて、約6ページにわたって語られています(本文p.74-80)。
前述の「総論」では、「日本は幾度となく危機を乗り越えて」と書きましたが、そのヒントを明治期創業の企業から得ようという狙いです。2018年は明治維新(1868年)から150年を数える年であることが背景にあります。「(明治期の創業から)変えていないこと、変えたこと」「長寿企業の強みと弱み」など5つの切り口から分析しています。
なお、このテーマは白書概要では書かれていません。こうした読み物記事や各所にちりばめられているコラムも、ものづくり白書を読む醍醐味だと言えます。

第2節では、第1節で明らかになった課題をふまえ、2つの対応策が提示されます。デジタル時代の新しい「現場力」の定義と「品質保証」体制の強化です。いずれにおいても、重要なポイントは「経営層の主導力と実行力」であることが示されます。そうした経営者の強力なリーダーシップのもと、デジタルツールを積極的に現場に取り入れたり、独自の人材育成を推し進めたりする企業の事例が、2節では合計24件、コラムとして紹介されています。
第3節では、「モノからサービスへ」という大きな変化と人材不足を日本の製造業が乗り越えるためには、「コネクテッド・インダストリー(Connected Industries)」の推進が不可欠であるとして、ここでも豊富な事例が紹介されています。
「統計データだけでは、本質を読み違えてしまう可能性があります。統計と事例を組み合わせることで、具体的なアクションにつなげられます」と住田氏は話しています。
また、「Connected Industries」を推進する上では、「サイバーセキュリティ」がきわめて重要になります。セキュリティに対する企業の意識や対応策についても、第3節ではくわしく議論されています。
第2章のテーマは「人材育成」です。厚労省がとりまとめています。第1節では日本の企業が人材育成(ものづくり人材、IT人材など)においてどのような取り組みを行っているのか、成果を上げている企業にはどのような傾向があるのかについて、企業のアンケートにもとづいた詳細な分析が展開されています。
「人材育成で成果ありと回答した企業はベテランの技能者が多く熟練技能者集団に近く、成果なしと回答した企業は労働集約的な作業者集団に近い」、「成果あり企業では人材の定着状況もよくなったと回答した割合が高い」といった具体的な知見に注目です。第2節では、それらの課題や傾向に対して、厚労省が取り組む施策について紹介されています。

第3章では、文科省が「ものづくりの基盤を支える教育・研究開発」について指針を示しています。その根幹にある構想が「Society5.0」です(後述)。第1節では、Society5.0の実現に向けた人材育成の方針、第2節ではさらにその中でも、「ものづくり人材」に焦点を当てています。そして第3節では、Society5.0に向けた研究開発のための指針や研究プログラムが紹介されています。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。