国内の産業用ロボットの導入台数は、製造業の従業員1万人当たり308台(2017年)で、現在も人手作業が大きな割合を占めており、生産性向上には人手作業を効率化することが重要である。現状では、監督者が目視で作業者を観測し、作業時間の計測や作業ミスの回数集計などを行っているが、目視による観測業務は、監督者への負荷が高く常時観測は困難だ。
また、作業者にセンサーなどを付けて常時観測する方法はあるが、作業者に負荷がかかるほか、品質管理の観点からセンサーなどの機器類を付けて作業をすることができない製造工程もある。このため、監督者にも作業者にも負荷をかけない効率的な作業分析ソリューションが求められている。
三菱電機株式会社は、独自のAI技術「Maisart(マイサート)」を用いて、カメラ映像から人の骨格情報を抽出・分析し、特定の動作を自動検出する作業分析ソリューション「骨紋(こつもん)」を開発した。
骨紋は、生産現場の作業者の動きをカメラで撮影すると作業内容を認識・特定し、作業時間や作業ミス・無駄を自動検出することで作業分析を効率化でき、生産現場の生産性向上に貢献する。以前より三菱電機は、カメラ映像に含まれる動き情報から作業者の異常作業を検知する「映紋」を開発しているが、今回はそれを発展させ、骨紋の開発に至った。骨紋の詳しい特長は以下の通り。
- 映像から作業時間や作業ミスを自動検出し、作業分析工数を10分の1に削減
- 作業者の動きの課題を見える化し、異なる監督者でも標準的な作業改善が可能
映像から抽出できる骨格情報は2次元の関節位置情報であるため、従来、製造工程などの複雑な作業の動作を認識することは困難だった。今回、AIを活用して作業者の骨格の姿勢や動きを事前に機械学習して三菱電機の工場において検証した結果、目視による作業認識率と同程度の作業認識率90%で特定できることを確認した。これにより、作業時間の自動計測や、手順抜け・間違いなどの作業ミス、無駄の自動検出が可能となる。
また、カメラ映像から作業分析を自動で行うため、作業者がセンサーなどの機器類を付ける必要が無く、作業者の負荷を軽減するとともに、監督者が目視で行っていた作業分析業務の工数を10分の1に削減した。従来は3日分の作業分析には約30日を要していたが、骨紋による自動計測・検出は3日で完了する。
なお、同技術は慶應義塾大学 理工学部電子工学科 青木義満教授および研究室の協力を得て開発された。
作業者の動きの改善は、無理・無駄などの体の動きの課題を見つけ出し、作業方法や作業環境の改善、無理・無駄のない動きを指導することで実現できる。しかし、製造工程の作業は複雑で体の動きも速いため、目視による動きの課題抽出が困難だった。また、監督者の経験や熟練度の違いによって抽出する課題や改善検討結果が異なるため、標準的な改善指導に至らなかった。
今回、カメラ映像から抽出した骨格情報を「動作経済の原則」(※)に基づいて分析することで、無理・無駄な体の動きの自動検出を実現した。これにより、目視では見つけられなかった体の動きの課題を見つけることができ、また、異なる監督者であっても同じ課題を見つけることができるため、属人性を排除した標準的な作業改善が可能となる。
今後、三菱電機の生産現場への試験導入を通じて実用化開発を進め、製造工程監視装置や作業分析ソフトウエアとして、2020年度以降、順次市場投入する予定だ。
※ 動作研究のギルブレス氏が提唱した、疲労を最も少なくして有効な仕事量を増やす、人間のエネルギーを効率的に活用するための約30項目からなる経験的な法則。
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