2020年7月27日、ウイングアーク1st株式会社のウェビナー「サプライチェーンから考える「データによる予測型経営」の実現解」が開催された。
本稿では、同ウェビナーでのジェムコ日本経営株式会社の栗栖哲郎氏の講演内容について紹介する。
栗栖氏は、市場変化やリスクに強いサプライチェーン・ロジスティクスの仕組みを作ることが重要だとした。
サプライチェーン・ロジスティクスとは何か
栗栖氏はまず、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、人の流れが抑制され、それに伴いモノの流れが激変しているとした。生産活動が思うようにできなかったり、消費の足が止まっていて普段は売れるようなものでも売れなかったり、買いたいけど買いに行けなかったりといった、作る側と消費する側のどちらにも影響は出ている。
ここでポイントになるのは、リソースだという。消費の増減や、生産体制、物流システムへのしわ寄せが発生した結果、リソースのアンバランス化を起こしてしまっている。
短期的には、こうした歪みを是正していくことが重要だが、中期的には先を読む力と変化に対応する力を持った、市場変化やリスクに強い、サプライチェーン・ロジスティクスの仕組みを作ることが重要になる。
サプライチェーン・ロジスティクスとは、品質・コスト・サービス・リスクという4つのバランスを取り、財務の視点で、売上拡大や収益性を改革するということだ。そのためには、顧客が欲しい物を欲しい時に欲しい分だけ、しっかり供給できる仕組みを整えていく必要がある。内部の供給するプロセスをしっかり組み立てていく。それは、現在だけではなく将来の視点で、様々なリスクに対して、モノを供給するということがブレないということが考えるべきポイントになる。
サプライチェーン・ロジスティクスを可視化することで、上位の視点としては、ROA(総資産利益率:Return On Assets)を高めることやロスを最小限にする事ができる。もうひとつブレイクダウンしたところでは、在庫や機会損失を減らす事ができるようになる。
方針や戦術に落とし込んでいくためには、業務やオペレーションを整流化していくということと、情報を整流化していくということと、組織を連携していくということが必要になる。キーワードとしては、連携と整流化だ。
モノをコントロールする、内部の供給する力を整えるということは、経営で相対的な優位性を作る上で最強の武器になるという。モノを作る・売るという力と並行して、モノを供給するという力をどう強化していくかということが企業の生き残りとして求められている。
しかし、実際には2つの壁があり、うまく行かないことがあるという。
気づきの壁
キーメトリクス、いわゆる可視化の部分で、気づきの壁があるという。
幹部からのある意味白けたトップダウンに対し、現場がその時だけの対応で終わってしまうということが多くある。例えば、在庫を減らそうという問題に対し、不要な在庫を廃棄するという外科的療法を行っても、そもそもなぜ不要な在庫ができてしまったのかという内科的治療法で、どうすれば無駄な在庫が生まれないかというところまでなかなか到達しない。
また、自分はやれている、という思い込みがある。日本の大きな企業の組織は、分業化された上できちんとやろうとする動きがある。その結果、個別最適の中での運用になってしまっている。自分のところだけはわかっているが、他部門のところはわからなくなる。原材料や中間在庫が少なくても、川下の販売サイドでは、作りすぎたものが溜まっているというケースもある。
更に、顧客のニーズだからという思い込みや誤解がある。欲しい時に欲しいものをという考えのもと、1個ずつタイムリーに届けることがお客様のためだと思いがちだが、実はお客様はそこまで求めていないことがある。思い込みによる過剰スペックのためにコストが上がってしまう。
実行の壁
実行の部分でもギャップが生じ、上手く行かないことがあるという。
実行の部分でも組織の壁はある。大きな組織ほど、分業的に組織を組んでいく。その結果、個別組織の中でルール化してしまい部分最適が起きる。作る人、売る人、運ぶ人、それぞれの狙いの中でベストを尽くし、利害関係が一致しない場合、足を引っ張りあってしまうことがある。
また、必要な情報が共有されていないことがある。会議をしたり資料を作ったりして、情報を共有しようとする動きは一般的にあるだろう。しかし、システム化やデータ化されていない現場の事実や事象などを理解し、意思決定や判断するための本当に必要な情報は、共有化されておらず実際は機能していないことが多い。
こうした必要な情報があったとしてもマネジメントが未整備なため、必要な情報を見て意思決定をする機能が無いことがあるという。コントロールができてもマネジメントができないということだ。
サプライチェーンによるロスを最小化するためのアプローチ
次に、栗栖氏はサプライチェーンによるロスを最小化するためのアプローチを紹介した。まずは社内の局所的なサプライチェーンを可視化し、経営へのインパクトを見える化することが重要だとした。
まず、可視化を行い、それぞれ何をやっているか、どんなプロセスがつながっているかという俯瞰図を作るという。ジェムコ日本経営では、サプライチェーンにおいて考えられるロスの視点を提供し、ディスカッションをしながらどんなサプライチェーン上のロスがあるのかということを抽出している。自分たちが感覚的にわかっている悪い部分について、数字で可視化することで、自己認識することができる。
次に、可視化されたロスに対して、本来なぜそんなことが起きているのかを明確にする。明確にするための手法としてはなぜなぜ分析を行っているという。プロジェクトを作って、集中的に他部門の立場に立って考えてみることが重要だ。普段の業務は自部門のことを肯定しながら進めている中で、自分のやっていることを人の立場で、否定的に捉えるのは難しいからだ。
この掘り下げをうけて、実際のプロセス上のどこで何が悪いのかという関連や位置付けについて、全体を俯瞰して見ることで、何が悪いのかを明確にしていく。
こうした分析的アプローチによる課題抽出と合わせて、デザインアプローチからの課題抽出も行うという。現在がどうかではなく、何を目指しているのかというイメージを明確にするのだ。この2つの方法から抽出された課題について、共通項を束ね、どういうことをやったら良いのか試作を構造化していく。その試作の結果による経営へのインパクトを予測していくということが重要だ。
ロジスティクス機能強化のためのアプローチ
強いサプライチェーン・ロジスティクスとは、変化に対応する能力と先を読む能力があるということである。強いサプライチェーン・ロジスティクスを作るためには、先を読んで準備する、準備をしていても何か問題が起こったときにシフトチェンジするという2本柱をどう組み立てるかということが重要である。
ロジスティクスを構成する要素として、自社で行うインソースなものと得意な人に任せるアウトソースなものがある。モノを運ぶ、ストックする、倉庫にモノを出し入れするといったような主要な機能に対して、どこをインソースにしてどこをアウトソースにするのかを見極める必要がある。将来のリスクを考慮してその配分を最適になるよう見極めることが重要である。
ロジスティクスのネットワークを作り込んでいく上で、KPIを軸に、どのようにモノを流していくのかということを、競合他社や異業種等と比較した上で設計していく。設計したネットワークを、リソースのコントロールを行いながら運用していく。栗栖氏はルールを最適化するという視点が重要だとした。
参考:このイベントの他の記事は次のリンクから見ることができます。
ウイングアーク1st株式会社のウェビナー「アフターコロナに挑む製造業。デジタルの活用で、変化に強く儲かる工場を考える2days」
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。