近年、少子高齢化にともなう労働人口の減少が深刻化する中、各社は多種多様なセンサーからデータを収集・利活用することで、製造現場の業務効率化などDXの実現に向けて取り組んできた。このDXの流れはコロナ禍においてさらに加速しており、製品検査や設備保全においても目視や聴音といった人の感覚に頼った従来の検査や点検から自動化・省力化することが求められている。
特に、多様な情報を持つ音を活用した聴音点検に対するニーズが高まっているが、後継者不足の中でいかに品質トラブルや設備故障の予兆となる異常音の判定に必要となる熟練者の経験やノウハウを継承するかが喫緊の課題となっている。
株式会社日立製作所(以下、日立)は、製造現場における製品検査や設備保全を対象に、製品の打音や設備の稼働音などの音響データから異常音を検知するソリューションを11月2日から販売開始する。
同ソリューションでは、製品検査と設備保全の利用用途に合わせて、以下の2つのサービスを提供する。
- 音による製品検査を可能とする、IoTデータモデリングサービス – IoTデータ監視サービス
- 音による設備保全を可能とする、設備点検自動化サービス – 異音検知システム
同サービスは、まず製品の聴音検査を対象に、製品の稼働音や加工音、打音などを音の特徴や製造現場の環境にあわせた市販の汎用マイクで収集する。次に、AI技術により音源を分離し雑音を除去するとともに、対象となる検査音の特徴量(※)を抽出し、音の異常度を算出・可視化することで異常音を検知する。
また、通常、音分析においては、稼働音の変動や周囲の環境音の変化など条件や時間により音のブレが大きいという課題があった。日立のAI技術ではそのような音のブレに対応しながら、幅広い条件下で異常音を検知することが可能だという。これにより、空調の強さなどが変化する環境にも導入でき、また、リアルタイムに収音と判定を行うため、製品検査工程における迅速な検査結果の確認や不良音の検知が可能だ。
同サービスは、設備の点検を対象にマイク機能を搭載した日立独自開発のレトロフィット無線センサーで設備の稼働音を収集・解析し、異常音を検知する。レトロフィット無線センサーは、日立の自社工場での実績・ノウハウをもとに実用化したもので、電池駆動・防水防じんかつ無線通信が可能で、電源や通信ケーブルの設置が難しい屋外や高所の現場でも容易に導入できる。
さらに、日立独自の電源制御技術を適用した省電力設計により、電池による5年間連続稼働を実現する。分析にはAI技術を適用し、正常時の音響データをAIに学習させるだけですぐに音の異常を可視化する。日立は、2018年からアナログメーターの目視点検を自動化するカメラ機能を搭載したレトロフィット無線センサーを販売しており、今回のマイク機能を搭載したレトロフィット無線センサーとの併用により、設備点検自動化の範囲を拡大することができる。
同ソリューションにより、検査員の経験やノウハウに基づいて現場で行われていた判定をデータ解析に基づいた定量的な判定により補完することで、安定した品質の維持や、遠隔での設備監視などが可能となる。また、AI技術を使った解析によって検査員では気づかなかった新たな特徴まで検知できるようになるため、検査の品質をより向上させ企業の品質保証体制の強化を支援することができる。
今後日立は、同ソリューションの継続的な強化を図るとともに、既存のIoTデータモデリングサービスなどと連携することで音響以外のデータも利活用し、企業のオペレーションコストや製造プロセスの継続的な改善までを支援していく。
※1 特徴量:対象の特徴が数値化されたものであり、機械学習のモデル構築に必要なデータ。
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