ソラコムが主催するIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2021」が、6月22日〜6月24日の3日間オンラインにて開催された。
本稿ではカンファレンス2日目、「製造業発!現場をつなぐIoT」と題し、ソラコムのサービスを活用してグローバル展開をしている製造業の事例として、フジテックと三菱重工の取り組みについて紹介する。
登壇者はフジテック株式会社 デジタルイノベーション本部 テクノロジー研究部長 小庵寺 良剛氏(トップ画中央)と、三菱重工株式会社 原子力セグメント機器設計部装置設計課 水野 直希氏(トップ画右)、ファシリテーターはソラコム ソリューションアーキテクト 横田 竣氏(トップ画左)が務めた。
グローバル展開におけるSORACOMサービスのメリット
まずはフジテック小庵寺氏より、ソラコムサービスを活用したエレベーターの遠隔管理システムについて紹介された。
フジテックは、昇降機(エレベーター、エスカレーター、動く歩道)の専業メーカーで、グローバルにも事業展開している企業だ。
今回紹介された遠隔管理システムは、世界中にあるフジテックのエレベーターを、モバイル通信を活用して接続し、稼働状況を監視するというものだ。これは、故障やその内容の早期把握、復旧や保守計画の策定を行うために活用されている。
このサービスは、1988年より日本国内の固定電話網を利用して開始され、2015年にグローバル拠点で各国の携帯電話網を利用したサービスへと展開されている。
しかしグローバル展開は課題も多く散見された。当初の構成では、海外の現地キャリアを採用しているため、各拠点に監視センターを設置しなければならず、大規模な拠点に限られたものとなっていた。また、全体の状況をまとめて把握するのが困難な状況であった。
そこで、2018年よりソラコムサービスを採用した遠隔監視システムを開始した。
遠隔管理システムの構成
ソラコムサービス導入後の構成は以下の通りだ。
まずエレベーターに通信用のユニットを設置し、そこにソラコムのSIM、SORACOM Airを挿入する。そしてソラコムの閉域網を使い、SORACM VPC、SORACOM Canalを経由し、AWSに接続。AWSでは、EC2のGatePeerServerで受け、RDSにデータを蓄積。EC2Serverで利用者向けのサービスシステムを提供している。
こうしてソラコムサービスを導入したことにより、各国共通の標準構成での仕組みを構築することができるため、同じ環境のままで新たな拠点に展開することが可能となった。
ソラコムサービス導入のメリットについて小庵寺氏は、「従来構成では現地での機器の調達、作業が必要であったのが、コンソール画面から数クリックで環境を構築することができる。また、将来を見越したオーバースペックな機器の購入も必要なくなった。」と述べた。
さらに、「構築期間においても当社では着手から2週間で環境構築することができた。また、台数の面でも1台から始めることができるため、規模に応じて最小限のスペックで開始することができる。」と、スモールスタートからスピーディーにPoCを行い、整ったところで一気にスケールすることができるという点も大きなメリットだという。
実際フジテックにおいても、導入当初は小さく始め、動くモノを現場のエンジニアに見てもらいながら、IoTの活用に向け具体的に話を進めていった。
他にも、「遠隔監視を通じて得たデータの全てがAWS上に集約され、各国の情報をまとめて一覧での表示が可能。」「海外拠点に新たに設置する場合においても、画面を見ながらリモートで説明することができ、現地スタッフとの理解を得てシステム導入することができる。」といった点をメリットとして挙げられた。
標準規格を超えたフジテックの工夫
ソラコムが提供する標準規格を活用して上記のことが行えるようになったが、運用していく中で起きた課題に対してフジテックはさらに改善を加えている。
1つ目がシステム設計時の工夫だ。サービス開始後、ソラコムとエレベーターの接続において無通信の状態が続くと、キャリア側から切断されてしまうという事例があった。そこで定期的なpingを実行し、通信を維持するような仕組みを実装した。
また、ネットワークの調子が悪い時の備として、SMSを使ったデバイスの制御の機能を実装した。通常のネットワークに繋がらない場合でも、SMSであれば繋がるという特性を活かした改善だ。
2つ目は、装置を設置する際の工夫だ。エレベーターを設置する昇降路や機械室は、周りが壁に囲まれていて電波が弱いというケースがある。そうした場合を想定し、設置する場所の電波環境をチェックし、場合によっては電波強度を綿密に特定しながらアンテナの設置場所を選ぶ。
3つ目は、運用開始後の工夫だ。設置しているエレベーターのネットワーク環境・接続環境を容易にモニタリングできるよう、自作pingツールを構築し、各現場にpingの実行結果を一覧で表示させるような仕組みを構築している。
また、アジアの国々など国境を接している国に関しては、他国のキャリアを掴んでしまい、ローミングの通信が発生するというケースがあった。そこで通信コストを抑えるため、国内のキャリアを繋ぐ設定を行っている。
機能拡張による今後の展開
さらにフジテックは、遠隔監視システムと連携した機能拡張を行っている。
1つ目は、「All on Maps」という統合地図システムだ。これは、既存のシステムにGoogle Map APIを連携し、地図上に表示させるというものだ。営業から保守までの情報を、地図を入り口に得ることができるシステムとして構築された。
現在このシステムは国内向けに展開しているが、今後はグローバルにも展開していくことを検討しているという。
2つ目がビッグデータ分析、異常要因予測といった取り組みだ。
遠隔監視からは、エレベーターの稼働ログやエラーコードといった情報が集約され、データとして蓄積されている。ここに現場を訪問した点検の作業履歴や部品構成、使用情報などの情報を加え、AIと機械学習により分析することで、異常要因を推測できるシステムの構築を進めている。
複数のソラコムサービスを活用し、点検ロボットを管理する
次に三菱重工水野氏より、ソラコムサービスを活用したプラント自動巡回点検ロボット「EX ROVR(エクスローバー)」について紹介された。
三菱重工はロボット開発において、原子力プラントの検査をベースとし、火災や事故・災害の救護など、過酷な環境で活躍するロボットの開発を行ってきた。
そうしたロボット製品の最新がEX ROVRだ。EX ROVRは、引火性のガスを蓄えている環境下においても利用することができる、防爆仕様のプラント巡回点検ロボットだ。
「EX ROVR」の構成
利用方法と構成は以下の通りだ。
- 点検ルートと点検内容を、オペレーターが遠隔操作により、ロボットの映像を見ながらリモコン操作し、シナリオを作成する。EX ROVRにはSORACOM Airが搭載されており、SORACOM Gateを利用して遠隔操作端末との一対一の通信をしている。
- ①で作成したシナリオを、遠隔操作端末の識別や認証を行うことができるSORACOM Beamを利用してクラウドにアップロードする。ロボットに対して実行指令やシナリオの実行データを送る際には、IPアドレスやロボットの通信セッションを自動で管理してくれるSORACOM Napterを利用している。
- EX ROVRは点検で収集したデータをSORACOM Funkに対してアップロードし、Lamdaでデータを振り分ける。Funkを活用することでどのロボットがデータを送ってきたのか識別することができる。
- 遠隔の管理者は、点検中にEX ROVRが正常に稼働しているか、ダッシュボードから確認することができる。ここではGrafanaサーバーをAWS上に立てて利用している。
セキュリティを担保しながらグローバルに展開していく
そして水野氏は、ソラコムのサービスを使うメリットについて説明した。
まずプラントの情報は機密性が高いため、ソラコムサービスでは全ての通信でセキュリティが担保されているという点だ。加えて暗号化することによるオーバーヘッドや通信の遅延が少ないことも、遠隔操作する際には重要なポイントとなってくる。
また産油国は世界中にあり、EX ROVRは様々な国と地域で活用されることが想定されている。そうした際にソラコムの通信網は世界的なカバレッジがあるため、どの国のプラントでも同じネットワーク構成にすることができる。
そしてソラコムサービスは設計を変更しても簡単に置き換えることができるため、試行錯誤をしながら開発を進めることが可能だ。
そして今後は、ロボットが蓄積したデータの活用を視野に入れ、パートナーを募集していく、とした。
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