IPC(Industrial PC:産業用PC)とは、「産業用途に使用されるPC」のことである。
主に製造現場のデータ収集や制御、見える化、またインフラの管理、医療機器などに使用されている。
産業用PC(IPC)は、オフィスなどで事務処理用途として使用されているPC(以下、民生用PC)と比較して、長時間かつ過酷な環境で使用されることが想定されている。
実際にどういうシーンで使われているか、その特徴や、産業用PC(IPC)を使うメリットなどについて解説する。
本記事は、オムロン株式会社の協力のもと制作しております。
目次
産業用PC(IPC)が使われるシーン
製造現場において、IPCが期待されている大きな要因の1つに、工場のデジタルが求められているということがある。工場のデジタル化を行い、現場のデータを活用することで、生産性を向上させることが可能になる。
IPCはデータを扱うことに長けているので、工場のデジタル化を目指す際に利用されるシーンが増えてきている。
PCは高いカスタマイズ性を特徴として持っているので、IPCも用途や場所に応じた仕様に変更し使われている。
現場でデータを確認する
まず、現場で生産ラインからのデータを確認する目的で使用されるIPCだ。
生産計画や生産ラインの稼働率、設備の異常情報などを表示させるなどの利用が想定される。データをある程度リアルタイムに確認できることで、情報共有や業務効率化をすることが可能だ。作業者がデータを確認することでモチベーションを向上させるという効果も期待できる。
データを収集し可視化するという点では、民生用PCと使用方法は大きく変わらない。
産業用PC(IPC)で、画像処理や外観検査を行う
昨今のエッジコンピューティングの流れから、現場に配置されたIPCで外観検査などの重い処理をするケースも増えてきている。
細かなキズや欠品まで見逃さないために、外観検査などで使用するカメラは高画質化しており、撮像データは大容量化している。
高負荷な状態でも高速に検査を行うためにIPCが使用されているケースがある。
製造設備を制御する

製造現場では、PCは、PLCと比較すると不安定なイメージや、高速な処理が苦手というイメージを持たれている場合が多かった。そのため、特に日本国内の製造現場では、制御のためにIPCを使うという考えは浸透せず、PLCによる制御が広く普及していた。
しかし最近では、IPCを構成するプロセッサやOSは、そんな従来のイメージを払拭する性能のものが登場してきている。長期供給が可能になっていたり、PLCと同程度の耐環境性を持ち安定動作が可能になっていたりする他、価格もリーズナブルになってきている。
つまり、実際にはIPCでモノづくり現場の制御を行うことが十分可能になっているということだ。
さらに、多品種少量生産やパーソナライズ化された生産を行うためには、PLCが得意としている高速で安定性の高い制御だけでは足りず、AIやIoTを使ったデータ活用や、製造現場以外のシステムとの連携が必要になってきている。PCが元々得意としている、データの処理や他システムとの連携を活かすために、IPCによって製造現場を制御するという動きが出てきているのだ。
産業用PC(IPC)が製造現場の制御を行うために求められる特徴
IPCが製造現場の制御を行うためには、以下のような特徴を満足している必要がある。
リアルタイム性
製造現場の制御はリアルタイム性が重要である。ここでのリアルタイム性とは、常に時間的制約を守って処理を行うこと、また、処理にかかる時間を予測できるということである。
普段は処理速度が早くても、時々処理が遅くなってしまうことがある場合には、リアルタイム性がないということになってしまう。
リアルタイム性を実現するための役立つ機能を提供するオペレーティングシステムを、リアルタイムOS(RTOS)と呼ぶ。RTOSはリアルタイム性が高い処理に優先度を設定することができ、優先度をベースにシステムの応答性を高めることができる。
製造現場の制御を行うIPCには、このRTOSが搭載されていることがある。
拡張性
IPCを製造現場に導入する場合、製造現場を新規で立ち上げるか、すでにある製造現場に対して後付けでIPCを導入するかという2パターンが想像できる。
どちらの場合も製造現場には様々な設備がある。特に、後付けでIPCを導入する場合は、IPCとの接続性などは全く考慮されていない設備だろう。
製造現場の制御を行うためには、IPCが拡張性を持ち、様々な設備と接続する必要がある。IPCは、必要に応じたインターフェースやドライバが用意されていたり拡張できたりする。
長期安定供給
民生用PCは、次々と新しいモデルやOSが登場し、入れ替わるように古いモデルやOSのサポートは終了していく。
一方、製造現場で使用されるIPCは、10年以上安定して稼働することが求められる。製造現場では、一度生産ラインを立ち上げたら、長期間にわたって生産を続けるためだ。そのため、民生用PCと比較して、一度販売した製品は、長期供給が必要になる。
万が一故障してしまった場合でも、すぐに対応できるように、交換部品なども安定供給する必要がある。
耐環境性
製造現場では、様々な設備を使用し、材料を加工し完成品の生産を行うため、高温多湿や粉塵、電磁波など、様々な環境が想定される。
また、プレス機などは、加工時に大きな衝撃を与えるため、製造現場では、大きな振動や衝撃が加わることがある。
オフィスなどでの使用が想定されている民生用PCとは異なり、外部環境による劣化を防ぐ必要がある。
高信頼性とメンテナンス性
PCはハードウェアとソフトウェアが一体化であることから、単機能の製品と比較して信頼性が低くなるとされている。また、高速化や高機能化の影響によって、システムが複雑化しており、故障の機会が増えてしまっている。
しかし、製造現場の制御を行う場合、フリーズや故障が起きてしまうと生産が停止してしまう。
IPCでは信頼性を担保するために、信頼性の高い部品を採用したり、民生用よりも厳しい設計基準で設計されたりしている。
連続稼働を想定した設計
民生用PCは、使わないときにはシャットダウンをするという想定で設計されているが、IPCは止まらない製造現場で使用するため、稼働し続ける想定で設計される必要がある。
そのため、IPCは、使用する部品も長寿命のものを採用したり、万が一の場合にも装置を停止させない設計がされている。
産業用PC(IPC)で製造現場の制御を行うメリット
製造工程では、生産している製品が高度化しており、消費者の購買行動も変化してきている。
製品が高度化するということは、その製品を作る生産工程も高度化するということである。データを確認しながら設定を変更するような、柔軟な生産を行うことが求められている。
また、消費者の購買行動の変化に応じてタイムリーに製品を提供する必要がある。店舗で収集したデータや購買情報と製造現場を連携させ生産を行う必要がある。
こうした柔軟な生産に対応できるのがIPCの特徴である。
これまで、現場からの要求をハードウェアの種類で解決してきたPLCなどのコントローラと異なり、PCアーキテクチャの特徴を活かし、様々な機能をソフトウェアで提供し、データを活用することができるIPCは、スマートファクトリーを実現するために必要であると言えるだろう。
ソフトウェアを使用することで様々な機能を使用し柔軟な制御ができるようになる
IPCが製造現場にあることで、様々な機能を製造現場で使用し、柔軟な制御が可能になる。IPCも民生用PCと同様に、ソフトウェアをダウンロードするような形で新たな機能を導入することが可能だからだ。
PLCは各メーカーが独自の発展を遂げてきたという背景もあり、メーカーの垣根を超えた拡張機能というものはあまり開発されなかった。
IPCであれば、PCの理解があれば、サードパーティー企業が、ソフトウェアを作成し導入することができる。これにより、新たな技術が製造現場に導入されやすくなる。
製造現場でデータを活用した制御ができるようになる
IPCは、データ処理を得意としているため、製造現場で収集したデータをその場で処理しながら、そのデータに基づいた処理を行うことが可能だ。
半導体の製造工程では、プロセス制御をPLCではなく、IPCによって行ってきている。他の分野においても、これまで活用できていなかったデータから制御を行うことが可能になるだろう。
産業用PC(IPC)を販売しているメーカー3選
株式会社コンテック
コンテックは、FAを培った技術を応用し、産業用PCを提供している。
日本電気株式会社
NECは、民生用PCでの実績があり、産業用PCでも様々な製品を販売している。
オムロン株式会社

ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって、
- 産業用PC
- IPC マシンコントローラ
- IPC RTOS コントローラ
- IPC プログラマブル多軸モーションコントローラ
という4種類のIPCを提供しており、用途や顧客の要望に応じて使い分けをすることができる。多彩なインターフェースやメンテナンス性を持ち、産業用途に特化したIPCである。
センサーやアクチュエータといった、現場で使用するデバイスも開発していることがオムロンの強みであり、現場からクラウドまでをシームレスにつなぐことができるという。
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。