AIoT のパワーを解き放て―― AIとIoTを統合したAIoTを今すぐ導入すべき理由とは?

ものづくり現場の人材育成から創造されるエコシステム ―ファクトリーサイエンティスト協会 川野氏 インタビュー

一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会は、ものづくりの現場におけるデジタル化を真に推進できる人材を育成すべく、2020年4月に設立された教育機関だ。

年に4回、「ファクトリーサイエンティスト育成講座」を開催し、IoTを活用してものづくりの現場で課題解決できるデジタル人材「ファクトリーサイエンティスト」を育成し、コミュニティの構築を目指している。

本稿では、ファクトリーサイエンティスト協会を発足した背景や「ファクトリーサイエンティスト育成講座」の具体的な内容、今後の展望などについて、ファクトリーサイエンティスト協会の理事であるベッコフオートメーション株式会社 代表取締役社長 川野俊充氏にお話を伺った(聞き手:IoTNEWS 小泉耕二)

デジタル技術を現場で活用するために必要となる人材育成

ファクトリーサイエンティスト協会発足は、「現場の人に使われなければデジタル技術は機能せず、普及しない」という問題意識から始まった。

日本の事業者は、99.7%が中小規模事業者であり、大規模な投資が必要となるシステムを導入するのは難しい。そこで、必要なポイントにだけ適応することができるウェブサービスやデバイス、ツールが登場しているが、なかなか導入が進まないのが実情だと川野氏は語る。

その背景には、実際にその製品やサービスを導入した際に、何の役に立つのか、本当に売り上げが伸びたり生産性が上がったりするのかといった、価値の実感を経営者が持てないという課題があるという。

ものづくり現場における価値とは、生産性や品質の向上、コストや労力の削減、最終的には売り上げの向上などが挙げられるだろう。こうした価値創出のために必要なツールを選定し、実装することができる人材はまだ少ないのが実情だ。

そこで、ファクトリーサイエンティスト協会代表理事である由紀ホールディングス株式会社 代表取締役社長 大坪正人氏を筆頭に、想いに共感する理事陣が集まり、一般社団法人として現場起点による人材育成を行っているのだ。

現在ファクトリーサイエンティスト協会の卒業生は600名弱、2030年には4万人という目標を掲げている。

3つの力を確実に身につけていく5週間

ファクトリーサイエンティストに必要な力は大きく3つ。データを集め、加工し、整理する「データエンジニアリング力」、データを分析して意味を抽出し、知識をつくる「データサイエンス力」、現状を共有し合意形成を図り、戦略立案・プランニングを立て実際にチームで進めていく「データマネジメント力」の3つだ。

ものづくり現場の人材育成から創造されるエコシステム ―ファクトリーサイエンティスト協会 川野氏 インタビュー
ファクトリーサイエンティストに必要な3つの力

この3つの力を身につけるべく、5週間の講座を通し、受講者は自社の課題をIoTで解決していく。

第1週では、電子デバイスを制御する「Arduino」(マイコンボード)の説明や、ワイヤレス通信接続の方法などのレクチャーを受ける。そして、実際にセンサをマイコンボードに接続するなどして、「Arduino」を用いたIoTアプリケーションを作成する。

ものづくり現場の人材育成から創造されるエコシステム ―ファクトリーサイエンティスト協会 川野氏 インタビュー
講座で使用される教材キット

第2週では、クラウドサーバシステムの構成について学ぶ。そして、IoTデバイスから送られたデータを受け取るシステムを、クラウドサービスを活用して実際に構築する。

第3週では、BIツールを活用し、データの解析をしたり、グラフにしたりと、データサイエンスの技法について学ぶ。

第4週では、設定した閾値を超えた際にアラート通知させるなどのアプリケーションを実際に開発する。

ものづくり現場の人材育成から創造されるエコシステム ―ファクトリーサイエンティスト協会 川野氏 インタビュー
4週間を経て構築するアプリケーションのシステム構成図

例えば、設定した温度を超えた際に扇風機の電源がオンなり、下回るとオフになるといった自動制御ができるようになる。

単純な制御ではあるが、活用次第ではとても有効な自動化だ。実際にある受講者は、暑くなるとオーバーヒートしてしまうコンプレッサーが置いてある部屋の温度を測り、暑くなると冷却ファンがオンになるシステムを開発した。

ものづくり現場の人材育成から創造されるエコシステム ―ファクトリーサイエンティスト協会 川野氏 インタビュー
受講者による制作例。冷却ファンを自動で回すシステムを構築。

コンプレッサー自体に温度調節機能が付いているものに買い換えるとなると数百万の設備投資が必要となるが、この方法であれば、既存の冷却ファンで効率的にオーバーヒートを防ぐことができるのだ。

最終週である第5週は、4週間の講座を通してできあがったアプリケーションを基に、経営者へのプレゼンを想定し、どのように役に立つのかを全員に発表してもらう。

これは自分のプレゼンを行う場であると同時に、自分以外の全員のプレゼン内容を聞ける場でもあるということだ。

受講者は様々な業界から参加しているが、現場の課題は似たような悩みであることも多いのだと川野氏は言う。

「テーマは同じでも別の機械を活用している人がいたり、業界は違っても参考にできる上手なやり方を実践している人がいたりと、課題に対する様々なアプローチを学ぶことができます。

また、単純に身の回りの無駄をなくしたという自己満足で終わるのではなく、企業経営に貢献するフィードバックができる人材を育てるためにもプレゼンは重要です。ですから、第5週の課題発表は、4週間の講義の何倍もの価値があると考えています。」(川野氏)

ものづくり現場の人材育成から創造されるエコシステム ―ファクトリーサイエンティスト協会 川野氏 インタビュー
組織の中でのファクトリーサイエンティストの役割を表した図

また、フィードバックを受けた経営者も、具体的な価値を実感した上で判断を下すことができる。

ある受講生は、FAXで受け取っている注文書の受信に気づかず、顧客対応に漏れが発生していることに課題を感じていた。

そこで、FAXが来た際に受信ランプを点灯させ、スマートフォンと連動させる通知システムを構築した。これにより、FAX受信の見逃しが減り、すぐに対応することができるようになった。

ものづくり現場の人材育成から創造されるエコシステム ―ファクトリーサイエンティスト協会 川野氏 インタビュー
受講者によるFAX受信見逃し防止システムの制作例

通知システムが実際に機能することを実感した経営者は、通知機能を搭載した新しい複合機を導入したのだという。

つまり、役に立つシステムかどうかを試し、効果を実感してから設備投資を行うことができたのだ。

「これまでは、うまく機能するかどうか分からないままにツールを導入してみるしかありませんでした。特に大型の機械や複数台に渡る設備であれば、コストも大きくなります。そこで、簡単に今ある設備にIoT機能を追加してみて、現場で機能するかどうか確認してから本格導入することができるということは、大きな価値になります。」(川野氏)

メリットを最大化させる講座づくり

こうした5週間にわたる講座は、第1回目は4泊5日の合宿形式で実施されたのだが、新型コロナウィルスの影響でオンラインに変更せざるを得なかったのだという。

合宿ではチームワークを形成しやすく、対面ならではのメリットがあったものの、現在のようなオンライン形式の講座においてもメリットは十分にあるのだと川野氏は言う。例えば、自社の工場から講座を受け、実際に機械を触りながら受講できたり、海外の工場に派遣された日本企業の方が参加できたりと、オンラインだからこそ裾野が広がったのだ。

現在はハンズオンも全てオンラインで実施しているが、受講が始まる前に事前に機材を送り、立ち上げの方法をフォローしたり、自由に質問を受け付けるオフィスアワーを設けたりと、様々な工夫がなされている。

今後は、合宿とオンラインを組み合わせた講座を構成していきたいとしている。

また、ハンズオンの際は講師陣だけでなく、複数のTA(Teaching Assistant)がチームに分かれた受講生をそれぞれサポートするのだが、このTAにはファクトリーサイエンティスト協会が卒業生に仕事として発注している例も出てきている。

「受講生の方は受講した内容を基に自社でスキルを活かすほかにも、新たな仕事が受注できるとなると、経営者もよりメリットを感じてもらえると思います。出来る限り良い循環が生まれるよう、工夫して運営しています。」(川野氏)

講師に関しても、現在は工作機械を備えたラボでワークショップを行うFabLab(ファブラボ)を日本で初めて設立し、日本にデジタル・ファブリケーションの流れを持ち込んだ慶應義塾大学 環境技術学部教授の田中浩也氏が協会理事であることもあり、ファブラボのプロフェッショナルな講師人が担っているのだが、今後は卒業生が講師を担えるような循環も生み出したいとしている。

垣根を超えたコミュニティ形成により日本の製造業を強くする

ファクトリーサイエンティスト協会のビジョンについて伺うと、組織を超え、ビジネスに留まらない交流を生み出すコミュニティの形成を強化していきたいのだと川野氏は述べる。

日本では、ものづくりに携わる個人が多くいながら、企業への帰属意識が強く、個人の活動を外へアピールしづらい環境なのだという。

そこで、個人の活動が本業にフィードバックされるよう、基本的には会社からの業務として受講してもらうことで、個人の成長とそのスキルを会社に活かす構造を生み出そうとしている。

また、卒業生に対するコミュニティ形成も強化していきたいとし、ファクトリーサイエンティスト同士のノウハウ共有や、マーケティングに活用できる情報共有ができるプラットフォームの構築も構想されている。

さらに、卒業生のみならず、大企業、中小企業、IT系のソリューションベンダーやセンサメーカ、ものづくりに携わる個人など、あらゆる分野のエコシステム構築を目指しているのだという。

ものづくり現場の人材育成から創造されるエコシステム ―ファクトリーサイエンティスト協会 川野氏 インタビュー
ファクトリーサイエンティスト協会が目指すエコシステム

既に協賛・賛助企業は59社(2022年9月時点)で、各企業の最新設備やソリューションを活用し、共同で企画したオプショナル講座も開始している。

これまでに実施されたオプショナル講座は、産業用ロボットメーカの株式会社デンソーウェーブと共同で実施された「産業用ロボット講座」、AIのスタートアップ企業の株式会社エイシングと共同での「AI講座」、工作機械メーカのヤマザキマザック株式会社の協力を得た「工作機械講座」だ。

これにより、受講者は最新の設備でIoTの実践講座が受講でき、協賛企業はエンドユーザのニーズを直接知ることができるというシナジーを生み出している。

また、全ての受講者が実践できるよう、協賛企業の製品ではない場合にも活用することができる、汎用性を持たせた講座内容となっている。

「受講者はIoTの基礎講座を受けた後、そのスキルを活用して、自社にある工作機械や産業用ロボットなどに適応させていく必要があります。また、取得したIoTのデータを解析するためのAIの活用法など、IoTの次の一歩の受け皿も用意することで、受講生はスキルを活かすことができるのです。

協賛企業にとっても、自社のユーザ以外の新たなユーザと出会い、交流を持てるという点に価値を感じてもらっています。」(川野氏)

こうした組織を超えた新たな人間関係をつなぐことができているのは、ファクトリーサイエンティスト協会が非営利団体だからこそだと川野氏は述べる。人材育成の先に、新たな価値や発想が生まれる架け橋となっていくビジョンが見えた。

最後に川野氏は、「企業ごとの競争力は必要である一方、共有できることはし合うべきなのです。それぞれの知識や経験、ノウハウを共有しながら協力していくことが、日本の製造業の競争力を向上させると信じ、今後も取り組んでいきます。」と、意気込みを語った。

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