キャディ株式会社は創業以来、加工会社とパートナーを組むことにより、産業装置やプラントなどのメーカの調達から製造までに対応するサービス、「CADDi MANUFACTURING(キャディマニュファクチュアリング)」を提供してきた。
「CADDi MANUFACTURING」がメインターゲットとする半導体製造装置や包装機械等の業界の製品は、ロット数は少ないが製品の種類と、構成する部品が大量に存在する「多品種少量」の領域で、ひとつの製品に必要な部品は数百から数千にのぼる。メーカの調達担当者は、これまで大量の部品の指示書になる図面をひとつひとつ、加工会社に製造依頼してきた。
そこでキャディは、大量の図面を最適・効率的に取り扱うことに特化し、図面解析技術を活かした図面データ活用クラウドサービス「CADDi DRAWER(キャディドロワー)」を開発した。
本稿では、「CADDi DRAWER」の具体的な概要や開発に至った背景、利用者の声や今後解決していきたい製造業の課題などについて、キャディ株式会社 CADDi DRAWER事業部 事業部長の白井陽祐氏にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS小泉耕二)
図面の形状と属性情報を把握した上でデータを蓄積していく
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): まず、「CADDi DRAWER」の概要について教えてください。
白井陽祐氏(以下、白井): 「CADDi DRAWER」は、図面データを解析した上で蓄積し、必要な図面を検索することができるサービスです。
独自のアルゴリズムで図面を自動解析することにより、図面に記載されているテキストなどの情報を、構造化されたデータとして蓄積します。
また、検索した図面の類似図面を検索することもできます。
小泉: アップロードされた図面のテキスト情報を読み取るということですが、読み取った文字の意味は、どのように解析しているのでしょうか。
例えば「ステンレス」と図面に書かれていた場合、それが材質であるという紐付けをする必要があると思うのですが。
白井: 図面の必要事項が記入されている表題欄の書き方は、会社ごとにフォーマットが決まっています。そこで、表題欄のどこに何が書かれているかを把握することで、図面の属性情報を自動抽出し、文字の意味合いを理解して読み取っています。
小泉: そうして「CADDi DRAWER」に蓄積された図面データは、簡単に検索できるということですね。
また、検索された図面の類似図面も検索できるということですが、これはどのように行っているのでしょうか。
白井: 図面の類似性を判断するAIモデルを作っています。図面に書かれているモノが、実際に3Dとして出来上がったときに、どれくらい似ているかを判断できるような特徴量をAIが認識しています。
小泉: 2Dの形ではなく、出来上がった時の類異性を判断しているのですね。実際に開発するのは大変だったのではないでしょうか。
白井: そうですね。「似ているか似ていないか」は、デジタルに判断できないため、どう定義づけるのかは難しかったポイントです。
人の感覚的なものを正解データにする必要があるため、学習と評価を繰り返して精度を上げていきました。
製造業の図面における課題から生まれた「CADDi DRAWER」
小泉: 白井さんは「CADDi DRAWER」の立ち上げから携わっているということですが、「CADDi DRAWER」を開発されようと思った背景について教えてください。
白井: CADDiが元々行っていたMANUFACTURING事業では、我々の顧客であるメーカが設計した図面を製造委託する形で、最適な調達先を選定して外部の加工会社に依頼しています。
つまり、顧客から図面を受け取って、加工会社に図面を差配するというプロセスの中で、管理する図面が非常に多く、必要な図面をすぐに取り出せなかったり、似ている製品の比較検討がうまくできなかったりということが、弊社の中で課題でした。
そうした課題を解消するため、システムを内製で開発する取り組みがもともとのきっかけです。
弊社は受注する側でもあり、発注する側でもあるという意味においては、我々の課題は顧客や加工会社といったパートナーにとっても課題なのではないかと考えました。
そこで、MANUFUCTURING事業の顧客にヒアリングをしながら、機能を切り出したり、新たに開発したりする中で、ひとつのサービス「CADDi DRAWER」として提供することになりました。
小泉: 図面はデジタル化されていないケースもあると思うのですが、そこに対する対応もされているのでしょうか。
白井: 近年の製図環境は電子化されているため、ほぼデータ化されています。一方過去の図面に関しては紙のデータが残存しているケースがあるため、紙図面をスキャンしてデータ化する「CADDi DRAWER紙図面デジタル化パッケージ」というパッケージも提供しています。
「CADDi DRAWER紙図面デジタル化パッケージ」でデータ化された図面は「CADDi DRAWER」に蓄積されるので、過去の紙図面も同様に検索することができます。
小泉: また、「CADDi DRAWER」はSaaSで提供されているということですが、利用者の反応はどうだったのでしょうか。
白井: オンプレミスにしたいという声や、図面をクラウドに上げるのに抵抗を感じるという声もありましたが、予想していたよりも少ないと感じています。クラウドを活用するということが一般化してきた流れが、製造業においても浸透しつつあると思います。
もちろん一定のセキュリティ監査はありますが、SaaSだから検討されないということはありません。
小泉: SaaSの方がサービスとしてはどんどん賢くなっていきますし、アップデートも常に行えるのでメリットが大きいと思います。
「図面検索」というメリットが、コミニケーションツールとしても機能する
小泉: 導入されている企業の反応はどのようなものが挙がっているのでしょうか。
白井: 利用者のメリットのひとつは、「図面を探す」という作業が短縮されることです。これまで数十分かかっていた図面や関連情報を探す作業が、1分程度で探すことができます。
また、図面データと併せて、発注実績のデータもアップロードして紐づけることが可能です。わざわざ別のデータを見なくても、過去に発注した金額情報も簡単に分かるようになるので、類似図面検索を行えばいくらで依頼すべきかという金額の判断も行うことができます。
メーカのサプライヤーはたくさんあるため、似ている部品にも関わらず、違う金額で発注しているケースはよくあります。
つまり、どこにいくらで発注するのがベストなのかを比較検討するツールとしても活用することができるのです。
小泉: どこにいくらで発注したかという情報は案外デジタル化されていないということですね。
白井: そうですね。また、発注データとしてデジタル化されている場合でも、通常図面データとは別のシステムで保管されています。図面データと金額などの関連データが紐ついていないために、データ活用できていなかったのです。
熟練の人材であれば、発注する際の見積り額の妥当性や、どのサプライヤーに発注すべきか感覚で把握していますが、経験が浅い人材だと判断が難しくなります。
そこで、「CADDi DRAWER」を活用すれば新人でもベテランのような判断、感覚を養うことができます。
小泉: 単純に図面を管理するだけでなく、調達の属人化に対応したり、新人教育にも使われたりしているのですね。
白井: 他にも、図面の検索時間が大幅に短縮されたことにより、習慣の変化があったという声も聞いています。商談での提案や打ち合わせの際、図面を検索して使われていたり、設計や調達、製造などの部門間で会話をする際に同じ図面データを見て話をしたりと、コミュニケーション上のツールとしても活用されています。
小泉: 必要な図面がすぐに取り出せ、類似検索までできるというメリットを、他部門間でも活かしているということですね。その結果、効率化されることにより原価低減につながったり、品質が確保されながらも適正価格を見極める活動につながったりする、というイメージが湧きました。
部署横断で管理されているデータを統合し、意味ある情報として可視化する
小泉: 最後に、「CADDi DRAWER」の事業部長として、サービスをどのように発展させていきたいとお考えなのか教えてください。
白井: 図面データは、重要な情報であるにも関わらず、活用がしにくいデータでもあります。調達・生産・品質管理等の複数の部門で閲覧されますが、多くがPDF等の画像データで取り扱われているので、情報を取り出したり分析したりしにくい。何らかの解析をしなければ、膨大にあるデータの中からある特定の図面を探すのは難しいのです。
そこで今回、「CADDi DRAWER」というサービスを提供することで図面データを活用できるようにしましたが、図面データ以外にも、様々なデータが溜められてはいるものの、活用しきれていないという事実に気がつきました。
「デジタル化推進」が謳われ始めてから30年ほど経っていますので、ERP(企業資源計画)システムやPDM(製品情報管理)システムを導入している企業は多いものの、正しいデータをどう担保するかに主眼が置かれ、分析・活用が後回しになっていることが多いのです。
加えて、ERPは管理部門、PDMは設計部門など、部門ごとに縦割りで管理システムが分かれているケースがほとんどです。
そこで、今回の「CADDi DRAWER」では図面データと価格データを紐つけて可視化するという手法を取ったように、分かれて管理されているデータを必要な目的に合わせて紐つけることにより、活用できるようにしたいと考えています。
サプライチェーンの中で蓄積されているデータから意味合いを見つけ、適切な可視化をすることによって日々の判断業務を支援したり、データを統合することで役立てたりといったプラットフォームを構築して、課題解決をしていきたいと思っています。
小泉: データの部署横断は、テキスト情報であっても単位や使われる言葉の違いにより、統合して活用するのが難しいと言われています。
これが、画像データや製造のプロセスにおけるデータとなると、さらに統合が難しくなる一方、ここを解決できれば、色々と活用できる情報が可視化されていきそうですね。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
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