開発コストや時間を削減する「MATLAB」「Simulink」 ―MathWorksインタビュー

MathWorksは、アメリカ合衆国に本社を置く、研究開発者やエンジニア向けのソフトウェアを提供している会社だ。

主な製品は、アルゴリズム開発やデータ解析、可視化や数値計算を行うためのプログラミング環境である「MATLAB」と、ブロック線図環境を使用したシステム設計やシミュレーションを行うツール「Simulink」だ。

今回は、「MATLAB」と「Simulink」の概要やメリット、NTTドコモと共同で通信の効果を検証した活用事例などについて、MathWorks ロボティクス・自律システムインダストリーマネージャー能戸フレッド氏(トップ画左)と、通信/電機/半導体インダストリーマネージャー川浪洋資氏(トップ画右)にお話を伺った。(聞き手: IoTNEWS小泉耕二)

幅広い業界の開発者に寄り添ったサービス展開

MathWorksの主力商品の一つである「MATLAB」は、分析とデスクトップ環境、プログラミング言語がひとつになった数値計算プラットフォームだ。

制御システムの設計やテスト、機械学習のモデル学習やパラメータ調整などに活用することができる。

一方、「Simulink」は、ハードウェアに移行する前のシステム設計やシミュレーションを、ブロック線図を用いて視覚的に行うことができるツールだ。

「MATLAB」と「Simulink」を併用することで、テキストベースのプログラミングとグラフィカルなプログラミングを単一環境で活用することができるため、様々な分野でのモデルベース開発において利用されている。

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「MATLAB」と「Simulink」が活用されている業界例

モデルベース開発のメリットのひとつは、開発した製品が実際に動くかどうかのテストが簡単かつ早期に行えるという点だ。

従来の、モデルベース開発を行わない開発では、実際に動作する実機を用意し、コントローラに制御機能を実装した上で両者を接続することで、初めてテストを行うことができた。

ここで不具合が発生した場合、原因特定に時間がかかる上、不具合を修正して再度テストするために、実機とコントローラを組み直す必要があり、時間と手間がかかる。

そこで、モデルベース開発により、実機とコントローラをモデル化し、シミュレーター上でテストできる環境を整え、早期にテストを行う。

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モデルベース開発の概念図。コントローラと実機をシミュレーションモデル化している。

しかし、実際の開発現場では、既存の実機を活用して検討しなければならない場合もあり、全てをシミュレーションによって事前に検討できるわけではない。

そこで、実機とコントローラの「どちらかだけ」をモデル化してリアルタイムにシミュレーションする手法があるが、「MATLAB」と「Simulink」にはこの手法を行うためのサポート機能がそなわっている。

さらに、「MATLAB」と「Simulink」では、一度実施した検証結果自体もモデル化することもできるため、同様の検証を行う際も工数を削減することができる。

つまり、どの開発においても、同じように行われるプロセスを標準化することができ、次に新しく開発を行う場合でも、過去のモデルやノウハウを共有することが可能になるのだ。

制御機能に関しても、「MATLAB」「Simulink」を活用すれば、要求仕様に対するコードを自動で生成してくれるため、モデルに対するコードを書く必要がない。

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自動コード生成のワークフロー

さらに、「MATLAB」と「Simulink」に対するアドオン製品は100以上提供されており、用途に応じた専門的なタスクに関しても活用することができるというメリットもある。

能戸氏は、「ユーザの声をフィードバックしながら、ローコードな開発環境の展開や、アドオン製品の開発をしています。」と、活用しやすい環境の整備を行っているのだと述べた。

通信の効果を正確かつ視覚的にシミュレーションする

次に、「MATLAB」と「Simulink」の活用事例として、MathWorksとNTTドコモの「確定性通信」のシミュレーションを行った事例を紹介する。

まず、「確定通信」について簡単に説明すると、これは、TSC(Time-Sensitive Communication)を実現するために、通信の遅延や揺らぎ、無衝突を保証するネットワークで、今回の例でも紹介するように、製造業などではユースケースとして想定されている。

今回紹介する、シミュレーションでは、遅延変動が小さく、許容遅延時間内にデータを送信することができる「確定性通信」の効果を検証するために、「MATLAB」と「Simulink」が活用されたということだ。

確定性通信のメリットは、遅延変動が抑えられることにより、データの損失率を低下させ、エラーや誤作動を減らすことができる点だ。

例えば、工場で活用されるロボットの協調制御や鉄道運行の制御など、正確かつ効率的な処理が必要なシーンでの活用が想定されている。

今回の事例では、港湾を模したオープンエリアにおいて、MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング、以下エッジクラウド)を活用して、現場にあるトラックやフォークリフト(以下、作業車群)を自律的かつ統合的に協調動作させるために確定性通信を活用、その有効性を示すためのシミュレーションだ。

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実施されたシミュレーションの概要図

今回のエッジクラウドは、作業車それぞれの位置や速度などのデータを収集し、その結果から作業車群同士がぶつからずに効率的な荷下ろし作業をするよう協調制御する役割を果たす。

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エッジクラウドでの協調制御の概要図。

そして、「MATLAB」と「Simulink」を活用し、自律システムや3Dシミュレーション、オープンエリアの無線通信環境を含めた統合環境で、確定性通信がある場合とない場合の違いについてシミュレーションを行った。

シミュレータの構成は、確定性通信がある場合とない場合のシミュレーションを同時に実行し、それぞれの結果の可視化を含めて時間同期させている。

なお、双方の結果は同じ画面上に表示されるよう構成されており、実時間とシミュレーション時間を可能な限り近づけている。

可視化に関しては、「MATLAB」で経路生成や強調制御アルゴリズムなどを構築し、「積載にかかる時間」や「無線遅延」などをパラメータにして「荷卸総数」を確認している。

また、「MATLAB」「Simulink」は、他のシステムとの連携ができるので、今回は「Unreal Engine」と連携することで、作業車群がリアルタイムに動いている様子の可視化や、効率的に動けているかといったグラフィックな表示を行なっている。

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Unreal Engine 4による可視化(鳥瞰図表示)

このシミュレーションの結果、確定性通信を適応した方が、作業効率を10%以上向上させられることがわかった。

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確定性通信がない場合(上部)と、確定性通信がある場合(下部)での作業効率比較。確定性通信がある場合の作業効率は10%以上向上している。

川浪氏は、「スマートファクトリーやスマートコントラクションを実現するためには、電波の特性を把握した上で、対象箇所のどこまで電波が届いていて、どこがデッドスポットなのかを把握する必要があります。また、必要な通信品質を実現するために最適なアンテナ設置を行う必要もあります。

こうした目に見えない通信のシミュレーションを正確かつ視覚的にシミュレーションすることができるのが、「MATLAB」や「Simulink」の強みです。」と、「MATLAB」と「Simulink」のメリットについて語った。

信頼と実績あるシミュレーションで最適解を導き出す

企業が、「MATLAB」や「Simulink」を活用することのメリットについて伺うと、「航空宇宙防衛や自動車業界をはじめとする、正確なシミュレーションを必要とする業界への導入実績があり、プロトタイプだけでなく、量産される製品にも活用されている点」なのだと能戸氏は言う。

「特に「Simulink」はモデルベース開発環境として歴史があり、自動車や飛行機などの量産設計にも活用されています。また、最近では一つの製品で活用されるシステムが複雑化している中で、全てを統合的にシミュレーションして確認できる点が強みです。」(能戸氏)

スマートファクトリーやスマートシティを実現するには、現実の状況や複雑なシステム構成、通信や制御するハードウェアなど、考慮するべき項目は膨大となる。

こうした領域においても、「MATLAB」や「Simulink」を活用することで、精度の高いシミュレーションを行うことができ、コストや時間を削減しながら最適解を導き出すことができるイメージが湧いた。

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