昨今、製造業の現場では、自動化やDXが進められているが、未だ多くの「人」によって支えられている。
そこで株式会社スキルノートは、ものづくりに携わる人のスキルの一元化や可視化を行うことができるスキルマネジメントシステム「Skillnote(スキルノート)」を提供している。
本稿では、「Skillnote」の概要から、スキルマネジメントが求められる背景やスキルマネジメントの実践による効果などについて事例を交えたお話を、株式会社スキルノート 代表取締役 山川隆史氏にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表小泉耕二)
人が持つスキルを活用し、計画的な育成や配置を実現する「Skillnote」
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): まずは、「Skillnote」の概要について教えてください。
スキルノート 山川隆史氏(以下、山川): 「Skillnote」は、製造業における現場の人のスキル管理や教育管理の業務を効率化させ、蓄積したスキルデータを活用して人材開発などを支援するクラウドサービスです。
製造業において、スキル管理自体は何十年も前から行われていますが、大半が部門ごとにExcelや紙で管理をしており、日々の更新作業や管理の負担が大きいという課題がありました。
また、Excelや紙での管理では、組織全体のスキルを体系的に把握することができないため、場当たり的な育成や人材配置となってしまい、適正な評価も行えていないのが実情でした。
そこで、「Skillnote」を活用してスキルをデータベース化することで、スキル管理業務を効率化するとともに、そのデータを用いた計画的な人材育成や配置を行うことができるというものです。
各部門の誰がどのスキルをどれだけ保有しているか、といったスキルに関するさまざまな情報を、最新の状態に更新しながら管理することができます。
「Skillnote」の主な活用領域は、人材の育成や配置、技能伝承といった人材マネジメント領域と、無資格者による作業防止や品質管理のためのトレーサビリティといった生産マネジメント領域です。
「Skillnote」のダッシュボード画面では、スキルの保有状況のグラフや、各部門や個人ごとのスキルマップなどを見ることができます。
これにより、経営者は部門や年代などの軸で組織全体のスキル保有状況を把握することができ、管理者は育成計画や教育の実施記録などが可能です。
また、現場で働く個人は、キャリアレベルの現状をはじめ、職種・職種単位での必要なスキルや進捗状況を把握することができ、目指すべき姿がわかる仕様となっています。
小泉: 「Skillnote」を導入する企業は、どのようなステップを踏むのでしょうか。
山川: まずは、職場ごとに様々な形式で管理されているスキルマップや教育計画・教育記録を「Skillnote」上に一元管理します。その結果、教育の漏れ・資格取得の遅延防止、ISO9001などの監査対応の負担軽減などスキル管理に関連した業務を効率化します。
その後、スキルの更新を行うことで、スキルのデータベースができあがります。このスキルデータをもとに技能継承や人材育成、応援対応、プロジェクトへのアサインなどを進めることができます。
そして、さらなる発展的な取り組みを実施されている企業では、国内だけではなく海外の拠点間のスキルデータの一元化・可視化やスキルデータを活用した生産プロセスの改善に繋げる取り組みが行われています。
小泉: 国内だと、生産拠点ごとに生産性改善やスキル管理をしているケースが多いため、同じ会社とはいえ、スキルの平準化を行うには「Skillnote」のようなツールが必要ですね。
山川: そうですね。縦割り構造になっていることが多く、同じ工場の中であっても、情報共有ができておらず、ラインによって人が足りているところと足りないところがでてきているような状況です。
足りていない人材が社内にいないと思っていたら、他部署に必要なスキルを持った人材がいたということもありますので、スキルを棚卸して管理しておくことが重要です。
現場から見えてきた組織全体のスキルを把握する重要性
小泉: スキル管理や人事向けのソフトウェアサービスは様々な企業が提供していると思うのですが、「Skillnote」はなぜ製造業に特化しているのでしょうか。
山川: 製造業に特化している理由のひとつは、私がもともと信越化学工業に勤めていたという背景があります。
新卒で信越化学工業に入社し、2年間工場勤務をした後、北米とアジアの企業へ向けて、電子材料の技術営業を担当していました。
お客様は半導体メーカで、当時は日本が半導体の世界シェアを半分以上占めていました。
しかしその後、米国のインテルや韓国のサムスンなどがシェアを拡大し、日本のシェアがどんどん落ちていく中、我々の販売先も海外の半導体メーカが主流になっていき、悔しい思いをしたのを覚えています。
半導体業界はサイクルの移り変わりが激しく、勝ち負けがはっきりと出ます。そして、その競争力の源泉は、やはり「人」だということを当時の経験から学びました。
日本の製造業が競争優位性を保ちつづけていくためには、働いている人たちが高いモチベーションを持って成長していける仕組みが必要だと考え、「Skillnote」を開発しました。
小泉: 創業した当初から、現在の「Skillnote」を販売していたのですか。
山川: 創業当初は、製造業のエンジニア向けの技術研修を行っていました。
そうした中、弊社の研修を採用してもらっている大手電気メーカの技術幹部の方から、「単発の研修も意味があるが、そもそも誰がどれくらいのスキルを持っているのか、全体像が把握できていない。今後の会社の方向性に応じたスキルが何で、そこに到達するためにはどれくらいのギャップがあるのかを把握した上で研修をしていきたい。」というフィードバックをいただき、すごく響きました。
また、単発の研修だけでは、人材育成の根本的な変化につながらないと限界を感じ、仕組みそのものにアプローチをしなければならないと感じていました。そこで、完成されたソフトウェアサービスを提供することができれば、世界中の人が活用でき、世界を変えられるのではないかという構想がその時点で生まれました。
この言葉がきっかけで、事業をピボットし、ソフトウェア事業を分割する形で作り直したのが、今の「Skillnote」です。
「DX」「ゲームチェンジ」「人材の流動化」高まるスキル管理のニーズ
小泉: リアルなフィードバックから「Skillnote」の構想が生まれたのですね。
一方、多くの企業は、スキル教育を戦略的に定義できずに、場当たり的に行っているケースが大半だと感じます。
山川さんから見て、目標に向かって必要なスキルを埋めていくという発想は定着しているのでしょうか。
山川: 会社を創業した当時は、スキル教育に対する課題意識はあったものの、対策はほぼできていないのが実情でした。
現状においても、道半ばという印象ですが、「人が採用できない」「技術の変化が激しい」という昨今の状況の中、待ったなしだという緊張感は出てきました。
例えば、エネルギー源がガソリンから電気に代わりつつある自動車業界はその傾向が顕著です。
ガソリン車と電気自動車では技術が異なるため、数年という時間軸で足りない部分のスキルを埋めていく必要があります。
特にここ2年ほどで、かつてないほどお声がけいただくようになっており、「スキルの見える化や管理をやらなければ」という流れに入っていると感じます。
小泉: ここ2年ということは、パンデミックの影響もあるということでしょうか。
山川: 2年という期間は肌感覚ですが、おっしゃる通り、パンデミックにより人を減らさざるを得なかった企業が、再度雇用するのが難しいという実情が少なからず影響していると思います。
また、さきほどご説明した自動車業界をはじめ、さまざまな業界の技術変化が、ここ2年ほどで急速に加速していると感じます。
さらに、転職により人材が定着しないという声も、特にここ1〜2年で多く聞くようになりました。
こうした要因が絡み合い、スキル管理へのニーズが増えてきたのだと思っています。
小泉: スキルの見える化や管理を行い、必要に応じて変化させなければという意識が高まっているのですね。
ただ、スキルの変化と言っても、さまざまなケースがあると思います。
大きく分けると、部品の加工技術や溶接する技術など、従来人がやってきた作業を徐々に自動化しているケースと、自動車業界のように、ガソリンから電気に変わるというゲームチェンジが起きているケースがあると思うのですが、どちらの要因が大きいと思いますか。
山川: 両方だと思います。製造業はデジタル化が遅れていると言われていますが、AIやロボットなどを活用した自動化は進められていますし、ゲームチェンジも加速しています。
自動化の流れで言うと、すぐに完全な自動化を実現することは難しいため、部分的な自動化に伴った新たなスキルが求められます。
例えば、現場にロボットを導入した際には、ある作業がロボットに置き換えられますが、ロボットの設定やメンテナンスといった新たなスキルが必要となります。
また、生産の改善活動においても、IoTでデータを収集しながら行っていくとなると、現場の方もデータを読み解くスキルなど、デジタルを絡めたスキルが求められます。
小泉: これまでは、親方の背中を見て10年修行したら技術が身についていたというケースもあったかもしれませんが、デジタル技術が導入されると、自分が習得してきた技術以外のスキルも身につけなくては、改善活動ひとつとっても支障が出てくる状況だということですね。
山川: おっしゃる通りです。また、10年かけて技術を身につけるという時間軸は、現代では待てないという人材も増えています。
10年間働くことで、段階的にスキルが身についていき、成長することができるということを提示しなければ、エンゲージメントの向上を図ることができず、継続して働いてもらえないという課題もあります。
小泉: そう言う意味では、「Skillnote」はスキルの見える化ができるので、10年後の自分の市場価値が上がる様子も把握することができそうですね。
山川: まさしく個人のモチベーション向上のニーズは高く、「Skillnote」としても重要な領域だと思っています。
小泉: 個人の目線でいうと、ドイツやアメリカの現場では、とてもシンプルな仕事を任されていると言います。
比較的単純な作業を突き詰めて覚えてもらい、ひとつひとつスキルを積み上げるような様式になっていると思うのですが、日本は複数の技能や技術を活用する多能工が求められていると感じます。
多能工を求めることで、結局一人当たりの負担を増やし、スキルの習得を遅くしてしまうのではないかとも思うのですが、どのように解釈していますか。
山川: 実際、「Skillnote」を利用していただいているお客様は、多能工を求めているケースが多いです。
そして、多能工を実現するためには、新たなスキルを習得するメリットを現場の方に打ち出すことが重要だと考えています。
闇雲に新たなスキル習得を推し進めても、現場の方の心理的な負担が増えてしまう可能性もあります。
そこで、本人のモチベーションと絡めて、「新しいスキルを習得することで実現できること」「会社から得られる評価」「具体的な誰かのようになれる」というような、目標や未来像を想像できる、キャリアの見える化もセット打ち出すことが必要になってくると思います。
「Skillnote」では、会社からの一方向の視点だけでなく、個人の視点を尊重して競争力を高めてもらうという点を大切にしています。
小泉: 日本は高度成長期時代も、多能工によって成功してきた日本企業も多いですし、現代においても求められるケースが多いのですね。
そうしたニーズを実現するためにも、キャリアの見える化を行うことで、個人のモチベーションを向上させてスキルを習得してもらい、最終的に企業の競争力に繋げているということがわかりました。
「Skillnote」を活用することで異なる目的を実現した3つの事例
小泉: 「Skillnote」の活用方法をよりイメージできるよう、具体的な事例について教えてください。
技能伝承の事例
山川: 一つ目は、大手素材メーカによる技術承継の事例です。
このメーカは、一つの部門に100以上のスキル項目があるにも関わらず、全てExcelで管理していたため、作業負荷は大きいことに加え、将来不足するスキルの正確な把握が難しく、技術承継が停滞していました。
一方、ベテランが減っていき、確実に一定割合のスキルが失われてしまうという事実はわかっていました。
そこで、Excelで管理していたスキルを、全て「Skillnote」に移し、スキル管理自体を楽にすることで、新たなツール導入の賛同を現場から得るとともに、会社全体としてスキルを横串で見られるようにしました。
すると、コアスキルが1万種類あることがわかりましたが、さらに優先順位をつけるために、3〜4%の700種類までスキルまで絞っていきました。
例えば、「10年に一回程度しか起きないが、起こってしまうと甚大な被害が出るトラブルへの対応スキル」に関しては、実際にトラブルが起きていないにもかかわらず、伝承することができました。
さらに、この700種類のスキルは誰が持っていて、いつなくなるのかを分析することで、どういった順番で伝承していくのかといった計画を立て、実際に実行している最中です。
何も策を講じなければ、このほとんどのスキルが失われていたと思いますが、現在60%以上スキルを若手へ伝承することができています。
小泉: 技能伝承以外での事例はありますか。
故障の予兆検知から保全担当の割り振りまでを自動化する事例
山川: 一つは、THKと連携して開発しているスキル管理AIソリューションの事例です。
THKは、IoTやAIを活用して設備の予兆検知を行う「OMNIedge(オムニエッジ)」というソリューションを提供しています。
「OMNIedge」を活用することで、自動的に設備の異常を先回りして知ることができますが、その後は、必要なスキルを保有した保全担当者が作業をする必要があります。
そこで、保全担当者のスキル情報を「Skillnote」で管理し、「OMNIedge」と連携させることで、どこの設備がいつ故障するリスクがあるかというアラート情報に対し、必要なスキルを保有した保全担当者は誰かということをレコメンドしています。
人事に必要なスキル管理の事例
もう一つは、SAPのタレントマネジメントソリューション「SAP SuccessFactors(エス・エー・ピー サクセスファクターズ)」との連携です。
「SAP SuccessFactors」は、人事や給与管理、育成などの人事関連の業務を一元管理するソリューションで、スキル管理を行うこともできます。
しかし、製造業においては、複数事業を展開する企業の専門的なスキルを細かく管理したり、一つ一つの育成サイクルを把握したりと、細かな粒度で現場ごとにスキルの管理を行うことが必要なため、この部分を専門システムである「Skillnote」がカバーしています。
その上で、「Skillnote」に集約された各現場部門のスキルや育成計画などのデータを、人事が必要なレベルに加工して「SAP SuccessFactors」に戻すという連携を行なっています。
反対に、人事的な属性情報は「SAP SuccessFactors」から「Skillnote」に送ることで、最新の人事データが「Skillnote」側にも反映され、現場でも利用することができます。
小泉: 数万人規模のスキルを管理しなければならないとなると、現場のデータは「Skillnote」が管理し、必要なデータだけ「SAP SuccessFactors」に上げていくという連携は良い組み合わせですね。
山川: おっしゃる通りです。製造業における現場のスキル管理のニーズに応える連携として評価いただいており、実績が上がっている事例となっています。
小泉: これらの事例では、技能伝承からはじまり、担当者の割り振りや人事での活用にまでスキルデータの活用が発展されていて、「Skillnote」の活用方法をよりイメージすることができました。
日本発の「Skillnote」を通じ、「つくる人が、いきる世界へ」
小泉: 「Skillnote」は、すでに様々なケースで活用されていますが、今後はどのような展開を考えられているのでしょうか。
山川: 目下の目標としては、スキルデータを活用して、さらに様々なシーンで活用できるよう範囲を広げていきたいと思っています。
加えて、大きなビジョンが二つあります。
一つ目は、弊社が創業当初から掲げている「つくる人が、いきる世界へ」というビジョンの実現です。
現場のつくる人が、自分の目標に向かって成長することができ、新しいことにどんどんチャレンジできるような世界を作りたいと思っています。
経営側や管理者側の視点から、立てた生産計画を効率よく最適に実行するためにスキルデータを活用する、という側面はもちろんありますが、個人のモチベーションや希望につながるソリューションにしていきたいという想いがあります。
例えば、現場の方のこれまで積み上げてきた仕事や経験、スキルデータが蓄積され、可視化されることで、自分の価値を認識して、新たな挑戦領域が見えてくるような世界です。
小泉: 実際に製造現場で働かれていた山川さんならではの発想ですね。
トップダウンの発想だけでなく、現場の方の視点も尊重することで、「経営層」「管理者」「現場」が共に考えるきっかけが生まれ、結果的に企業の競争力にもつながりそうだと感じました。
山川: おっしゃる通りです。まだ道半ばではありますが、「つくる人が、いきる世界へ」が、スキルノートが実現したい一貫したビジョンです。
そして、もう一つのビジョンは「グローバル」という視点です。
日本には、これまで培ってきた製造業の強い現場があり、それを支える人がいます。この日本の製造業プレゼンスを世界に示し続けていきたい。
そのためにも、「Skillnote」を日本発のソリューションとしてグローバルで市場シェアを伸ばしながら、世界でNo. 1の製造業向けスキル管理ソフトウェアになれるよう、今後も頑張っていきたいと思います。
小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。
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