ウイングアークが提供する、IoTデータもリアルタイムに可視化できるBIツール「MotionBoard(モーションボード)」は、製造業や物流業などの「現場」でも使えるように開発されている。
もともとBI(ビジネスインテリジェンス)ツールは、顧客情報や売上情報などの様々な社内データを収集し、可視化することで企業の意思決定をサポートするツールのため、主にマネジメント層が活用していることが多い。
しかし、IoTデータのリアルタイム可視化にも対応しているMotionBoardの場合、リアルタイムで上がってくる車両の位置情報や、工場の設備データなどを、現場レベルで判断し対応することが多いため、現場の担当者がダッシュボードを活用しているケースが多い。このため、現場の要望を聞きながらMotionBoardの開発を重ねているという。
今回、BIツールと人の在り方まで考えたというバージョンアップが行われたということで、「IoT時代に求められるBIツール」について、MotionBoard開発責任者であるウイングアーク1st株式会社 執行役員CTO 島澤甲氏と、IoTNEWS代表 小泉耕二が対談を行った。
BIツールと人の在り方を変える
小泉: 以前インタビューさせていただいた、BIツール MotionBoardが新しくなったそうですね。
島澤: はい、MotionBoard Ver.5.7になりました。今回は、BIツールと人の在り方を変えるところまで提案していきたくて、実は私の想いが一番こもっているバージョンです。
小泉: BIツールと人の在り方ですか?
島澤: ちょっと大げさかもしれませんが。私自身、売上などの様々な情報を可視化し、社内でモニタリングをしているのですが、その数字は一日何回チェックをしても、ほとんど変化がありません。なんというか「人間がBIツールをポーリング(※)しているな」と感じ、これはBIツールの在り方としてちょっと違うのではないか、とずっとモヤモヤしていたのです。
※ポーリングとは、コンピューターシステムが、定期的に周辺機器に送信情報がないか確認し通信や処理を行うこと
BIツールは基本的には集計するので、売上や赤伝票などを含めて合算しておいくら、というものです。でも、その中身をひも解いてくと注目すべきデータは埋もれていることが多く、そういうデータをもっと機械的に取れるようにしたいなと思っていました。
その結果として、今回のVer.5.7は通知機能に注力しました。
小泉: なるほど。通知は結構厄介ですよね。組織階層をどう持つかという話が出てくると思います。単純な通知だったら朝飯前でできると思いますが、組織階層って会社によって全然違いますよね。そこを把握した通知システムを作るのは、難解なのではないかという気がしました。
島澤: 通知機能は一つのソフトウェアジャンルがあるところなので、一気に100点を取りにいくのは難しいのですが、IoT系のデータは比較的オープン性が高いものが多いですし、社内における機密管理のレベルとしては、センサーデータというのは人事情報などと比べれば当然低いものなので、そういったところに対して人が見張ってなくてもOKというレベルに持っていきたいと思っています。
しきい値などで「この辺までだったらOKだよね」、というのを、AIで自動化しようとすると苦しむことが多いので、人の目である程度確認を入れながら具体的に使えるようにしていきたいです。
異常が起きたときに、アラートが多すぎてもダメだし、必要なときに来ないのもいけません。狼少年にならない程度に、何かあった場合にはプッシュしてくれる、そんな形のツールと人との関わり方というのがここから先、求められるのではないかと感じています。
そういったアプローチをされているところは他ではあまりないのですが、人の生産性を上げることにスコープするのであれば、情報を今は見なくても良いことがわかることも重要だと思います。
小泉: そうですね。構成要素単位で構造化していって、最終的に上澄みのデータをBIの人たちは見ているので、例えば経営指標だと、売上が上がった下がったということがわかります。
それを毎日見るということに対して、例えばロケーションが一拠点だとあまり意味がないけれど世界中にあるから意味がある、というのが従来型のERP(Enterprise Resources Planning)な人たちの発想です。それがクラウドになって大量データを扱えるようになったから、ドリルダウンしようという発想があります。
最終的に売上が上がった要素は何だろうとドリルダウンしていくと、赤くなっているとか青くなっているみたいなことがあると思います。おっしゃる通り、人が能動的に見ていく限りにおいては確かに検知することはできるのですが、いつも見なくていいよと言ってくれるBIツールはあまりないかもしれませんね。

現場レベルでの生産性改善は、もっとリードタイムを短くしたい
島澤: 今回はデータの見方や表現についてもこだわりを持ち、企業内の情報連携を違和感なく促進できるような製品にしようという挑戦も行いました。
小泉: ERPって、コンセプチュアルには企業内全部をつないで無駄をなくしましょうという話だと思いますが、最終的に現場では全然つながってないから、見たくても見られないものが多かったのです。それが見られるような時代がようやく来たんですよね。
島澤: そう思います。そして、情報は業務によって見方やとらえ方が異なりますが、MotionBoard Ver.5.7では現場ユーザーが認識しやすいデータ表現にもこだわりました。
これは製造業のBOM(部品表)をイメージした画面なのですが(図1) 、実は最近お客さまから言われた話だと、こういった情報を展開しようとすると、PLM(Product Lifecycle Management)のライセンス等を追加しなければならず、コストが非常に高くなるということでした。
この部品などに対して何が起きているかなどを現場に認識させないといけないのに、現場まで全部ライセンス発行する予算はありません、と。
ライセンスを持っているのがマネージャー以上だとすると、何か起きたらマネージャーに問い合わせなければならないため、現場レベルでのリスク認識が遅れるという問題がありました。
しかし、MotionBoardにデータを渡してあげると、そういう情報を広く共有することができるので、非常に助かるという声をいただいています。おそらくパッと見はBIの画面ではないと思います。

小泉: コンセプチュアルにはチーフデータオフィサー(CDO)が必要だとおっしゃる方もいて、BOMの世界とPLMの世界、MES(製造実行システム)の世界がどういうふうにつながっていくのかちゃんとわかっていて、そのビジネスプロセスを横断で見たときに取れるデータで横串にしなければいけないと思います。
現場で使えるBIが必要になってくる時代が来なきゃいけない、とずっと言われているのですが、まだきていません。
生産管理のシステムの人たちは生産管理システムを良くしようとして、ERPの人たちはERPシステムを良くしようとします。それぞれやれることが違うので、実はバラバラのシステムの方がよくて、横断的なデータ可視化システムが別にあって、横串に見えるというのがいいと思っています。
島澤: 製造業は特にわかりやすいですね。特にPLMなどの上位層だと、ベンダーも違うし、その下の一つ下の生産実行システムはどちらかというとPLCの世界です。その下のFAまでいくと、プレーヤーも担当者も違います。上から下まで知っている人は少ないですよね。
小泉: 御社は帳票を長くやられているので、フォーマットの大事さというのはよくおわかりだと思いますが、業務で使おうと思うとやっぱりフォーマットがきちんとしてないと、見ていて苦痛ですよね。
島澤: 現場がどちらの見方も習熟するのは、本当に難しいと思います。今回のBOM関係の機能は、BIの可能性を様々な形で試したものなのです。
そのうちの一つが、製造業のソリューションです。製造業向けにMESのソリューション(図2)があるので、これを当て込むと結構広くフォローできるのではないかという取り組みを昨年から始めて、おかげさまでものすごく好評をいただいています。

今日発見した課題を、明日解決する
小泉: なるほど。MotionBoardは、どういう人に使ってほしいのでしょうか。
島澤: 今回のバージョンに限らずMotionBoardは、課題を解決するために自分たちで取り組みたい、というお客さまを支援したいという想いが込められています。
昔ながらの「要件定義して、仕様を決めて、インプリして、テストをして、ワンサイクル回すのに半年」という動かし方ではなくて、「今日発見した課題を明日解決したい」というお客さまに使っていただきたいと思っています。実際に効果が体験いただけたら開発者としては最高の瞬間です。

お客さまに価値を感じていただけるまで付き合いきる。クラウドだからこそウェットに
小泉: 実際に、どんな製造の現場で使われているのでしょうか。
島澤: 工場系は、IoTにいきなりどっぷりではなく、もっと前段の話です。そもそもデータを取れるところまで持ってこようという話が多くあります。
小泉: 見える化ですよね。
島澤: 見える化がストレートに多かったですね。複数の工場を見える化する事例では、工場の中で発生したデータは、工場の中でも本社でもきちんとサマリーして見たいというニーズがありました。要は工場に導入したMotionBoardと、本社にあるMotionBoardをつなぎたいということです。
このようなニーズは、案件を進めていく中で結構ありましたので、Ver.5.7からは複数のMotionBoardをつなげるようにしました。
特に海外の工場で回線が細いと、日本との通信が非常に不安定なので、日本でサービスを立てておいて、インターネット経由で海外からアクセスしてくださいと言うと、システムとしての信頼性を保ちきれないことがありました。個別にきちんと現場単位で最適化したいという声も強くあるので、それを今回のバージョンで対応しています。
小泉: 外資系製品と日本製品という見方をすると、外資系のサービスは「インプリするだけですよ」と、担当者がやってきて説明をしてくれるのですが、大事な話になると「本国で話してもらわないといけない」となることがあります。自分たちの状況にあった導入などを、まじめにやってくれる会社は少ないという印象ですので、とてもいいですね。
島澤: 私たちはコンピューターのような無機物を通して使うソフトウェアやサービスを作っているわけですが、その先には血の通った人がいるし、ソフトウェアを導入するかどうか判断するのは結局人間なのですよね。
だから、お客さまに価値を感じていただけるまで付き合いきるというのは、生き残るうえで重要な戦略だと思っています。
小泉: クラウドだからこそ、ウェットにやるってことですね。
島澤: ウイングアークのクラウドでは、ポストセールス部隊をきちんと社内で育てて、お客さまが本当に使える状態まで持って行くことを大変重要視しています。
小泉: 日本の企業は、日本人の営業マンがいて、しかも呼んだらとりあえず来てくれる会社が好きだという傾向があります。片方で、来てくれなくてもいいけど安くしてくれという人たちも世の中にはいますよね。
どっちが良いということを言っているつもりはないのですが、クラウドであるがゆえにある程度手厚くサポートしていかないと、データ連携の仕方を変えたいだとか、もっと深掘りしたいとか、入れて終わりということはほとんどあり得なくて、やればやるほど取りたいデータって増えてくるんだろうなと。
産業用PCの性能もどんどん上がってきますし、現場で取れるデータの量がすごく増えてくるでしょうから、MotionBoardで見たい状況も変わってくるんだろうなと思うと、やっぱりカウンセリングというかアドバイスをしてくれる人たちが一緒に近くにいてくれるというのは、安心感があります。

進化し続けるのは、お客さまに長く使っていただきたいから
小泉: 最後に、MotionBoardの未来について教えてください。
島澤: 次の6.0というバージョンは、お客さまに長く使っていただけるためのバージョンアップです。HTML5等の新しい環境への対応も行いますし、さらに6.0ではつながるデータソースを一気に広げようと思っています。
例えば、RDBにはずっと対応してきたのですが、CRMに直接つなぎたいというニーズがあります。CRMなどにダイレクトにつないで、手元にあるAccessなどとマッチングさせたいなどの要望がある場合に、思い立ったらすぐ実行できるようにしたいのです。
世の中、単純に正規化されたデータだけじゃなくなってきていますし、kintoneなどのクラウドサービスとつなげるようにしていきます。私たちは情報の可視化に限らず、活用におけるプラットフォームという位置づけでMotionBoardをイメージしています。
他の製品と比べて単純にチャートや表が簡単に出せるという点だけではなく、最終的に費用対効果まで落とし込めないと、定着しないと思います。「派手でキレイだね、見ていて面白いね」だけですと、絶対飽きられますから、中身をきちんと詰めることが重要ですね。
小泉: 本日はありがとうございました。
MotionBoard開発部メンバー
技術本部 MotionBoard開発部 副部長
舘原 啓介 氏
MotionBoard開発部の管理者を行うと共にプログラミングをバリバリ行うプレイングマネージャーです。集計表や、クライアント集計処理を主に担当しています。
MotionBoardの開発当初から携わっていますが、幸いなことにご要望が絶えることがありません。その中でも多くのお客さまに喜んでいただけるものから優先順位をつけて開発しています。
集計表は特に多くのご要望をいただいており、表内のチャート表示やパフォーマンス改善など根底を変更するエンハンスのため過去3回にわたり一から作り直し、様々なご要望にお応えできるようになっています!
技術本部 MotionBoard開発部 製品開発G PJ担当マネージャー
上野 真一 氏
私は主に画面UI周りを中心に開発を行っています。ここ最近プロジェクトマネージャーという役職に就き、マネージャー職について日々勉強しています。
MotionBoardはお客様の要件が製品の成長に繋がる場合は、すぐに実装するという案件が多く、そういった対応をよく行っています。MotionBoard Ver.5.7ではネットワーク図にBOMの表現ができる機能を実装しました。
この機能も、お客様からの要望を元に開発した機能になります。この機能は今後もエンハンスを多く対応する予定で、お客様の意見や要望を製品成長とニーズに合わせ製品の価値を上げていければと考えています。
技術本部 MotionBoard開発部 クラウドG
新井 伸二 氏
メインはクラウド開発チームとして、クラウドサービスに関わる作業をしていますが、パッケージ開発も行っています。パッケージ開発作業としては、IoT Agent(※)の開発などに携わりました。IoT Agentはシンプルで簡単に利用できるアプリケーションを目指して開発を進めました。
位置情報を取り扱うアプリケーションであるため、通勤時や休日なども利用してフィールドテストを行ったりするなど、色々と苦労もありましたが、現在は色々なお客さまにご利用いただいており、大変嬉しく思っています。
※手軽にスマートフォンの位置情報、速度情報といった各種センサー情報を収集できるスマートフォン用アプリケーション
技術本部 MotionBoard開発部 製品開発G
石川 久史 氏
カレンダーアイテムの開発を担当しています。日別売上金額や来客数などの時系列データをカレンダー形式で表現できるようにしてほしいとの要望からMotionBoardで扱える全ての時系列データを表示できるカレンダーアイテムの開発を始めました。
開発の際には、「カレンダーアイテムが利用者様の立場から見て使いやすいか、いかなる利用シーンにも対応できるカレンダーアイテムをするにはどうしたらよいか」を常に考え、お客さまや他の開発メンバーからいただいた改善点やご要望を真摯に受け止め、より良いカレンダーアイテムをご提供できるよう努めております。

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