近年、CTやMRI等を用いた医療画像領域を中心にAI深層学習技術(※1)を用いた画像診断支援が活発に議論され、一部は既に臨床応用が検討されている。
血液疾患の診断においては、血球数算定検査や顕微鏡による血液細胞形態検査、細胞表面抗原検査、さらに遺伝子検査など、複数の検査情報に基づいた総合的な判断が必要だが、これらの検査に携わる熟練した検査技師や医師が不足していることから、AI深層学習技術を用いた血液疾患の診断支援のニーズが高まってきた。特に、血液がんのフィラデルフィア染色体陰性(Ph-)骨髄増殖性腫瘍(※2)は血液細胞形態での判別が難しく病型分類が困難だった。
順天堂大学大学院医学研究科次世代血液検査医学講座の木村考伸 大学院生、田部陽子 教授らとシスメックス株式会社の共同研究グループは、AIにおける深層学習技術を用いて複数の血液検査結果を総合的に判断することで、血液疾患鑑別が可能な「統合型AI分析システム」を構築した。
同研究では、血液疾患、感染症や健常人を含む3,261症例の末梢血液標本から収集した計695,030個の血液細胞のデジタル画像データベースを用いて、まず深層学習技術によるAI画像解析システムの構築を行った。さらに基本的検査である血球数算定情報(150項目)を組み込むことで同システムの構築を行った。
次に、同システムを用いて骨髄増殖性腫瘍の病型である真性多血症(※3)、本態性血小板血症(※4)、骨髄線維症(※5)に対する血液検査情報の網羅的な分析を行った。
具体的には、AI深層学習を用いて血液細胞の形態異常などの画像特徴量(17種類の細胞分類、97種類の形態異常)を抽出し、抽出された特徴量に血球数算定の値を統合して統計的計算により病型鑑別に最も効果的と判定された174の特徴量を選び出した。その後、これらの特徴量を用いてAI技術の1つである勾配ブースティング法(※6)による解析を実施した。
骨髄増殖性腫瘍の病型鑑別に対して同システムによる鑑別診断能を検証した結果(真性多血症:34症例学習/9症例検証、本態性血小板血症:167症例学習/53症例検証、骨髄線維症69症例学習/12症例検証)、真性多血症は感度100.0%・特異度95.4%、本態性血小板血症は感度90.6%・特異度95.2%、骨髄線維症は感度100.0%・特異度90.3%という診断能力を有することを実証した。
今回の成果により、骨髄増殖性腫瘍の鑑別にあたりAI自動分析技術による末梢血を用いた迅速で簡便なスクリーニング検査・診断支援への応用につながるという。
今後、同研究成果の臨床実用化を進めると共に、さらに多種類の検査データを組み入れることによって汎用性のあるAI自動分析システムの構築を進めるとのことだ。さらに、白血病などの血液疾患の確定診断に不可欠である骨髄検査の自動化を次のターゲットとして、骨髄中の細胞の自動識別に挑戦し、確定診断に踏み込んだAIシステムの構築を目指す。
※1 深層学習技術:何段もの深い層を持つニューラルネットワークで構成される人工知能技術。深層畳み込みニューラルネットワーク(Deep Convolutional Neural Network; Deep CNNs) などが、人間の視覚をモデルに考案され、画像認識の分野で優れた性能を発揮している。
※2 骨髄増殖性腫瘍:骨髄中の造血幹細胞の腫瘍化による発症する疾患であり、顆粒球系、赤芽球、巨核球などの骨髄系細胞の著明な増加を特徴とする。
※3 真性多血症:骨髄増殖性腫瘍の一病型であり、骨髄での赤血球産生が過剰亢進する疾患。JAK2遺伝子変異などにより赤血球の増殖が進行する。白血球数、血小板数の増加もしばしば認める。
※4 本態性血小板血症:骨髄増殖性腫瘍の一病型であり、血小板の著明な増加を特徴とし血栓や出血傾向を呈する疾患。JAK2、CALR、MPLなどの遺伝子変異が原因と考えられている。
※5 骨髄線維症:骨髄増殖性腫瘍の一病型であり、造血幹細胞の異常により骨髄の線維化が進行する。骨髄血液産生能が低下し、貧血症状や出血傾向、易感染性が認められる。
※6 勾配ブースティング法:主に数値項目に対し高精度での予測・判別を実現する機械学習アルゴリズム。
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