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持続可能な医療を実現する「治療用アプリ」の可能性 ―CureApp 佐竹氏インタビュー

CureApp(キュア・アップ)は、従来の医薬品やハードウェア医療機器では、治療効果が不十分であった病気を治すための医療機器プログラムである治療用アプリを開発している。

治療用アプリは、これまで医療従事者が関わることが難しかった診察外の時間帯においても、患者への治療介入を実現し、認知や行動変容を通じて治療を行うことができるアプリで、医療機関から処方される。

しかし、日本では未だ承認を取得している治療用アプリは少ないのが実態だ。

そこで本稿では、一般的なヘルスケアアプリとの違いや治療用アプリが担う役割、今後の治療用アプリの可能性やCureAppの展開などについて、株式会社CureApp 代表取締役社長 佐竹晃太氏にお話を伺った。(聞き手: IoTNEWS石井庸介)

医学的エビデンスに基づく「治療用アプリ」

治療用アプリが一般的なヘルスケアアプリと異なる点のひとつは、治療用アプリのアルゴリズムやコンテンツが、臨床試験や医学的な論文、ガイドラインといった知見によるエビデンスをもとに開発されているという点だ。

そして介入試験や治験により薬事承認を受けられれば、医療機関の診療現場で活用することができる。

具体的には、薬などといった既存の治療方法の代替として治療用アプリを活用したり、薬などと併用して活用することで相乗効果を促したりといった形で治療を行っていく。

持続可能な医療を実現する「治療用アプリ」の可能性 ―CureApp 佐竹氏インタビュー
こうした治療用アプリの開発は、一般的なヘルスケアアプリ開発に比べ、治験や薬事承認を行うため時間がかかる。

そしてCureAppは、国内で先駆けて、薬事承認を受け、公的医療保険が適用された治療用アプリの開発に成功しているのだ。

治療用アプリが活躍する疾患や領域の選定

では、治療用アプリは一般的にどのような疾患に活用されるのだろうか。

ひとつは、糖尿病のような生活習慣病だと佐竹氏はいう。

生活習慣病は、日々の生活習慣の改善を行うことで、症状の改善及び予防を実現する。そこで、治療用アプリを活用した意識や行動の変容を促すことにより、それを実現していくのだ。

また、うつ病や依存症といった精神疾患や、喘息のような慢性的に管理する疾患にも有効なのだという。

他にも、抗癌剤を使ったがん患者に対して、支持緩和療法(※)としてアプリを活用するなど、幅広い領域での活用が期待されている。

そうした中CureAppでは、ニコチン依存症、高血圧、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルコール依存症、乳がん、慢性心不全に向けた治療用アプリの開発が進められている。

※支持緩和療法とは、がん患者の状況に応じ、身体的な苦痛だけでなく、精神心理的な苦痛に対するこころのケア等を含めた全人的なケアのことを指す。

持続可能な医療を実現する「治療用アプリ」の可能性 ―CureApp 佐竹氏インタビュー
様々な医療機関と連携しながら、複数の品目を同時並行で開発している。

そこでCureAppでは、こうした疾患の選定をどのように行うのか伺うと、「どのような領域や疾患に取り組むかは、市場規模などのビジネス的な観点と、治療用アプリを活用することで効果が期待できるかという観点で選定しています。」と、佐竹氏は述べた。

個々人に最適化した治療で禁煙成功率を高める

前章で述べたとおり、CureAppは様々な疾患の治療アプリの開発に取り組んでいるが、中でも初めに開発に取り組んだ禁煙治療向けアプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」(以下、「CureApp SC」)は、既に治験を含む複数の臨床試験を経て、薬事承認及び保険適用を受けた医療機器として承認されている。

「CureApp SC」で行われた臨床試験の1つである、第3相臨床試験では、約600人の患者の半数が「CureApp SC」と禁煙薬にて治療を行い、半数がダミーアプリ及び禁煙薬での治療を行った結果、「CureApp SC」を活用した群の禁煙成功率が統計学的に高いことが証明されている。

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2つの群の継続禁煙率。(濃い青が「CureApp SC」を活用した群)主要評価項目の9-24週において、対照群の50.5%に比べ「CureApp SC」を活用した群は63.9%と、統計学的に有意に高い結果となっている。

「CureApp SC」を活用した禁煙治療の流れは、まず医師が禁煙外来に来た患者に対して「CureApp SC」を処方し、問診や検査結果のデータを「CureApp SC」に入力する。

患者は診察と診察の間の空白期間にも、呼気CO濃度や、「どれくらいタバコが吸いたいか」などといった治療経過のデータを入力することで、個々人に最適化された治療ガイダンスや治療プログラムが、「CureApp SC」を通じて行われる。

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「CureApp SC」を活用した際の診察内容を表した図。

佐竹氏は、「ニコチン依存症の患者さんは、1人1人依存の度合いや生活習慣も異なりますので、個別化したアドバイスや治療を行っていく必要があります。

そこで「CureApp SC」を処方することで、日々の生活でタバコを吸いたくなったときの対処法、吸いたい気持ちを和らげる方法、そもそも吸いたくならない生活習慣などを、個々人に合わせて指導することができます。」と、ニコチン依存症に対する治療用アプリの有効性を述べた。

またCureAppは、医師と患者の信頼性の中でアプリを活用していくという方針を掲げており、意識や行動に変化を与えていくためには、人とアプリ、トータルでサポートしていくことが重要だと語った。

ニコチン依存症向け治療用アプリの経験を活かした高血圧症向け治療用アプリの開発

そして「CureApp SC」に続き、第3相臨床試験を完了して薬事申請が行われ、保険適用が見込まれているのが高血圧治療用アプリだ。

高血圧は、塩分摂取量、体重、ストレス、睡眠など、様々な生活習慣が血圧を上げる原因となっており、ニコチン依存症と同様、生活習慣の改善が必要となる。

そこで患者の生活習慣を、質問形式やアプリ内のキャラクターとの会話などでモニタリングし、それぞれの要因に対しての個別化された改善方法を、アプリを通してメッセージや動画などで指導していくのだ。

具体的に、どのようなメッセージや指導が行われるのかを伺うと「ほんの一例ですが、塩分の摂取過多になっている方に対しては、お味噌汁は全部飲み干す必要はないです、というような指導をします。」と、佐竹氏は話した。

持続可能な医療を実現する「治療用アプリ」の可能性 ―CureApp 佐竹氏インタビュー
高血圧症向け治療用アプリの画面イメージ。

また、高血圧アプリも行動変容を促すという点ではニコチン依存症に通ずるため、開発時の共通項があるのか伺うと、「CureApp SC」での開発時の反省点が活かされていると佐竹氏は述べる。

「「CureApp SC」は当初、『学習』にフォーカスしたアプリ設計でした。しかし試験アプリを実際に利用していただく中で、患者さんの精神的な面に寄り添う必要性を感じ、大きく軌道修正を行いました。

しかし治療用アプリの開発は、患者さんが利用するアプリや病院側のシステムとの連携、アルゴリズムの条件も多岐に渡り、とても複雑です。そうした中でアプリの方向転換を行うにあたり、システムを何度もゼロから作り直してきたという経験があります。

そこで高血圧アプリの開発・設計においては、軌道修正がしやすいよう、柔軟性の高い設計で開発しました。」と、「CureApp SC」での経験を活かして開発に取り組んでいると語った。

治療用アプリの可能性を広げる構想

持続可能な医療を実現する「治療用アプリ」の可能性 ―CureApp 佐竹氏インタビュー
株式会社CureApp 代表取締役社長 佐竹晃太氏

最後に、治療用アプリの今後の可能性や、CureAppの展開について佐竹氏に伺った。

佐竹氏は、「治療用アプリは各国で開発が進んでいます。例えばアメリカでは日本より早く治療用アプリが開発されました。しかし、日本のように全国民をカバーする公的医療保険制度がなく、保険適用している民間の保険会社は一部と聞いています。

一方、日本は製品の品目や企業数で言うとアメリカと比べ少ないですが、国民皆保険が適用されれば、一気にカバーされる患者様の数が増えるというメリットがあります。」と、日本というフィールドで治療用アプリ事業を行うことのアドバンテージを語る。

そこで、今後アプリ開発に参入する企業が増加することを見越して、CureAppは、異なるメーカーによる複数の治療用アプリを、医療機関が一元的に導入・処方するためのプラットフォーム、「App Prescription Service(APS)」の提供を開始している。

持続可能な医療を実現する「治療用アプリ」の可能性 ―CureApp 佐竹氏インタビュー
治療用アプリの処方プラットフォームである「App Prescription Service(APS)」。

この構想に対し佐竹氏は、「治療用アプリを開発する企業からしても、薬事承認を取得した後の契約や請求、処方管理などの工数に手間がかかります。そこで弊社のプラットフォームを活用することで、より安価かつ短期間で世の中に普及させることができます。」と、治療用アプリのさらなる普及を促すための構想であると語った。

さらにその先には、「治療用アプリ」という位置付けではなく、薬の処方内容や、薬の使い方も含めて提案していくソリューションにしていきたいのだという。

「治療用アプリの利点は、医薬品と比べて圧倒的に安価な研究開発コストでありながら、しっかりとした治療効果も出せるという点です。

医療費の適正化という観点でも、持続可能な医療の実現をサポートするソリューションとして、発展していくと考えています。」と、治療用アプリのメリットと可能性について述べた。

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