AR用ヘッドマウントディスプレイなどを展開するMagic Leap(マジックリープ)は、2022年9月、ARデバイス「Magic Leap 2」を、アメリカや欧州の一部などで販売を開始した。日本での発売は2023年の春頃を予定している。
2020年に発売された「Magic Leap 1」は、コンシューマーやエンターテインメントも含めた顧客向けの製品であったが、「Magic Leap 2」は法人利用を想定の上リニューアルされている。
いわゆるアプリストアはなく、デバイスで活用するソフトウェアは基本的にソリューションパートナーが製作したものをインストールする形をとっている。
また、国際電気標準会議(以下、IEC)が公表している、医療用電気機器の安全性と有効性に関する国際技術規格「IEC 60601」を取得したため、医療現場で活用されることが期待される。
本稿では、「Magic Leap 2」の概要を、Magic Leap Japan GK General Manager石川里美氏に伺いながら、Magic Leapの医療分野におけるソリューションパートナーである、Holoeyes株式会社 代表取締役 兼 CEO 兼 CMO 杉本真樹氏(トップ画左)に、その使用感を伺った。
また、杉本氏と東京医科大学医学部 3年生 永松由衣氏(トップ画右)による、「Magic Leap 2」とHoloeyesが提供する「Holoeyes MD」を活用した、実際のデモについてもレポートする。(聞き手: IoTNEWS小泉耕二)
法人利用へ向けアップデートされた5つの特徴
まずは、「Magic Leap 1」からアップデートされた「Magic Leap 2」の5つの特徴について紹介する。
一つ目の特徴は、ハードウェアが260gと軽量なことだ。「Magic Leap 1」の316gと比較すると、68g軽量化されている。
各種プロセッサなどをコンピュートパックに格納することで、頭に装着する部分を軽量化。一般的なヘッドフォン程度の重さを実現している。

これについて、医師であるHoloeyesの杉本氏は、「軽くて薄いため、手術中に周りが見えなかったり閉塞感があったりといったストレスが減った。また、Magic Leap 1よりも熱効率も良くなったため、装着しているのが辛くなくなった。」と、装着感においてのメリットを語った。
二つ目の特徴はコントローラだ。
ヘッドセットにもハンドトラッキング機能は搭載されているが、コントローラを活用することで精度が向上する。
コントローラにはカメラが2つ搭載されているため、メガネから見えている視界以外の部分まで捉えることができる。
また、コントローラを活用することで、細かな位置を指し示したり、動作したりすることができるため、医療用途においても便利なのだと杉本氏は言う。

左矢印:ペンツールを活用し、緑の丸で対象箇所を指している。 右矢印:切除ラインを示している。
「Magic Leap 2は手術に限らず、内科でも活用されている。例えば、超音波で患者の内部を把握しながら、ガンに針をさして焼くといった手法や、内視鏡で見ながら、器官の中の癌組織をつまんで検査に出すなどの動作を行う際の練習に利用されている。見るだけではなく、組織をつまんだり、焼いたりといった細かい動作においても活用することができる。」(杉本氏)
加えて、自己位置推定性能が上がったおかげで、複数人でディスカッションしている際も、コンテンツの位置ずれがなく、遠隔地にいるドクターが細かな動作や指摘をすることも可能だ。
三つ目の特徴は視野角が広がったことだ。「Magic Leap 1」と比べると縦の視野角が約2倍になっている。

「Magic Leap 1」の利用者から、「横に首を動かすのは苦にならないが、縦に細かく首を動かしてモノを見るのは大変だった」という声があったため、改善されたのだという。
改善後は縦約53°という視野角で、通常人が感じる視野と同等の感覚を生み出している。
四つ目の特徴は、ディミング(遮光)機能だ。ディミング機能には「グローバルディミング」と「セグメンテッドディミング」の2種類がある。
「グローバルディミング」は、画面全体を遮光することができる機能だ。これにより、現実世界の明るさに左右されることなく、デジタルコンテンツのみを鮮明に見ることができる。
「セグメンテッドディミング」は、デジタルコンテンツの領域だけ光を遮る機能だ。これにより、現実世界も見える状態の中、主要なコンテンツを鮮明に表示することができる。

杉本氏はディミング機能について、「術中はライトがすごく明るいので、見たいものだけに影を付けたいというニーズに、セグメンテッドディミングは応えてくれている。」と述べた。
「IEC 60601」の取得により医療業界での活用が拡大
次に、国際技術規格「IEC 60601」を取得した経緯について伺うと、以前より関係が強かったアメリカの医療系の会社からの要望があり、そうした会社と共に、研究段階からIEC取得へ向けて取り組んだのだと、Magic Leap Japanの石川氏は言う。
アメリカで医療機器を販売するには、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:以下、FDA)への申請・登録が必要だ。FDAの公認コンセンサス規格にはIEC 60601に関する項目も追加されており、IEC 60601を取得している「Magic Leap 2」は優位に働く。
日本の場合は医薬品医療機器総合機構(PMDA)にて審査が行われており、細かな基準はFDAと異なるものの、安全性と有効性が重要な評価基準であることは同じだ。
また、「IEC 60601」を取得していることにより、プログラム医療機器(Software as a Medical Device:SaMD)の開発事業者にとっても有効なデバイスであると認知されるため、医療業界でのさらなる活用が期待される。
医療教育においてARを活用することで得られるメリット
「Magic Leap 2」はすでに医療業界で活用されている。今回は、Holoeyesが提供する「Holoeyes MD」との事例を紹介する。
「Holoeyes MD」は医療機器認証を取得しているサービスで、画像情報を処理して診療に活用するプログラムだ。
この「Holoeyes MD」と「Magic Leap 2」を併せて活用することで、医療診断画像や人体の臓器・部位などを3Dモデル化することができる。表示された3Dの臓器などは、位置や大きさが全く同じものを、同じ場所にいる複数人で同時に確認することができる。
また、Holoeyesが提供する、バーチャルセッションをVR空間でアバターごと共有できる「Holoeyes VS」を活用することで、遠隔地からの共同作業も可能だ。
これにより、これまで2Dで対応していた手術前のブリーフィング(事前説明)や研修医への授業にて、3Dモデルを活用して実施することができる。
杉本氏は、「手術はベテランから若手まで様々な医師が関わるため、意見が割れることも多い。通常は記憶を頼りにディスカッションが行われるが、答え(3Dモデル)があることで答え合わせができ、学習にもつながる。」と、医療現場においてのメリットを語った。
そして実際に、患者のCT画像から取った3Dの臓器データを目の前に映し出し、杉本氏が、東京医科大学医学部生の永松氏に説明するデモを実施してもらった。

杉本氏は、教育において3Dモデルを活用することができるメリットについて、「リモートで行われている授業では、教科書やiPadで学習をしているが、立体感がなく、わかりづらいことも多い。そこで、空中に3Dの臓器を動かしながら体感できると、より記憶に残ると考える。
これは基礎教育ではなく臨床教育であり、OJT(職場内訓練)に近い。卓上であっても実際の手術データを活用して、OJTと同じレベルの体験ができるのは、他の教材にはない。」と語る。
デモを体験した永松氏は、「これまで解剖する機会はあったが、正常な臓器や生きた体の臓器、病気で形状が変わっている臓器などは見たことがなかった。
また、血液が入っている血管は張っているが、解剖で活用される体は血管内の血液が抜かれているので、血管がベタっとして見える。
デモでは、CTやMRI画像をそのまま3Dで映し出してくれるため、血管の走行や本数、臓器の奥行きなども把握することができる。」と、リアルに近い形で学習することができるのだと述べた。
また、人によって血管や臓器の大きさや形が異なるため、様々な患者のデータを活用した学習に大きな意味があるのだと杉本氏は言う。

学生のうちから患者に触れる前に、患者のデータを見る経験をしておくことで、実際の患者に触れるときにはある程度体験している状態を作ることができる。」(杉本氏)
杉本氏は他にも、学会で発表される際に活用されたり、手術記録をVRで記録してあとから見返すツールにしたりと、医療現場における様々なシーンでこのソリューションが活用されているのだと述べた。
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