高齢化が進む日本では、加齢に伴う骨粗鬆症患者が1300万人に上る一方で、骨粗鬆症検診受診率は約5%に留まっている。その結果、骨粗鬆症患者のうち約80-90%は治療介入ができていない。骨粗鬆症が未治療のまま放置されることで骨折、要介護状態に繋がり、これらによる医療・介護総費用は約1兆円に上る。骨粗鬆症検診を実施するにあたり、特殊な検査機器を用いるため多くの被検者を対象にできないこと、被検者側の受診の動機づけが難しいことが課題となっている。
整形外科領域のAI医療機器の開発および販売を手掛けるiSurgery株式会社は、愛知県蒲郡市および蒲郡市医師会と協定を締結し、2022年11月〜2023年3月に実施中の「肺がん検診を活用した骨粗鬆症治療介入率向上プロジェクト」の中間解析結果を報告した。
同実証実験は、肺がん検診で撮影した胸部X線写真からAIによる骨粗鬆症リスク評価を行い、骨粗鬆症患者の早期発見に繋げることの有用性を評価するものである。具体的な実施の流れは以下の通り。
- 市の肺がん検診事業を施行、肺がん検診受託の医療機関(医師会)にて検診実施
- 希望者の胸部X線写真をAI解析し、骨粗鬆症リスク評価(既に治療介入を受けている方は対象外)
- 骨の状態が要精査範囲内*であれば、整形外科受診を案内。また、生活指導が必要な場合は市の健康推進課へ案内し、保健指導を実施
- 要精査となった参加者は、整形外科を受診。診察、精密検査を実施
- 骨粗鬆症の診断、治療介入
解析の結果、期間中に肺がん検診を受けたのは2,204名で、そのうち1,385名(62.8%)が骨粗鬆症のリスク評価を希望した。AIによる解析結果、770名(55.6%)が「要精検」と判断され、そのうち450名(58.4%)が整形外科を受診した。整形外科での診察および精密検査の結果、210名(46.7%)が骨粗鬆症と診断され、治療を開始した。また、市の健康推進課には3名が紹介され、保健師による生活指導と健康運動指導士による運動指導を実施した。
AIの精度について、今回の実証実験において陽性的中率は80.0%という結果となった。これは、AIによる評価(YAMが80%未満)に基づき整形外科を受診した参加者の内、実際の精密検査でも80%未満と判定された割合である。
年間を通じての試算によると、約3,324人の骨粗鬆症のリスク評価が可能となる。これは従来、蒲郡市が実施している骨粗鬆症検診受診者数の約18倍の数となる。
またリスク評価により、約504人の骨粗鬆症患者の診断と治療開始が可能となると見込まれる。適切な治療介入により、10年以内に発生する可能性のある骨折を46人の患者で予防することができるという。特に、介護の原因となる大腿骨近位部の骨折は、16人の患者で予防が可能とした。これにより、年間の医療費及び介護費の削減効果は約2,936万円となると予想される。
人口8万人の都市である蒲郡市で実施したこのモデルケースを全国規模に展開した場合の試算によれば、約79.1万人の骨粗鬆症患者の診断と治療開始が可能となると見込まれる。適切な治療介入により、大腿骨近位部の骨折を予防できる患者数は約2.6万人、年間の医療費および介護費の削減効果は約460億円となると予想される。
なお同実証実験は、市の実施する肺がん検診受診者(国民健康保険加入者)を対象としている。今後、社会保険加入者を対象とした企業健診での骨粗鬆症スクリーニングの実証実験も予定している。
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