内視鏡は、先端の管を体内に挿入し、検査や組織サンプルの採取に使用する医療機器だ。低侵襲性と高い安全性が評価され、適用領域は年々拡大し、高機能化も進んでいる。特に最近では、内視鏡撮影映像から病変の恐れがある部位を内視鏡操作者に提示し、早期発見に貢献するなどの高度な支援機能が備えられている。
しかし、現在の内視鏡は全ての機能を内視鏡装置内で処理しており、性能限界やメンテナンス性が課題となっている。また、リアルタイムでの遠隔診断や治療の実現など、新たなユーザニーズに応えるための柔軟な機能改善やアップデートが必要となる場面が増えることが予想される。
そこで、映像処理等処理負荷の高い一部の機能をクラウド上で分担する「内視鏡のクラウド化」が議論されている。
このクラウド化の実現には、内視鏡機器とクラウドを接続するためのネットワークが重要だ。しかし、ネットワーク上で遅延が発生すると、内視鏡の操作に対する映像の遅れが発生し、内視鏡の操作者に違和感を与える。違和感を避けるためには、内視鏡で捉えた高画質の映像を安定的かつ低遅延でクラウド上の映像処理システムへ送ることが必要であり、その実現が課題となっていた。
こうした中、日本電信電話株式会社(以下、NTT)とオリンパス株式会社は共同で、内視鏡の映像処理機能をクラウド上で実現するクラウド内視鏡システムをIOWN APNを用いて構成し、今年3月からの実証実験で、APNがクラウド内視鏡システムの実現に向けたネットワーク課題を解決できることを実証した。
この実証実験では、オリンパスの内視鏡の技術に加え、NTTの高速低遅延のネットワークであるAPNを組み合わせることで、クラウドにおけるリアルタイムな内視鏡映像処理の実現を目指し、実機検証を実施した。
具体的には、内視鏡映像を入力するデバイス(以下、エッジデバイス)から約150km離れた映像処理を行うサーバ間をAPNに接続し、クラウド内視鏡システムとして構成した。
実証実験においては、内視鏡スコープで撮影された映像を、内視鏡プロセッサを経由してエッジデバイスに送り、映像を非圧縮のままAPNを通じてサーバに転送した。
映像を受け取ったサーバがAIなどによる映像処理を行い、処理済みの映像をエッジデバイスに返送し、最終的にエッジデバイスに接続された操作者が閲覧するモニタに処理後の映像を出力した。
そして、距離約5mのケーブルによるローカル接続(内視鏡内での処理を想定)と距離約150kmのAPN接続の2構成にて映像処理を行い、操作者のモニタに出力された映像を測定用デバイスで撮影することで、ネットワークのデータ遅延計測、および映像比較評価を行った。
リアルタイムで映像を確認しながら検査や手術を行う内視鏡システムの特徴を踏まえると、内視鏡スコープで撮影された映像を映像処理し操作者に遅延なく表示する必要がある。そのため、モニタに出力される映像データ4K/60fpsが数フレームでも遅れて表示されると、操作者に違和感を与えてしまう。
そこで今回の実験では、約150kmのネットワークとして許容するデータ転送の遅延値を、映像の1フレーム以内(16ミリ秒以内)にする事を目標として実験を行った。
その結果、遅延値は1.1ミリ秒となり、目標の1/10で転送が可能である事が実証された。
また、内視鏡操作者の目視確認による映像比較評価の結果においても、ローカル接続とAPN接続とでは遅延・揺らぎの両面において差分が感じられないほどであることが確認され、APNの遅延時間は映像処理のボトルネックにはなり得ないということが実証された。
今回、エッジデバイスと約150km離れたサーバ間での映像処理が可能であることを確認されたことは、首都圏全域など広域エリアの病院を一カ所に集約した映像処理サーバで処理ができることの可能性を示しており、今後のクラウド内視鏡システムの社会実装に向けた知見となった。
今後両社は、クラウド内視鏡の社会実装に向けた検討を進め、クラウド化による内視鏡システムの性能・機能改善やアップデートの対応を目指すとしている。
なお、今回の研究成果の一部は、2024年11月25日~29日に開催される「NTT R&D FORUM 2024 ―IOWN INTEGRAL」に展示予定だ。
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