製造業や鉄道、電力などの社会インフラ分野では大容量や低遅延の通信に加え、通信の遅延や障害により業務が停止した場合、復旧に時間がかかり、生産計画や設備保全などに影響を与えるため、5Gのさらに高い信頼性や安定性の確立が求められている。
また、映像データをリアルタイムで分析・活用する取り組みでは、現場での物理的な配線や設備を考慮せずに導入できる無線、かつ大容量・低遅延に処理を行えるエッジコンピューティングの環境が求められる。
株式会社日立製作所(以下、日立)と株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)は、製造業や社会インフラ分野でのDX推進に向けたユースケース創出のため、SA方式(※1)の5G環境下で、AR技術を活用した組み立て作業支援のアプリケーション(以下、AR組み立てナビ)が安定稼働できるかを確認する実証実験を2022年3月1日~29日まで実施した。
AR組み立てナビは、作業現場の映像データをAIでリアルタイムに分析・判断し、作業台上にプロジェクターから作業者がとるべき行動をプロジェクションマッピングで表示することで、的確な作業支援を行うアプリケーションである。
同実証実験では、AR組み立てナビをドコモオープンイノベーションクラウド上で稼働し、日立の研究開発拠点「協創の森」の実証環境とドコモオープンイノベーションクラウドを5Gサービスで接続した。また、高い信頼性や安定性を確保するため、日立が開発した5Gハンドリングミドルウェア(※2)を用いて、パケットを複製してメイン回線のSA方式の5Gとバックアップ回線のNSA(※3)方式の5G双方で伝送し、二重化した。
そして、ドコモオープンイノベーションクラウドでAR組み立てナビを稼働させ、前工程の作業完了を検知してから次工程の作業指示を投影するまでの応答時間を測定することにより、アプリケーションが実用に耐えられるか検証した。今回は、組み立て業務に支障を与えない応答時間の目標を3秒以下と設定した。
検証の結果、応答時間は目標値以下の1.5秒であり、実用に耐えられることが確認できた。この結果は、4G LTEを使った評価の4.2秒に比べると2.7秒の応答時間の短縮であり、さらに複数の作業指示からなる工程全体では40%の生産性向上にあたるという。また、5Gハンドリングミドルウェアを用いることで、SA方式の5G通信に遅延があった際もバックアップ回線であるNSA方式の5G通信からデータが届くので、通信が途切れることなくAR組み立てナビを安定稼働できることを確認した。
※1 SA(Stand Alone):5G専用の基地局と5G専用のコアネットワークを用いる方式。
※2 5Gハンドリングミドルウェア:無線の二重化などによりEnd to Endで高信頼で安定した通信を提供するミドルウェア。日立にて開発中。
※3 NSA(Non-Stand Alone):5G基地局と4G LTEコアネットワークを用いる方式。
無料メルマガ会員に登録しませんか?
IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。