JAMSTECとNTT、地球シミュレータとエッジコンピューティングを活用した階層・分散ネットワーク型気象予測システムの共同研究

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)と日本電信電話株式会社(NTT)は、地球シミュレータ(注1)とエッジコンピューティング(注2)を活用した階層・分散ネットワーク型気象予測システムの共同研究を開始すると発表した。

この共同研究で、JAMSTECが現在開拓を進めている「海洋地球インフォマティクス」構想とNTTが開拓を進めている「エッジコンピューティング」構想のコラボレーションにより、新しい社会的価値とサービスの創出を目指す。

 

【共同研究の背景】

近年、地球温暖化や都市化に伴うヒートアイランド現象などの影響により、局所的な集中豪雨(いわゆる「ゲリラ豪雨」)や猛暑などの極端な気象現象の頻発傾向や激甚災害の危険にどう対応していくかが社会的に大きな課題となっている。

JAMSTECでは、地球シミュレータ上で大気と海洋を結合した予測シミュレーションモデル「(MSSG:Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment、以下(MSSG)」(注3)の開発を行ってきた。このMSSGは、全球から日本周辺などの領域スケール、ビル等の建物を解像した都市・街区スケールまでの予測計算を階層的に高速かつ精度よく実施できるので、局所的な大雨や突風、日照時間などの詳細予測情報を提供できる高いポテンシャルがあるとのことだ。

一方、NTTでは、ユーザやスマートフォン、様々なセンサーなどの通信機能を搭載した端末に近いネットワークのエッジに計算資源となるサーバー(エッジサーバー)を分散して配置し、様々なアプリケーションが必要とする処理を高速に行うエッジコンピューティング基盤技術の研究開発を行ってきており、IoTの加速度的な発達で生じる厖大なデータを発生源近くのエッジサーバーで処理することによる効率化も可能としてきた。

この両者のコラボレーションにより、エッジコンピューティング技術を高度な予測技術と組み合わせることで、予測結果と個人、企業、社会の要求に基づいてIoTを制御し利便性や安心・安全を向上する「超スマート社会」を目指す。

例えば、ゲリラ豪雨や猛暑が予測される際に交通やエネルギー供給などの都市活動を最適化したり、激甚災害時の防災・耐災のための装置の最適配置や制御を行う。または、個人ごとに、次の週末のしたいことと天気情報をミックスして個人にジャストフィットするような予定情報を提供したり、豪雨や突風を回避して安全安心に移動する経路とタイミング情報を提供することができるようになる。

エッジコンピューティングとスーパーコンピューティングによる階層的な高速処理により、様々な要求によりフィットする解析と予測が提供でき、さらには、得られたデータと情報をもとに、センサーの測定方法や測定頻度の変更、センサーの移動や新たなセンサーの追加を行い、測定の密度を修正・強化していくことで、スパイラル的に新たなデータや情報、価値の創出が図れる。

 

【共同研究の概要】

本共同研究は、スーパーコンピュータ上で鍛えられた予測シミュレーション技術とエッジコンピューティングおよびネットワーク通信技術を融合し新たなイノベーションの創生を目指すものだという。
具体的には、各地域に分散配備されたエッジサーバー上において、周辺のセンサー群からのリアルタイム観測データを活かした局所的な気象予測システムの技術開発を行う。このような地域分散型気象予測の精度向上のために、既存の気象観測データに加えて、定点カメラ映像や家電が持つセンサーから気象に有用な情報を抽出して利用することも検討するという。

各エッジサーバーは多様な局所データを取り入れて局所的な予測計算を行い、さらに複数エッジサーバーの結果を解析統合することで、計算ネットワーク上としては異なる階層に属する地球シミュレータなどのスーパーコンピュータ上での広域気象予測の精度向上にも活用する双方向予測情報システムの構築を目指す。
ここで得られた予測情報は、我々の身の回りの多様なデバイスへ自動配信することができるような利用形態の実現やサービスも視野に入れ、新しいデータと情報をヒトやモノに提供し、人々の生活に役立つ新しいイノベーション技術および新しいサービスアイテムを併せて検討するという。
また、モデル地域での実証実験を実施することによってエッジコンピューティングと次世代気象予測の総合システムの有効性を検証する予定とのことだ。

 

【今後の予定と展開の方向性】

平成31年3月末までの3年間で技術研究開発を進め、最終的にはモデル地域における実証実験を実施し、有効性や可能性を検証。
政府は、第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)において、「超スマート社会」の実現を目指している。「超スマート社会」とは、「必要なもの・サービスを必要な人に、必要なときに、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢・性別・地域・言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことの出来る社会」のことである。今回の共同研究によるシステムは、気象予測情報を活用した「超スマート社会」のひとつの未来像として、気象災害への対応をはじめとして、暮らしに役立つ様々なサービスを提案していくと発表している。

 

注1 地球シミュレータ
地球シミュレータは2002年3月に、地球温暖化を始めとする気候変動の解析・将来予測、地震や地球内部変動の解明等、世界に類を見ない「人類的課題に挑戦できる世界最速のスーパーコンピュータ」として運用を開始。特に気候変動研究分野では、温暖化予測実験に広く利用され、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書作成に大きく貢献。また、その高い計算能力は、材料開発、輸送機器改良、デバイス開発、医薬品開発など、最先端の産業分野にまで広がり、従来のシミュレーション研究では到達出来なかったレベルの成果が発表された。
そして、2009年3月の最初の更新を経て2015年3月、地球シミュレータにとって2度目となるシステム更新を行った。地球科学分野のシミュレーションを行う能力は、これまでの約10倍となる。
これにより、従来では難しかった複雑なパラメータを扱うシミュレーションや、より大規模なシミュレーションを高速に行うことが可能となり、地球環境問題の解決や地殻変動、地震発生機構の解明や津波被害の予測等への更なる貢献が期待されてる。

JAMSTECとNTT、地球シミュレータとエッジコンピューティングを活用した階層・分散ネットワーク型気象予測システムの共同研究
JAMSTEC「地球シミュレータ」

 

注2 エッジコンピューティング構想
エッジコンピューティング構想は、端末機器のみでデータを処理するのではなく、端末に“近い設備”でデータを処理することにより、端末の負荷を軽減し、リアルタイム性を要求するサービス(ゲーム、交通制御など)やサーバーとの通信の頻度・量が多いデータ処理など、新たな領域のサービスの実現を目指した構想。本構想に基づき、すでにWebコンテンツの処理をサーバーと端末間で分散処理することでブラウザ性能向上と機能拡充を図る「分散型Web実行プラットフォーム技術」を商用サービスに提供。NTTでは、この構想の実現をめざし、WebやIoTに向けたプラットフォームとして研究開発を行っている。

エッジコンピューティング構想
エッジコンピューティング構想

 

注3 大気海洋予測シミュレーションモデル(MSSG)
気象や気候現象は、様々な時空間スケールの現象が複雑に相互作用を及ぼしあって成り立っている。そのため、世界規模、アジアや国程度の地域規模、都市などの局所的な規模に合わせてそれぞれ特有の現象を考えてシミュレーションを実施する必要がある。MSSGは、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」上で開発された、異なるスケールを途切れなく扱うことを可能にした最先端の大気海洋予測シミュレーションモデル。

JAMSTECとNTT、地球シミュレータとエッジコンピューティングを活用した階層・分散ネットワーク型気象予測システムの共同研究
スケールの異なるシミュレーションの概念図

MSSGを使うことで、局所的な大気の状態をシミュレーションできることから、地上から見た雲の様子を可視化することも可能。

JAMSTECとNTT、地球シミュレータとエッジコンピューティングを活用した階層・分散ネットワーク型気象予測システムの共同研究
MSSGモデルにより得られたシミュレーション結果を元に作成した雲画像

 

【関連リンク】
国立研究開発法人海洋研究開発機構
日本電信電話株式会社
NTT R&Dフォーラム2016

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