近年、利便性と安全性を両立する本人確認手段として、生体を使った認証の普及が進んでいる。株式会社富士通研究所では、手のひら静脈認証を開発し、2018年にはカードや暗証番号などの情報を用いずに本人かどうかを生体情報だけで認証するニーズに応えて、顔と手のひら静脈認証を組み合わせた生体認証融合技術を発表している。今後、生体認証は、買い物時の決済やログイン、入退室などあらゆるシーンでさらに利用が拡大していくと予想される。
従来の生体認証システムは専用線を利用したクローズな環境で運用されてきたが、今後大規模チェーン店でのキャッシュレス決済などの利用拡大を見込み、インターネットを経由したオープンな環境で利用できる生体認証システムの実現が期待されている。
オープンな環境で大規模かつ安全な生体認証を実現するためには、端末で暗号化された生体情報を認証サーバに送信して、暗号化したまま照合する必要がある。生体情報を暗号化したまま照合する技術では、一般的に、生体の画像データを単純なコード(数値列)に変換し、それに乱数をかけて暗号化を行う。
しかし、従来の技術では、複雑な生体画像の特徴量を単純なコードに変換することによる照合精度の劣化と、コードが膨大になることで照合処理に時間がかかることが課題となり、実用化に向けてこれらの解決が必要だった。
そこで、富士通研究所は、手のひら静脈認証を対象に、従来の生体認証システムと同等の認証精度・処理速度で、生体情報を暗号化したまま認証できる技術を開発した。同技術の特長は以下の通り。
- 認証精度の劣化を抑制
- 処理時間を短縮
生体認証では、あらかじめ登録している生体情報の特徴量(※1)と、認証時に入力された生体情報の特徴量との類似度に基づいて照合を行う。今回、照合結果への影響度に応じて、コード化する領域の大きさを動的に調整することで、コード化に伴う特徴量の類似度の変化を抑え、照合精度を劣化させないコード生成技術を開発した。
従来のコード化技術では、生体の画像データ全体からコードを生成していたため、照合処理に時間がかかっていた。今回、生体の画像データの中で、照合精度への影響が大きい領域を自動的に選択してコード化する技術を開発した。これにより、コードの増大を抑制し、コード化をしない生体認証技術と同等レベルの速度で認証することができる。
今回、手のひら静脈のデータ10,000人分を使用して開発技術の認証精度を検証したところ、コード化しない方式と比較して、ほぼ同等の照合精度と処理時間となることが確認できた。富士通研究所が2013年に発表した、1つの生体情報から複数の特徴コード(※2)を生成できる技術を加えることで、生体認証サービスごとに異なる特徴コードを活用することや、万が一のデータ漏えい対策にも有効だという。
これにより、従来は専用サーバや専用ネットワークを必要としていた生体認証システムを、今後は安全にオープンな環境で使えるようになり、インターネットを経由したクラウド環境での安心・安全な生体認証システムを活用した手ぶらでの決済の実現が期待される。
富士通研究所は、開発技術の処理高速化をさらに進め、2019年度中の実用化を目指す。
※1 画像の中で、登録・照合のために利用するデータ。
※2 手のひら静脈画像の特徴部分を2,048ビットの0と1で表現する富士通研究所独自の技術によるコード。
プレスリリース提供:富士通研究所
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