「安全で迅速な避難」および「円滑な避難」を実現する避難経路導出方法が求められている中、実際の避難路決定は地図アプリや地元の人の経験などに頼っているのが現状である。地図アプリによる最短経路は必ずしも避難経路に向いている安全な経路とは言えず、その経路が使えなかった場合に備えて複数の避難経路候補を示せる方法が求められている。加えて、経験的な知識のみでは定量性に欠けるため、定量的な比較をする方法も必要である。
また、東京都は「東京の防災プラン」の中で、地震に対して「安全で迅速な避難の実現」、風水害に対して「円滑な避難の実現」を目指すとしており、このためには複数の避難経路候補から定量的根拠に基づいて避難経路を選択することが不可欠になるが、従来の経路検索アルゴリズムでは、単一の始点と終点を結ぶ最短経路を求めることのみが可能であり、複数の避難場所に向かう複数の避難経路の優先度を追加計算なしに定量的に比較することは困難だった。
そのような中、ネットワーク最適化手法の知見を持つ地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター(以下、都産技研)とGIS(※)の知見を持つ電気通信大学は、都産技研の平成29年度に開始した共同研究で、粘菌アルゴリズムを用いて一度の計算で複数の避難経路を定量的に導出する手法を開発した。
粘菌アルゴリズムとは、真正粘菌変形体(粘菌)の輸送管ネットワークに着想を得たアルゴリズムである。粘菌は細胞体内に形成した輸送管を通して原形質の往復流動を行い、輸送効率に優れた輸送管ネットワークを動的に形成することができる。同研究は粘菌のこのような特性に着目し、道路網と粘菌の輸送管ネットワークの関係を、道路はリンク、交差点はノード、歩行者は原形質と解釈した。
また、道路と粘菌アルゴリズムの各変数の関係を、通行可能性はコンダクタンス、道路長は管長、優先度は流量、始点と終点は原形質の流出入点と解釈した。つまり、原形質の流出入点を結ぶ輸送管の流量を求めることで、避難経路としての優先度を比較することができる。
今回、河川に挟まれ災害危険度の高いJR北千住駅周辺において、下図のような手順で同手法を用いて導出した避難経路と、得られた避難経路の優先度を定量的に比較可能で経路毎に計算する従来の経路探索手法の1つであるダイクストラ法を用いて導出した避難経路とを比較した。
その結果、追加計算不要で避難成功率の高い避難経路を導出すること、複数の避難経路の性能を得ること、少ない計算時間でより効果的に避難経路を導出することの3点において、前者が優位であることを確認した。
これにより、定量的根拠に基づいた避難経路を得ることとその評価が可能となり、安全な避難に寄与する。
今後は、浸水や周辺火災などによる道路の災害危険度を考慮した避難経路を導出できるような手法の改良や、災害時に使用可能なアプリの開発などを目指す。
※ 地理情報をコンピューター上で扱うためのシステム。
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