IDC Japan株式会社は、国内従業員エクスペリエンス(以下、EX)に関する国内企業の取り組み動向を発表した。
IDCではポストCOVID-19をデジタルビジネスの時代である、と定義している。デジタルビジネスとは、プロセスの実行、製品/サービスに関する一連の提供プロセスおよび収益創造プロセスがデジタルファーストを前提としており、デジタルビジネスの時代とは、このようなデジタルビジネスから得られる収益が企業の継続性を支える時代を意味している。
IDCでは、従業員が入職(入社)採用から退職(離職)までに所属企業で経験する様々な体験を示すEXの向上を、コラボレーションの質を高め、デジタルビジネスを推進する組織体制を構築するための重要な要素であると位置付けている。
過去2~3年間で浸透したリモートワークの拡大など働き方の変化、デジタルビジネスの創出を行うための高度な人材ポートフォリオを維持/構築、2023年1月に実施された企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正による人的資本開示の義務化などは、EX向上の必要性を高めているという。
EXは、採用における体験、職場環境、企業文化、リーダーシップ、パフォーマンス管理、キャリアの成長機会、給与/福利厚生、職場における関係性など、複数の要素から構成される。調査の結果、国内企業におけるEXに関する取り組みに関して、以下が明らかとなった。
- EX全般に関する国内ユーザー企業の意識/取り組み状況では、EXが自社の成長や社外への価値提供に関して正の相関がある、という認識が高い割合で浸透していることが明らかとなった。一方で、経営陣のEXに対するコミットメントが従業員に周知されていない状況や具体的な取り組みが十分でない動向が判明した。
- EX向上に向けた取り組みの一つである人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげていく人的資本経営に関連した人的資本開示に関する取り組み状況では、指標の開示に向けた具体的な取り組みを行う企業の割合は30.0%以下となった。更に、開示に関連したタレントマネジメント、従業員エンゲージメント、研修プラットフォームなどのシステム導入の状況では、未導入の割合が40.0%程度に達した。
- IDCが実施したグローバル調査では、EXに関連した投資の注力領域において、日本では「物理オフィスの再考」に関する関心が相対的に高い結果が確認された。また、労働力や従業員のスキル不足による収益へのマイナス影響を認識する企業の割合が、世界と比較すると相対的に高い結果となった。
このような調査結果を踏まえると、日本におけるEXに関する取り組みのうち、人的資本経営に関する取り組みは、プロジェクトの初期段階にあるとIDCは考えられている。また、IDCのグローバル調査の結果からは、日本のオフィス勤務や物理空間に対する優先順位の高さが明らかとなった。
勤務形態/勤務空間は、EXの要素のうち職場環境を示すが、物理空間を活用した従業員同士のコラボレーションを収益/生産性向上や従業員のスキル向上の手段として重視する傾向が相対的に高い状況が推察される。
同調査では更に、EXを取り巻く動向から人的資本開示に関する法令改正および開示内容の詳細、EX関連指標の測定/従業員のパフォーマンス管理/研修機会の提供などの機能を拡充する人事管理アプリケーションに関する2022年の市場規模実績と2027年までの市場予測、EX施策に関する国内企業の事例と国内EX関連ソフトウェア市場に参入するベンダー動向について記載している。
事業環境/顧客の需要が絶えず変化するデジタルビジネスの時代において、企業には自社製品/サービス/提供プロセスを市場/顧客の変化を対応させ提供価値を高めていくCX向上の視点と、これを支える組織体制の構築双方の視点が求められる。
このような組織体制の基盤に位置付けられるEX向上の実現に向け、IDC Japan Software & Services シニアマーケットアナリストの太田早紀氏は「ITサプライヤーは、自社ソリューションのEXとビジネス価値における位置づけの明確化、活用シナリオに基づいた従業員データの統合機能、コンサルテーション機能の強化とパーソナライゼーション機能の組み込みを積極的に行うべきである」と分析している。
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