図書館運営において、蔵書点検は「所蔵資料があるべき場所にあるか」「行方不明の資料はないか」を確認する年に一度の大切な作業である。この点検は、本に付与したバーコードやRFIDを手作業で読み取ることが多く、数か月前から計画を立て、1週間程度休館し作業を行なう。そのため、休館による利用者への長期の利用制限の発生とともに、作業者の作業負荷や臨時雇用が必要になるなど、効率性の向上が課題となっている。
RFID導入状況 | 国内公共図書館全体での割合 | 蔵書管理の方法 | 1人で1時間作業した場合の読み取り速度 |
未導入 | 7割以上 | 書籍のバーコードで管理。バーコードリーダーを使って、手作業で1冊ずつ読み取る。 | 1,000~1,200冊程度 |
HF帯RFID導入 | 2割程度 | HF帯RFIDを書籍に付与して管理。ハンディリーダーを使って、手作業で1冊ずつ読み取る。※リーダーを導入できず、バーコードでの管理となっている場合も多い | 1,000~2,000冊程度 |
UHF帯RFID導入 | 1割未満 | UHF帯RFIDを書籍に付与して管理。ハンディリーダーを使って、手作業で複数冊を同時に読み取る。 | 2,000~10,000冊程度(リーダーの性能による) |
大日本印刷株式会社(以下、DNP)と富士物流株式会社は共同で、全国の図書館に向けて、RFID(ICタグ)を活用して様々な厚みや大きさの資料でも作業時間を短縮する蔵書点検サービスの提供を開発し、2023年10月より提供を開始する。
同サービスは、図書館ごとのRFIDの利用状況に応じて、効率的なスキャニング手法を提案するサービスである。RFID未導入の図書館に向けた導入支援も行っているほか、図書館への事前調査、作業設計と準備作業(蔵書点検ルートや手順等の設計、作業員や機材の確保等)、実際の蔵書点検作業の代行(蔵書点検作業~蔵書点検データ作成、不明本リストに基づく現物確認等)も実施している。
例えば、HF帯RFID対応のパッケージサービスの場合、高出力ハンディリーダーを使用した読み取りシステムを提供し、派遣した作業員が読み取り作業を行う。作業員1人の1時間当たりの読み取り数は、1,000~1,200冊から5000冊~10,000冊になるとのこと。
同サービスの提供に際して、図書館A(千葉県)ではHF帯RFID、図書館B(東京都)ではUHF帯RFIDを使用して蔵書点検作業の実証実験を行い、以下のような結果となった。
- 図書館A(蔵書数:約14万冊/実施期間:2023年2月13日~14日)
読み取り装置 | 読み取り対象 | 所要時間 | 人員数 |
従来:バーコードリーダー | バーコード | 16時間(稼働2日) | 10人/日 |
新サービス:高出力ハンディ端末 | HF帯RFID | 8時間(稼働1日) | 3人/日 |
- 図書館B(蔵書数:約17万冊/実施期間:2022年6月15日~17日)
読み取り装置 | 読み取り対象 | 所要時間 | 人員数 |
従来:ハンディリーダー | UHF帯RFID | 20時間(稼働2.5日) | 5人/日 |
新サービス:専用ロボット+高出力ハンディ端末 | UHF帯RFID | 3時間 | 2人/日 |
DNPは今後、UHF帯RFIDを活用し、図書館内の閲覧履歴を自動的に取得するシステムの開発も進めている。これにより、館内でよく読まれる本のジャンルやテーマを可視化し、選書の効率化などにつなげることが可能になる。さらに、書店でのRFID導入の実証実験にも活用していく予定としている。DNPは、RFIDを活用した蔵書管理関連サービスで2027年度までに累計10億円の売上を目指している。
なお、同サービスの参考価格は、初期費用として作業設計費が30~50万円、作業費が3.5円/冊となっている。
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