2020年2月5~7日にJapanマーケティングWeek2020春が幕張メッセにて開催された。
同展示会では販促、広告宣伝、WEB販促から店舗運営までマーケティングにまつわる様々なソリューションが展示されていた。
今回筆者が注目したのは店舗運営EXPOのゾーンだ。
店舗の無人化・省人化の取組が進む中で、今回はそのソリューションをデータ活用の視点から紹介していきたい。
フジテックスの高セキュリティな電子棚札「D-ESL」
フジテックスが展示していたのは昨年2019年9月にリリースされた電子棚札「D-ESL」(ESL:Electronic Shelf Label)だ。
同社の電子棚札「D-ESL」は独自の通信規格Sub-GHzを使用している。
Sub-GHzは従来の赤外線やWi-Fiなどと同じ帯域を使用するESLに比べて電波干渉を受けにくいため、高いセキュリティを期待できる。また、通信距離が長いことからルーターの個数が少なく済むため、簡易に設置が出来るという。
電子棚札は、タイムセール時にシールを張り替える、棚札を変えるという作業の省人化につながっており、店頭スタッフは接客等の本当に必要な業務に注力することが出来るようになる。
電子棚札に訴求力はあるのか
では、実際に電子ペーパーの棚札が店頭で使用されていたとして、その訴求力はどの程度のものなのだろうか。
例えば、スーパーのタイムセールなどでは赤地に黄色の文字の大きな棚札や黄色地に赤い文字で値引き表示がされているシールが貼られた商品が目立ち、安くなっているという印象を与える。
また、店員が値引きシールを貼っていくことがある種のパフォーマンスとして利用者の購買意欲を掻き立てている店舗もあるため、省人化になるからといって地味な2色の棚札へ変えても結局店員が値引きシールを貼った方が売り上げに繋がるといったことが起きる可能性がある。
目を引く棚札には色が使われている印象があるが、多くの電子ペーパーは現時点での表示可能色数は白黒2色か、それに1色を加えた3色となっている。
理由はその仕組みにある。
フジテックスが出している電子棚札はE ink社の3色電子インクで作成されており、それぞれのカラー粒子に異なる電圧を加えることで表層に出るカラー粒子を制御し3色表示を可能としている。
各社が出している電子棚札に使用されている電子ペーパーは2色、もしくは3色となっており、それ以上の色表現を行うものはあまり流通していない。
しかし、棚札ではなく店内装飾向けPOPとしては、凸版印刷が昨年2019年2月に32,000色の表示が可能なフルカラー電子ペーパー(E ink社のAdvanced Color ePaper [ACeP])を使用した実験を行っている。
電子ペーパーは切替時に電力が必要となるが、表示の維持には電力を必要としないため、設置場所での電源の確保(コンセントの確保・コードの取り回し)が不要となり、デジタルサイネージとは違った位置づけで、より制限がない状態で利用することが出来る。
フルカラー電子ペーパーが安価に大量に製造が可能となれば、手書きPOPやカラー印刷された目立つ棚札に劣らない訴求力を持った貼り替え不要な棚札として電子棚札の活用が広まる可能性がある。
AIによる需給予測と電子棚札
また、電子ペーパーを用いた棚札を導入することのメリットは、人件費の削減もあるが、もう一つ重要なのはECサイトのような機動力を持ったダイナミックプライシングが可能になるということだ。
ダイナミックプライシングは、需要と供給に合わせて値付けを変動させることで、需給をコントロールする手法のことを指す。
[参考記事] AIによる価格の適正化、ダイナミックプライシングとは
https://iotnews.jp/archives/141058
実店舗で商品の価格をリアルタイムに変動させるには瞬時に価格表示を変更出来る必要があるため、ダイナミックプライシングと電子棚札は切っても切れない関係といえる。
消費期限や在庫状況に合わせてAIの判断で値段を変動させるなど、仕入れや在庫管理、商品の基礎データと連携をすることで更に電子棚札の利用価値が高まっていくのではないだろうか。
また、展示会では次のような使用方法を提示している電子棚札も展示されていた。
NFC搭載型電子棚札で無人決済を行う「Tap To Go」
株式会社オプトエレクトロニクスのブースでは、NFC搭載型電子棚札と無人決済レジが連動してスムーズに買い物をすることが出来る「Tap To Go(仮称)」が参考出品されていた。
「Tap To Go(仮称)」は1~3点を素早く購入したいというスピードショッピングのニーズを想定して開発が行われている。
この電子棚札のソリューションは現在オランダの空港や駅、病院のコンビニで活用されている。また、ポルトガルでは学校の校内売店で活用されている。
同ソリューションは今回のイベントでは参考展示であったが、日本での販売へ向けて調整は進んでいるとのこと。
「Tap To Go(仮称)」を日本で展開する場合は世界的に普及している非接触型ICカードのMifareや日本の交通系カードで使用されているFeliCaを活用した非接触決済を想定している。
利用方法としては、商品を手に取り、購入を決めたタイミングでICカードを電子棚札にタッチ。音が鳴りLEDが光るとECサイトでいうところの商品をカートに入れた状態となる。
全ての商品を選び、各棚札へタッチ後、出口の店頭タブレットでICカードと紐づけられた商品(カートに追加した商品)を確認し決済を行う、という流れとなる。
もちろん商品選択キャンセルも可能だ。同じ棚札で一度音が鳴った後も長くタッチすることでキャンセル出来るという。
レジで店員が行うレジ打ち業務を顧客が商品を選びつつ行うというイメージに近い。
レジの役割となるタブレットでの操作は10秒ほどで完了するため、セルフレジ等よりも早い印象だ。
また、導入にあたり店舗で必要になる物品は主に電子棚札とタブレットのみで、既存の棚に電子棚札を付けるだけで利用できる。商品にRFIDなどのタグを貼り付ける必要もないため、他の無人店舗ソリューションよりもコストを抑えて導入することが出来るとしている。
しかし、電子棚札は電池式が多い中、同社のものは電源供給型となっているため電源の確保の必要性がある。
搭載されているLEDは購入決定時にICカードを読み取って光るほか、販促としてはゲームのような利用も想定しているという。
電子棚札で消費者の購買行動データを取得
このようなNFC搭載型電子棚札を利用することで生まれるメリットは、ただ無人レジが省人化につながるというだけではない。
「Tap To Go(仮称)」は、この電子棚札を利用することで、利用者が商品を購入検討した順番を知ることが出来る。
何を買ったら何を棚に戻しているのか、何を買った後に何を買っているのか、等のデータを取る事ができるため、同時に購入されているものが多い商品を近くの棚に置くなど、店舗レイアウトへ活用することが出来る。
このような実店舗で消費者がモノを選ぶ過程をデータとして取得することはAmazon GOやトライアル、Jian24などの無人化・省人化店舗を展開している各社が取り組んでいることであり、この顧客行動の可視化こそが様々なソリューションを取り入れる価値につながっている。
実際、ECサイトでは当たり前に行われているこの顧客行動分析も、実店舗ではPOSデータから最終的に購入された商品を分析するにとどまっているという現状がある。
上記に挙げた大手各社のようにAIカメラを設置するか、NFC電子棚札や他のソリューションを利用するかは店舗規模や事業規模、取りたいデータ、予算によって最適なものを選んでいく必要があるが、せっかく無人化・省人化ソリューションで実店舗へデジタルを取り込んでいくのであれば、その先の事業展開に役立つ顧客行動データを取るところまで出来るかどうかはひとつの判断材料となるだろう。
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