「第4回 ビッグデータ分析コンテスト」が開催、テーマは「インフラメンテナンス・鉄道」

IoT推進ラボは2月27日、「第4回 ビッグデータ分析コンテスト」を開催した(場所:ベルサール六本木グランドコンファレンスセンター)。

今回のテーマは「インフラメンテナンス・鉄道」。東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)より提供された線路のゆがみ量のビッグデータを基に、将来のゆがみ量を予測する精度を競う「予測部門」。また、分析アイデアを競う「アイデア部門」の2部門でコンテストを行い、それぞれの上位入賞者が表彰された。

写真左:「最高精度賞」を受賞した瀬川晋作氏、写真右:国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 研究センター長 辻井潤一氏

開催の背景とテーマ概要

「第4回 ビッグデータ分析コンテスト」が開催、鉄道線路のデータから将来のゆがみ量を予測
(左)経済産業省商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐 鈴江祥典氏、(右)JR東日本常務執行役員 伊勢勝巳氏

初めに、経済産業省商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐の鈴江祥典氏がビッグデータ分析コンテストの概要を説明した。

IoT推進ラボと経済産業省では、ビッグデータ活用のモデル事業創出とデータ活用人材の育成を目的に、「ビッグデータ分析コンテスト」を2015年より過去3回開催している。今回は、JR東日本から線路の保線データと課題が提供された。また、今回は分析アイデアを競う「アイデア部門」も設けられた。

アイデア部門については、参加者が自由な課題を設定して、データも自ら選択・収集し、仮説に対してデータ分析を行い、そこから得られるアイデアについて、解りやすく表現することを競うものだ。

続いて、JR東日本常務執行役員の伊勢勝巳氏が第4回のテーマ概要について説明した。

JR東日本は東日本を営業エリアとして鉄道サービス業をメインとして業務を展開しており、1日に12,000本の列車を運行して1,700万人の移動を支えている。鉄道サービスには、安全で安定した運航を行うために頻繁なメンテナンスを行うことが不可欠となる。

あまり知られていないことだが、鉄道の線路は段々と変形するように設計されているという。新幹線を除いて、在来線は砂利をまいたルートに枕木を設置して、その上にレールが載っている。砂利が粉砕することにより列車通過時の振動を吸収するのだが、この砂利を保守しているのだ。

鉄道事業はメンテナンスに関わる比重が非常に大きく、「保線」という言葉が存在する。この保線業務は労働不足をはじめ、曲がり角を迎えている状態だ。

また、「保線」は目視での診断を行うため、非常に練度の高いスキルが要求される。しかし、他の業界と同じく、熟練技術者のリタイアが始まっている。また、補修の専門技術を習得したいという若者も減る一方で、補修を専門とする企業もこの10年で100社が倒産したということだ。

JR東日本では、まず遠隔点検の技術による効率化を行い、モニタリングデータに基づいてコンピュータに鉄道のゆがみ量を予測させる仕組みを確立した。これは、線路上を走る営業車両の下側にモニタリング装置を取り付けて線路のゆがみや部材の状態を確認し、変化を自動で診断するものだ。

これによって熟練技術者のスキルに頼らなくても一定レベルのメンテナンスを可能にする体制が整いつつある。しかし、現状を考えると保線作業にもさらなる変革が求められているのだ。

そこで、今回のコンテストでは線路のゆがみ量の予測精度とその手法を競うということになった。「保線の世界にもIoTを導入する時期が来ていて、それができなければ生き残れないという危機感も持っている」と伊勢氏は述べた。

一方で、AIが保線に関する問題を全て解決すると楽観をしているわけではない。IoTやAIと保線技術を上手に融合していくことが重要なのだ。

今回のコンテストでは、163のチームから2000件を超えるモデルが考案された。方法としては、まず線路のIoTセンシングのデータと周辺の設備のデータを応募したAI技術者に実績の1年分を渡す。そして、AI技術をつかって学習モデルを構築する。加えて3か月分の実績データを隠しておき、応募者がAIを駆使して出した数値とサイト上に保持してあるデータとを答え合わせをして精度を競う。

本コンテストを運営した株式会社株式会社SIGNATE 代表取締役社長 齊藤秀氏は、「SIGNATEプラットフォーム上に16000人が登録、今回は163チームが参加し、極めて高い精度を実現した。指標となるベンチマークは0.9ぐらいの水準から始め、数値が小さいほど精度が高くなる。1位のチームは0.36だった。ハズレ値が出たり、測定値の位置ずれの補正をしたりと、実践的なデータ処理が求められた」と述べた。

受賞者発表

「第4回 ビッグデータ分析コンテスト」が開催、鉄道線路のデータから将来のゆがみ量を予測
左から、モデリング賞2位を受賞したteam atbac、モデリング賞1位を受賞したteam tkm、審査員の樋口知之氏(情報・システム研究機構理事/統計数理研究所モデリング研究所長/総合研究大学大学院統計科学専攻教授)

「最高精度賞」は、「0.36」の最高精度を達成した瀬川晋作氏が受賞した(トップ画像)。また、モデリング賞1位は「Weighted Medianといわれる重み付き中央値」を使って学習モデルをつくった「team tkm」。モデリング賞2位は「team atbac」だ。

さらに、29チームが参加したアイデア部門で、グッドアイデア賞1位を受賞したのは、木村芳仁氏だ。テーマは「人身事故の発生件数の減少」。「人身事故データベース」を解析し、ホームドアが人身事故減少に及ぼす効果をわかりやすく可視化しただけでなく、近年の人身事故の発生傾向(時間・場所等)についても独自の分析を示していた。グッドアイデア賞2位は尾崎直子氏が受賞した。

「第4回 ビッグデータ分析コンテスト」が開催、鉄道線路のデータから将来のゆがみ量を予測
左からグッドアイデア賞2位を受賞した尾崎直子氏、グッドアイデア賞1位を受賞した木村芳仁氏、審査員の井口博美氏(武蔵野美術大学 デザイン情報学科教授/デザイン・ラウンジ ディレクター)

また、今回は特別に「アイデア部門審査員特別賞」がJR東日本から贈られた。受賞したのは廣田正之氏だ。ライナーの空席状況から、「発車何分前に駅に到着すれば席が確保できるのか」を調べた。データの収集のために何度も駅に足を運び、空席状況のモニターを目視で確認してデータを集めたという。

「第4回 ビッグデータ分析コンテスト」が開催、鉄道線路のデータから将来のゆがみ量を予測
(左)「アイデア部門審査員特別賞」を受賞した廣田正之氏、(右)JR東日本常務執行役員 伊勢勝巳氏

審査員のJR東日本 伊勢勝己氏は、「インターネットで情報を集める時代に足を使ってデータを集めてくれたことに敬意を評したい」と述べた。

国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 研究センター長 辻井潤一氏は、審査員総評として、「データの意味は路線によって変わる。リアル空間でのAIやIoTを活用することの難しさが理解できるいいコンテストだった」と述べた。

「第4回 ビッグデータ分析コンテスト」が開催、鉄道線路のデータから将来のゆがみ量を予測
(左)株式会社SIGNATE 代表取締役社長 齊藤秀氏、(右)経済産業省商務情報政策局 審議官 成田達治氏

最後に、経済産業省商務情報政策局 審議官 成田達治氏は、「AI、ビッグデータ、IoTにおいてB to Cの世界では日本は苦戦しているが、リアルデータをどう活用していくいかが新しい展望のカギを握っている。ネットの世界からリアルな空間へ攻めてくる勢力とリアル空間からネットへ攻め込もうとする勢力とのせめぎあいが起こっている中、日本はリアルデータをうまく活することで強みを発揮できるはずだ」と締めくくった。

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