2019年9月28日、駐車場予約アプリ「akippa」を運営するakippa株式会社とサッカークラブチーム・セレッソ大阪はヤンマースタジアム長居とこまがわ商店街をつなぐMaaS実証実験を行った。
自動車を使って試合観戦に来るサポーターに対し、こまがわ商店街付近の駐車場に車を停めてもらい、商店街内からシェアサイクルの「ハローサイクリング」、電動キックボードの「LUUP」、配車アプリ「DiDi」を使ったタクシー手配の3つの手段からいずれかを利用して「ヤンマースタジアム長居」まで移動する、というもの。
これまでもakippaは各地のサッカーチームと駐車場不足の解消・交通渋滞の解消などに取り組んでいたが、今回は「商店街とサッカースタジアムをつなぐ」ということで、これまでの取り組みとは毛色が違う。
今回のこまがわ商店街での実証実験について、akippa 横田氏にお話を伺った。
商店街振興のためのMaaSに取り組みたい
―今回の実証実験に至った経緯を教えてください。
akippa 横田(以下、横田):きっかけはセレッソ大阪様側からの提案です。以前からセレッソ様のなかで「やはりホームタウン一体型のクラブとして、距離が離れているこまがわ商店街と組んで何かやりたいな」という思いがあったそうです。
私自身、そのお話は二年前にちらっとお聞きしていました。セレッソ様と「何か新しい事に取り組めないかな」というぼんやりとした話を先方の担当者としていた時に、「そういえば、こまがわ商店街と一緒に何か取り組みたい、という話があったな」という事を思い出し、ディスカッションを始めました。
―セレッソ大阪側に「地域振興の分野で何か取り組みたい」という思いがあったということですね。
横田:そうですね。
―スタジアムと商店街の周辺がどれくらい離れているのかな、というのを確認したのですが、ちょっと離れていますよね。
横田:2キロほどですね。ヤンマースタジアムの方は阪和線の長居駅・鶴ケ丘駅が近いので、スタジアムとしての立地はそもそもいい場所です。
ただし近鉄という全く別の路線がある方向に商店街があります。こまがわ商店街は大阪府内では天神橋商店街に次ぐ二番目に大きい商店街と言われています。
どちらかというと下町ですが、大阪の中心地に向かう場合はアクセスが良いので人口も比較的多い。かつセレッソ大阪を強力にサポートしている地元の商店街である。現セレッソ大阪社長で元日本代表の森島さんも「商店街で大きな祭りをやるよ」ということであれば開会のあいさつにやって来たり、「大きい試合をやるよと」いうことであれば、各店頭にポスターを張ったりと、セレッソ大阪を盛り上げるための活動は協力的に行っている商店街さんです。
しかし大きな試合の日にはそれなりに商圏に含まれるものの、それ以外の時で商店街さんを潤すようなことができているのかというと、そうではない。
ですのでサポーターの方々にこまがわ商店街を知ってもらう、もしくはお金を落としてもらえるようなことは何かできないかな、という事は以前からの課題でありました。
―地図を見て「あれ、ちゃんと商店街の方に近い駅もあるから、交通の便で困っていることはないのでは」と思ったのですが。
横田:はい、仰る通りです。郊外にある商店街なので、基本的にお客さんは周辺住民です。ただ、夕方は毎日かなり賑わっている印象です。
―では大きな試合や、セレッソ大阪のイベントがあった時に、サポーターの方に寄ってもらって、普段のお客さんにさらにオンするかたちで賑やかにしたい、という狙いなのですね。
横田:そうですね。今回の実証実験が終了した後、こまがわ商店街の理事の方にお話を聞いたところ、「今までも様々な試みをしてきたけれど、まだ伸びしろがあるんだと思った」という発言はされていましたね。
これまではどちらかというとセレッソ選手を看板として使って、お客さんに商店街に来てもらう、という事に取り組んでいましたが、試合の日の商圏を広げるという活動はまだやったことがありませんでした。
まだまだ浸透していないMaaSという概念
―今回はセレッソ大阪さんのサポータークラブなどを通じて、実験に参加される方を抽選したのでしょうか。
横田:集客はセレッソ大阪様とakippaの会員組織で行いました。
―募集された方が、まず駐車場を予約されるところから始まるのでしょうか。
横田:アプリによる申し込みが起点ではないですね。サービスの連携という観点でいうと、実はDiDi以外はアプリなどのシステム自体は使っていません。今回はどちらかというと、システム連携を考慮する上で投資するに足るような体験になるかなというのを評価するための実験でした。
もう1つ課題としてクリアしたかったのが、MaaSの概念を知っている人は知っている、知らない人は知らない、いや、そもそも知られていないよね、という状況を解消することでした。
今回の実験に参加された方のうち七割が「電動キックボードやシェアサイクルはこんな使い方があるんだ」という感想を抱いたそうです。
まずは「こういった使い方があるのか」ということを知ってもらうこと。そして、サービスとして連携したものに対して、お客様に購入意向があるのか。そういうことを確認するための実証実験でした。
既存のサービスに寄り過ぎてしまうと、どうしてもサービス自体の評価になってしまいます。今回の実証実験ではMaaSというコンセプト自体を評価してもらいたかったので、既存のサービスを実際に利用する場面はなるべく排そうと思っていましたし、
―MaaSの概念がまだまだ浸透していないということなんですね。
横田:浸透していませんね。電車を乗り継いでいる、とか、それくらいは分かるのだけれど、別の乗り物を乗り継いでいく、もしくは自前の車で目的地付近までやってきて、中央部付近には公共交通機関使うよ、といった考え方は、一部のエリアで取り組まれていますが、なかなか普及していないのが現実ですよね。
MaaSは様々なサービスを自前で使ってもらうというよりは、最終的にはひとつのプラットフォームで全ての乗り物が選べるようになるというのを目指していますので、そこまでやるには各社それなりに投資をしないといけない。
でも投資をする価値があるのかないのか、というのは結構見極めないといけないところなので、今回はどちらかというと、投資価値があるのか、ボトルネックが何なのか、みたいなことを捉えるために実施しました。
―個々のシステムの使い勝手などを検証するというよりも、これを実際にひとつのパッケージとしてやった時に、お客さんが認識してくれるのか否か、というところを確かめる、ということでしょうか。
横田:そうですね。MaaSは最終的に1つのプラットフォームですべてが実施できるようなものなので、それを疑似的に体験してもらう感じです。1つの申し込みで全て予約されていることになっていて、あとは当日使うだけ、という感覚をサポーターの方に体験してもらいたかった。
―実証実験中には決済なども発生しない、ということですね。
横田:もちろん、実際に導入する場合はそこまでのレベルに持っていきたいな、とは思っていますが、まずは「こまがわ商店街さんを巻き込みたい」という話が前提にあるので、そこからぶれないようにしました。
もう一つ言うと、MaaSの概念自体もそうですが、私たちのサービスは「移動すること」それ自体が目的ではありません。
何かをするために移動するのであって、その何かを使って気持ちいいMaaS体験みたいなものを提供したいな、と思っていたので、こまがわ商店街を楽しんでもらって、サッカーを楽しんでもらって、一日の楽しみ方みたいなものをこれで自由に提供できるよ、というところを体験してもらいたかったのです。
次ページは、「商店街という程良い規模の実験場」
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。