最近、3Dプリンターが様々な用途で使われ出している。
先日も、佐賀大学と再生医療ベンチャーのサイフューズ社がバイオ3Dプリンターを用いて人工血管を作製し、初めて人に移植を行う臨床研究を始めると発表した。
他にもチョコレートを立体的に造形できるチョコレート用3Dプリンターや、ビーガン(絶対菜食主義者)向けにタンパク質と海藻を混ぜた素材を肉の形に整形する3Dプリンターも登場している。
業務用、家庭用問わず、様々な物の試作や製作を行う3Dプリンター。どのように普及していったのだろうか。
3Dプリンターが普及の経緯
現在3DプリンターのシェアNo1であるストラタシス社は、1980年後半に「熱溶解積層法(FDM)」を開発した。「熱溶解積層法(FDM)」というのは、細いノズルから熱で溶かした樹脂を吐出して、任意の形に積層する造形方式で、今では主流となっている造形方法だ。
この造形方式の原理はストラタシス社によって発明され、1989年に同社によって特許化される。
この頃は、3Dプリンターを導入するために、1,000万円以上かかることも珍しくなかったのだという。3Dプリンターは高価な装置という扱いをされ、普及が進まなかったようだ。
しかし、特許権には出願から20年までという存続期間が設けられている。したがって、1989年に特許として認められた熱溶解積層法は、20年後の2009年に特許が満了することになった。
この特許満了をきっかけとして、いくつものメーカーやベンチャー企業が、格安の3Dプリンターをリリースする。これが、3Dプリンターが普及するきっかけとされる。
なお、2018年に3Dプリンターのリーディングカンパニー、ストラタシス・ジャパンにIoTNEWSがインタビューを行っている記事があるので、参考にしてほしい。
[参考記事] ここまでできる、3Dプリンティングでの製造 -ストラタシス・ジャパン 代表取締役社長 片山氏インタビュー誰でも製造業を始められる時代の到来
その後、3Dプリンターは、様々なメディアにも注目されはじめる。
例えば2012年に「MAKERS ~21世紀の産業革命が始まる~(クリス・アンダーソン著)」という、後にベストセラーとなる本が出版されるが、この本では「パーソナルファブリケーション(個人製造)」という概念が提唱され、3Dプリンター、ラップトップ、そしてアイデアさえあれば、誰でも製造業を始められるということが著者によって語られた。
さらに、本の出版から1年後の2013年、オバマ大統領が一般教書演説で3Dプリンターに言及する。これにより3Dプリンターが世界的に注目されることとなった。
建築にも使われる3Dプリンター
現在では、様々な用途に利用されるようになった3Dプリンター。

今年の11月17日、中国で高さ7.2メートルの2階建てオフィスビルが「プリント」を終えたと報じられた。
中国建築集団の基地内に3Dプリンターが設置され、わずか3日という日数で、主体部分が建築(プリント)されたのだ。
基礎部にコンクリートを打設後、柱や壁に沿って鉄筋を立ち上げる(紙を準備)。その後、建築する予定地を取り囲む形で門型クレーンを設置する(プリンターの用意)。そして、鉄筋の周りを囲むようにして、生コンクリート(インク)をノズル(インクジェット)から噴出し、幾重にも積層していく、という流れだ。
※上記はあくまでも現場で3Dプリンターを設置した工法になる。工場の3Dプリンターで各部材を製作し、現場へ搬入後、組み立てるという工法もある。
このような3Dプリンター建築は、中国に限った話しではない。例えば、2016年5月にはアラブ首長国連連邦のドバイに3Dプリンターによって建設されたオフィスが完成。また、2017年3月にはロシアのモスクワで3Dプリンターによって住宅が建築されている。同じような事例はアメリカやオランダにも見られる。
建築に3Dプリンターを使うメリットと、享受できない日本での状況
3Dプリンターで建築するメリットは何があるのだろうか。
- 人材不足の解消につながる
- 部材同士を接合するための材料(ネジなど)が減るので、廃棄が減り、環境に良い。
- 工期が短縮される。例えば中国の事例では3日間で建物が完成。
- 材料が減り、工期が短縮される結果、費用がおさえられる。
- 設計の自由度が高まるため、複雑な曲線を描いた建物をコストがかからず建てられる。
特にコストの効果は大きく、アメリカの「ラテンアメリカの3Dプリントハウス」では、55平方メートルの住宅が60万円の費用で建設できたというのだ。
では、日本ではどうなっているのだろうか。
建築基準法で、建築に使用しなければならない素材や工法が決められているため、同法が改正されない限り3Dプリンター建築は実現されないとされている。
しかし、上の例からもわかるように、3Dプリンターによって建築することで、作業プロセスを再構成(DX)することができる。
作業の一部を機械化することだけでは、限定的なメリットとなるが、3Dプリンターで建設プロセスを再構成すると、省人化、環境フレンドリー、低価格、高付加価値な建設が可能となる可能性があるのだ。
この流れは、建築分野だけに限らず、現在世界中で3Dプリンターを活用した新しいやり方に注目が集まっている。トライアンドエラーが必須となるものの、商用ベースに使える技術になることで、これまでのモノづくりが一転する可能性も秘められている。
新たな技術をうまく取り込むための法規制の見直しや、企業によるトライアンドエラーなど、今後の国内での動きに注目したい。
無料メルマガ会員に登録しませんか?
現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。特にロジスティクスに興味あり。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。