近年、国内の上下水道事業では、プラントの老朽化に伴う維持・更新の追加投資や、人口減少に起因する事業収入の減少などにより、事業運営のさらなる効率化が求められている。
また、熟練技術者の減少に加え、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、現場技術者の安全を確保しつつ水の安定供給を行うことが急務となっており、これまで以上にデジタル技術を活用し、人や場所に依存しない高効率で安定的な運用・保全業務への変革とノウハウの継承が求められている。
そうした中、株式会社日立製作所(以下、日立)は、上下水道事業における運用・保全業務の可視化・省力化・効率化やノウハウの継承などを支援するクラウドサービス「O&M(Operation & Maintenance)支援デジタルソリューション」のラインアップに、AIを活用した設備診断、水質予測、運転支援の新機能を拡充し、本日から提供開始することを発表した。
具体的には、ポンプやブロワなどの設備の状態を診断することで、故障や使用限度前にメンテナンスを実施するコンディション・ベースド・メンテナンスを可能とする「設備状態診断機能」、原水水質を予測し、薬品注入量などの適正化を支援する「水質予測機能」、学習した運転員のノウハウ・判断に基づいて将来の需要予測や運転計画を提案する「プラント運転支援機能」が追加された。
さらに、クラウドに集約した監視・点検データを組み合わせて運転管理や保全に有用な指標を算出・表示する「データ見える化機能」も加わり、データ解析系サービスが拡充された。
今後日立は、今回追加した機能を含めたサービスを、ソリューション・サービス・テクノロジー「Lumada」ソリューションとして、上下水道事業体などに提供していくとしている。
今回追加された機能の概要・特長
- 設備状態診断機能
- 水質予測機能
- プラント運転支援機能
- データ見える化機能
- 残塩管理機能 (2021年中に提供開始予定)
ポンプやブロワなどの設備の運転データを収集し、AIの一種のデータクラスタリング技術であるART(適応共鳴理論)手法を用いて、過去の正常な設備の運転データを事前学習させることで、予兆診断の基準となるデータの相関関係を分類し、正常データのカテゴリーを自動生成する。
その上で、実際の設備運転時に取得した新規データを自動分類し、正常カテゴリーと比較することにより、運転状態が正常かどうかを診断する。
これにより、不具合などの状態変化を早い段階で捉えるコンディション・ベースド・メンテナンスが可能となり、大規模な故障に伴う損失コストの抑制や、整備間隔の延長などによる保全コスト縮減に貢献する。
日立が運用を受託している浄水場において、取水、配水設備を対象に実証試験が行われ、取水ポンプや配水ポンプの運転状態の変化の検知が可能となることが確認された。
この実証試験を実施した浄水場では、診断結果を日常点検に反映し、診断によって点検を強化するポイントを変える運用が行われている。
AIの一種であるディープラーニング技術を用いて、過去の運転実績データと環境条件(天候・水源)などのオープンデータを学習データとして予測モデルを構築し、予測結果が逐次提示される。
数時間先の原水の状態や処理水の水質を予測することで、良好な水質を得るための客観的で適切な運転条件設定を支援することが可能だ。これにより、業務の標準化、熟練者のノウハウ・判断に依存しない水質管理を行うことができる。
日立が運用を受託している浄水場において実証実験が行われ、降雨や渇水の際に、監視システムに併設された端末から原水濁度や電気伝導率の予測値を表示し、それに基づいて取水運転の調整や薬品注入を決定するための判断材料として活用できることが確認された。
AIの一種である強化学習技術や統計解析により、運転員の知識や設備運用条件などのノウハウ・判断を学習し、学習した条件に基づいて将来の需要予測や運転計画を提案することで、運転員の業務を支援する。
これにより、業務の標準化、熟練者のノウハウ・技能継承を支援することが可能になる。
日立が運用を受託している浄水場において、配水ポンプの運用を対象に実証実験が行われ、水量、水圧や配水池水位の許容範囲、所定時刻での目標値などの条件を学習させ、24時間後までのポンプやバルブ等の操作時刻と操作量のガイダンスを表示し、それに基づいて操作を行うことで、適切な運用が可能となることが確認された。

クラウドに集約した監視・点検データに加え、これらを組み合わせて運転管理や保全に有用な指標を算出する。
これまで、多くのデータからその時々に必要な情報を収集・整理するために時間を要していたが、この機能により最新データの検索・トレンド表示・ダウンロードが実行できる。
日立が運用を受託している浄水場において実証試験が行われ、河川データを含めて見える化を進め、報告書の作成や可視化された設備の稼働状況を参考として運転条件の検討などで利用できることが確認された。
配水池や給水栓における残塩の目標値を満足させるための塩素剤の注入率推奨値を反応モデルと塩素注入率や水温などのデータを用いて算出し、プラント運用条件に反映することで、適切な水質での安定供給を支援する。
日立が運用を受託している浄水場の急速ろ過、緩速ろ過設備において実証試験が行われ、平常時の残塩管理支援として有用であることが検証された。現在、提供に向けて準備が進められている。
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