過去、日本では、新潟県中越地震や東日本大震災などの地震災害時に、被災者や被災集落が孤立する事態が発生してきた。また、東日本大震災や平成28年熊本地震では、指定外避難所での避難に関する課題も報告されている。災害時の孤立地域や指定外避難所に関する共通課題は、発災初期に行政、救援機関がこれらの避難先に関する情報の収集・共有が困難であるという点である。
これらの課題は地震災害だけでなく、2020年7月に熊本県南部を中心として発生した豪雨災害でも報告されている。そして、2021年12月に内閣府が公開した「千島海溝・日本海溝沿い巨大地震の被害想定」においても、地震自体による電力インフラなどの被害に加え、津波により広範囲な地域における多くの避難者の孤立が予想されている。
特に、この災害が厳冬期で発生した場合、低体温症による健康被害を予防する上でも、孤立避難者に関する情報を迅速に収集し、救援活動の意思決定に反映させることが重要となる。
株式会社Agoopは、2018年から内閣府の官民研究開発投資拡大プログラム(以下、PRISM)の「官民データ連携による応急対応促進」において、防災科研の委託事業として「災害時における人の流れの把握や避難誘導等の効率化のニーズに基づく研究開発」を実施している。
このほど、Agoopと日本赤十字看護大学附属災害救護研究所(以下、日赤救護研)は共同で、避難訓練実施時に人流データを用いた避難状況に関する情報収集を行い、災害時の孤立地域に対する支援の改善を目的に、2022年11月5日に北海道根室市で内閣府が実施する地震・津波防災訓練において、人流データを用いた津波避難状況の把握に関する実証実験を行う。
同実証実験では、地震による津波災害を想定した避難訓練実施時に、指定緊急避難場所、指定避難所、介護施設およびそれら以外の地域への避難状況を、あらかじめ避難訓練実施地域の住民へAgoopが事前に配布するスマートフォンアプリ「アルコイン」を通して、位置情報の収集について同意を得たユーザーから収集した人流データとAI技術を用いて分析し、災害対策本部に設置されたモニターに投影して分析する。
具体的には、下記の3つの観点で分析する。
- 人流のリアルタイム異常検知技術による避難場所の迅速特定
- 人流データによる避難行動(交通)の事後分析
- 平常時からの人流データの蓄積・解析による災害時の市民や小型船舶の避難支援
PRISMの「官民データ連携による応急対応促進」において、防災科研の委託事業として「災害時における人の流れの把握や避難誘導等の効率化のニーズに基づく研究開発」で開発した成果である、人流のリアルタイム異常検知技術を活用し、避難場所の迅速な特定に関する検証を行う。
避難訓練開催時の参加者の人流データと津波発生時の想定津波浸水エリアを重ねて分析することで、避難行動(避難経路や避難時間など)を分析し、実災害発生時に向けた防災シミュレーションに活用する。
同実証実験で収集する人流データは、避難訓練時の分析活用に限らず平時からデータ収集を行うことで、例えばイベント開催時の人流・交通分析や、発災時の小型船舶の迅速な位置把握、避難支援などが可能になる。
同実証実験を北海道根室市主催の避難訓練と連携させて実施することで、避難訓練参加者の避難行動を分析し、避難計画策定時に役立てる。
また、平時からデータ収集を行うことで、平常時は公的機関において交通や観光、保険医療へ活用しつつ、発災時には指定緊急避難場所、指定避難所、介護施設およびそれら以外の地域への避難状況を迅速に把握し、迅速な救援活動の実現に寄与する。
さらに、アルコインは歩数計アプリであるため、平時は健康促進のために利用しながらデータ収集を行うことで交通や観光、健康医療などの分野の分析に活用する。
今後は、PRISMの「官民データ連携による応急対応促進」において、防災科研の委託事業として「災害時における人の流れの把握や避難誘導等の効率化のニーズに基づく研究開発」での人流データの研究成果を活用することで、これまで困難であった、発災初期の迅速な避難先に関する情報の収集・共有に貢献し、救援活動の迅速な意思決定を可能にするべく取り組むとしている。
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