近年、日本では気候変動などの影響から水害が激甚化・頻発化する傾向にあり、自治体にはハード面およびデータなどを活用するソフト面の対策強化が求められている。
山形県東根市(以下、東根市)では、日本各地で集中豪雨が発生した「令和2年7月豪雨」当時、地形や天気予報などの情報をもとに最上川からの浸水被害に備えて対策をしていたが、実際の浸水は最上川の支流から発生しており、従来方法での予測は難しさがあったのだという。
東根市はこれを受け、西部防災センター(避難所)を新設するなど、ハード面の整備を進める一方で、浸水被害予測などのソフト面の強化を検討していた。
そうした中、株式会社日立製作所(以下、日立)は、東根市とともに、リアルタイム洪水予測と避難・緊急活動へのシミュレーション技術活用に関する共同研究を、2022年6月から9月まで実施し、その有効性を確認したことを発表した。
この共同研究では、国土交通省東北地方整備局、山形県が保有する最上川流域の河川データ・水位データと、2020年7月27日から4日間の予測降雨データを活用し、日立グループのリアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」(以下、DioVISTA)で、東根市周辺の浸水を予測し、その結果と実績を比較した。
その結果、東根市内の浸水は発生の約1.5日前から予測できたこと、および実際の浸水域と高い整合性があることが分かった。
また、「令和2年7月豪雨」による浸水が支流から発生したこと、その原因は、最上川と支流の合流部でバックウォーター(背水)現象が発生し、支流の水位が上がったためであったことが確認された。
さらに、日立がプロトタイプ版として開発した「避難・緊急活動支援システム」を、DioVISTAのデータと連係させ、浸水に伴う影響の確認や避難誘導計画の検討を行った。
具体的には、河川テレメータや各種地図情報と、DioVISTAによる洪水・浸水シミュレーションデータを連係させることで、浸水が発生した時に、影響を受ける人口「浸水曝露人口」の推計や道路の通行規制箇所の予測、避難所情報などを画面上に表示する。
その結果、DioVISTAが発生の6時間前に予測した浸水の再現率は97%(※)で、浸水原因が特定できたのだという。
※ 国土地理院が実際の浸水状況などを元に作成した浸水推定図(最上川水系最上川、2020年7月29日20時作成)と、日立が発生の6時間前に予測した浸水域について、25mメッシュでの浸水の有無で比較。実際に浸水した範囲に対し、浸水すると予測した範囲(再現率)は97%、浸水すると予測した範囲に対し、実際に浸水した範囲(適合率)は56%だった。なお、浸水予測には当時の予測降雨データを用いたが、実績降雨データを与えた場合、再現率97%、適合率は78%に高まった。
また、「令和2年7月豪雨」に関する「避難・緊急活動支援システム」の提案内容を東根市の担当者にて検証した結果、各種施設情報を浸水予測と合わせて流域自治体関係者で共有することにより、災害対応行動の検討に有用であることが確認された。
今後日立は、東根市とともに今回の共同研究結果を総合治水対策の事例として周知を図るとともに、今回活用したデジタル技術を総合治水対策ソリューションとして実用化し、自治体へ広く展開するとしている。
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