津波災害発生時の対応においては、人流への影響、建物の被害分布の把握や交通網を含むライフラインなどの被害状況の早期把握が必要だ。
しかし、災害時にそれらの膨大なデータをリアルタイムで入手し、迅速かつ効果的な対応に結び付けることは、これまで困難とされていた。
こうした中、国立大学法人東北大学、国立大学法人北海道大学、日本電気株式会社(以下、NEC)、株式会社RTi-cast、LocationMind株式会社は、内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(以下、SIP)の研究課題「スマート防災ネットワークの構築」において、津波におけるハザードとその社会影響を予測し、最適な災害対応をリアルタイムで提示する「津波災害デジタルツイン」の開発を、2023年9月から開始した。
また、この事業の推進にあたり、実証のパートナーや導入を検討する沿岸部自治体や民間事業者を募集する。
今回発表された事業では、2011年に発生した東北地方太平洋沖地震津波災害の教訓をもとに開発された「リアルタイム津波浸水被害予測システム」を発展させ、「ハザード予測層」「社会影響予測層」「最適対応層」の3つの機能から構成される「津波災害デジタルツイン」の開発・社会実装を進める。
具体的には、2023年8月から東北大学サイバーサイエンスセンターで運用を開始したNECの「SX-Aurora TSUBASA」を中核とするスーパーコンピュータ「AOBA」や、国内の様々なスーパーコンピュータが活用される。
今後5者は、2027年度までに「津波災害デジタルツイン」の完成を目指するとともに、プロトタイプシステムを2025年度までに構築し、高知県、仙台市、東海地方での実証を進めていくとしている。
さらに、津波災害をケーススタディーとして、将来的には他の災害への拡張も目指すとのことだ。
津波災害デジタルツインの構造
ハザード予測層
災害前後の地震動・地殻変動や潮位条件・沖合⽔位などの多様な地球観測データや、海岸施設や重要施設など、社会基盤のセンシングデータをリアルタイムで取り込み、シミュレーション技術を活用することで、津波浸水範囲や浸水被害などの正確なハザードの予測を行う。
地震発生から5分を目安に、空間分解能10メートルという詳細な津波浸水予測を完了させる。
社会影響予測層
ハザード予測層から得られる浸水予測データをもとに、建物被害や人流への影響を予測する。特に、携帯電話位置情報を活用した人流データなど、社会動態データをリアルタイムで取り込むことで、機械学習を活用した曝露人口のリアルタイム予測や人流の滞留予測などの社会への影響・被害の予測が可能となる。
また、平常時においても、人流データの時系列のモニタリングにより、大きな人流変化がある大規模なイベントや災害の発生を検知する。
最適対応層
ハザード予測層と社会影響予測層からのデータを入力として、予測される社会への影響・被害を最⼩化・回避するための最適な対応を、「SX-Aurora TSUBASA」による疑似量⼦アニーリング技術および量子アニーリング技術を併用して、組み合わせ最適化問題として導き出す。そして、量子技術により得られた最適解が現実世界での望ましい災害対応となるように検証していく。
無料メルマガ会員に登録しませんか?
IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。