国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)の研究チームは、北部九州の微小な斜面の地形変動をマイクロ波衛星画像の解析で捉え、斜面災害リスク地域を可視化した。さらに、地質・地形情報との統合解析により、地域特有の高リスクな地質・地形素因を明らかにした。
今回の研究では、複数時期のマイクロ波データの波形を干渉させることによって、地表面の微小な変位を捉える技術(干渉SAR)の中でも、多数の時系列データを統計的に処理して長期の変動傾向を捉える「時系列干渉SAR」という技術を用いている。
この技術は、統計処理によってさまざまなノイズを低減し、マイクロ波の波長以下(センチメートルスケール)の微細な長期変動を検知できることから、近年、災害監視の目的で活用が進んできた。
この手法で得られた7年間(2014~2021年)の斜面の長期変動マップ(上図下部)をもとに判読や画像処理を行い、変動の大きな地域を合計42地点抽出した。
現地で調査すると、アクセス困難だった地域を除き、約6割の地点で実際に人工物の割れなどの変動の痕跡が確認できた。
さらに、抽出された42地点の変動の大きな地域の分布を、地質図や地形図と比較し、斜面災害のリスクとなる素因を分析した。
その結果、変動の大きな地域は、従来、斜面災害リスクが高いと考えられてきた急傾斜の地域よりむしろ緩傾斜の地域に多く分布していることが分かった。
緩斜面の地域であっても、堆積岩と玄武岩の地質境界付近でかつ、過去の地すべりで堆積した玄武岩砕屑物からなる斜面は、リスクが高いと考えられる。
この傾向は、過去の地すべり被害で報告されている同地域の特性(北松型地すべり)とも一致するため、得られた斜面変動マップは将来の地すべりの兆候を捉えている可能性があるとしている。
また、地質構造の傾斜の向きと一致する北西向きの斜面でより多くの変動地域が見つかった。
従来の斜面災害リスク評価(急傾斜地崩壊危険区域など)は主に傾斜などの地形要素に基づいて行われてきたが、今回実施された研究は、地質要素を考慮する重要性を示しているとしている。
今後は、同様の解析を全国の斜面災害リスク地域に拡大するほか、産総研地質調査総合センターが「防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備事業」をさらに推し進め、調査地域の拡大、解析結果データの公開や、機械学習を活用した斜面災害リスク推計マップの作成と公開、地質災害時の斜面災害発生推計システムの高度化などに結びつける予定だ。
なお、今回の研究の詳細は、2024年3月18日に「Geomorphology」誌に掲載される。
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