スマートフォンからの短時間デリバリーが実現できる効果

生活者視点で見ると(2)の重要度がわかる。
店舗での支払いが簡単、便利になるというだけでなく、「スマホで注文すれば届く」という事実が、生活者にとって大きな利便性の向上につながったことは間違いない。実際、2018年末のモバイルEC比率は約88%となっていて、PCからのアクセスを大きく上回っている。
「わざわざお昼にランチを買いに行っていた生活」から、「スマホで注文するだけですぐに届く生活に変わった」。ランチタイムのエレベーター渋滞は、「オフィスからランチを買いに行く渋滞」ではなく、「デリバリースタッフがオフィスにランチを届ける渋滞」に変化した。つまり、現金決済から電子決済社会になることで、こういった、「Before→Afterでの生活の変化」が起きたといえるのだ。
この変化を支えるために必要なのは、配達員のリソースだが、中国には潤沢な人的リソースがある。さらに、日常的に頻繁に利用するWeChatとの相性、つまり、WeChat上のミニプログラムと呼ばれる店舗サービスにおいて、クーポンの提供やキャンペーンの告知など、店舗とのコミュニケーションが利用頻度の向上に貢献した。
電話番号と信用スコア
(3)の電話番号を活用した個人識別と信用スコアは、アリババのビジネス上では融資に直結しているという。アリババの関係者によると、金融サービス利益の約7割が貸金ビジネスによるものだという。「芝麻信用」と呼ばれる信用スコアを活用すると、1秒で融資可否が審査できる上、貸し倒れリスクが1/10,000となるのだという。

この「信用スコア」は融資だけでなく、様々なサービスでも利用されているのだという。
スコアが一定以上に達していないと予約できないホテルやレストランがあったり、シェアリングサービスなどでのデポジットが免除されるなど、特典は多様だ。
後発だったアリババ系のバイクシェアサービスのハローバイクは信用スコアを利用したデポジットの無料化と先行サービスの利用分析による配車最適化で、この1年で一気に勢力図を塗り替えたとさえ言われている。

また、決済やサービスの利用にスマートフォンが欠かせないことから、スマートフォン用のモバイルバッテリー貸出機が街中の至るところに設置されている。そして、このモバイルバッテリーも一定以上のスコアを得ていると無料で利用できるようになっている。
信用スコアはECや決済の利用状況、借入金の支払い滞納が無いことなど、金融サービスの履歴で変動する。これでは「登録してすぐに使えないのではないか」と疑問を持つ方も多いだろう。
そこで、登録した当初から、一定水準を満たすために、自らの情報をアップロードすることで信用スコアを上げることができるのだという。
信用スコア上昇に貢献する情報としては、「クレジットカードの利用履歴」「信用度の高い勤務先」「スコアの高い友人」などがあるのだという。信用できる人の友人というのはリアルの世界でもそうだが、デジタルの世界でも非常に有効な指標となるようだ。
次ページは、「アリババ創始者のジャック・マーが立ち向かう、生活の向上」
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。