近年、Eコマースが一般消費者にも身近になり、生鮮食品や医薬品などと取り扱い品目も拡大しており、より安心・安全な物流サービスが求められている。また、2021年6月からHACCPに沿った衛生管理への対応が完全に義務付けられるなど、一層その重要性は高まっている。
一方で、医薬品や生鮮食品の安全性を長時間にわたって保つには、輸送時の温度や振動を継続的に管理していく必要があるが、これまでの技術ではコストや利便性の観点から導入が十分ではなかった。
三井不動産株式会社とパイクリスタル株式会社は、東京大学大学院新領域創成科学研究科 竹谷純一教授の開発した有機半導体フィルムデバイスを活用して、パイクリスタルが開発した低コストで1年程度のバッテリー寿命を伴ったリユース型物流トレースタグにより、物流コストの上昇を抑えつつSDGsにも対応できる新たな物流サービスの商用化に向けて、長距離物流過程の温度、および振動を継続的に観測する実証実験を柏の葉スマートシティにて実施した。
これにより、温度や振動などの複数の情報を、1つの薄型・軽量なフィルムデバイスに搭載しデータを継続的に取得するとともに、取得したデータをクラウド上で共有できるトレースシステムの開発に成功したことになるという。
2021年4月5日~6日と5月24日~25日に行われた、長距離輸送による、魚の切り身の真空パック内への温度トレースタグ封入による魚自体の温度計測の実験では、三重県漁業協同組合連合会との協力で、神奈川県の三崎漁港内の加工工場で魚の切り身に温度トレースタグを真空パックで同梱し、柏の葉スマートシティまでの約120kmの輸送における鮮魚の温度を直接モニタリングした。
2度の物流実証にて鮮魚自体の温度を測定した結果、温度トレースタグにより正しく鮮魚の温度が計測されていること、対象商品が鮮魚の鮮度保持に最適とされる0-5℃の温度帯を常時保って輸送されていることが確認できた。
また、有機半導体で作られた薄型の温度トレースタグは温度変化に素早く応答する特徴があり、市販のタグと比較してより急激な温度変化も記録可能なことが確認できた。併せて、無線通信でクラウド上にデータをクラウドへ送り、モニタリングデータをシェア/可視化できる事も合わせて実証した。
2020年6月~2021年2月に実施した実証実験では、柏魚市場から柏の葉スマートシティ内のレストランやスーパーマーケットまでの生鮮食品の物流過程に加え、一般冷蔵品と医薬品物流を対象に、長距離輸送時の実証実験を実施している。今回、三崎漁港から柏の葉スマートシティ間約120kmの長距離かつ鮮魚輸送の温度計測を実施したことで、物流チェーン全体の温度管理が可能になったといえる。
その結果、運搬中の荷物の状態を推測するのに有用な荷物が受けている振動のデータを取得することができた。特に、物流事故の多くで原因とされている「落下」や「振動」による荷物の破損の実態を把握する事が可能となる。また、薄型でフレキシブルなタグは箱内に梱包された商品個別にタグを貼り付ける事が可能であるため、箱全体の振動ではなく、商品そのものが受けた振動の検知が可能になる。
このような技術の開発によって、商品の物流過程における破損等の原因をデータから推定することが可能になることが見込まれ、商品梱包および物流過程の改善提案にもつながることが期待される。
※1 GDP:輸送・保管過程における医薬品の品質を確保することを目的とした基準(適正な物流に関する基準)。製造業者から薬局、または医薬品を公共に供給する承認(資格)を有している個人に至るまでのサプライチェーン全段階で医薬品の品質が維持されることを保証する実践規範であり、医薬品品質保証の一環である。
※2 HACCP:食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法。国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス)委員会から発表され,各国にその採用を推奨している国際的に認められたもの。
※3 ISO22000:『食品安全マネジメントシステム-フードチェーンに関わる組織に対する要求事項』の国際標準規格である。安全な食品を生産・流通・販売するために、HACCPシステムの手法を、ISO 9001(品質マネジメントシステム規格)を基礎としたマネジメントシステムとして運用するために必要な要求事項を規定している。
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