物流センターのデータは非公開だった ー秋葉淳一氏に聞く、ロジスティクスとデジタル②

「ロジスティクス」は製造業と小売業をつなぎ、産業に必要不可欠な業種だ。ただ、ロジスティクスと一言で言っても範囲が膨大なため、簡単に語るには難しい側面がある。

そこで今回、ロジスティクス業界について長年現場で支援を行ってきた、フレームワークス代表取締役社長CEOで、ダイワロジテック取締役の秋葉淳一氏に「ロジスティクス業界とデジタル教育」をテーマに現状を語ってもらった。第2回は秋葉氏が経営するフレームワークスや、大和ハウスグループでの取り組みについて聞いた。

秋葉淳一氏は、株式会社フレームワークス代表取締役社長CEO。
大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社、制御用コンピューター開発と生産管理システムの構築に従事。
その後、多くの企業のSCM システムの構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングを担当。
現在は、上記の株式会社フレームワークス代表取締役社長CEOをはじめ、大和ハウスグループの複数企業で代表取締役、取締役を務める傍ら、学習院大学、金沢工業大学虎ノ門大学院、流通経済大学で教鞭をとる。

アッカを買収、Hacobuに出資

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 秋葉さんの会社は前回で話していた「食品」「アパレル」「消費財」が主戦場なのですか?

フレームワークス 秋葉淳一氏(以下、秋葉): そうです。大和ハウスグループとしては、建材があります。僕らがグループに入ってもうすぐ丸10年になるのですが、入ったときは、機能会社として「大和物流」という会社がありました。

大和ハウスは、基本的に工場で、ある程度を作り、それを現場で組み上げるというやり方をしています。工場から現場にそういう建築資材であるとか、ある程度組み上がったものを持っていくという意味で「大和物流」というわけです。つまり、機能物流会社なのです。

そこに、我々が入りました。ちょうどeコマースが伸び始めていた頃です。我々はシステム屋、コンサルティング屋として、できることもあるけれど、「実物流としてアパレル系のECに強い会社をグループに入れましょう」といってグループにアッカインターナショナルを入れました。

この会社は、グループに入った当時は売り上げ規模で20億円があるかないかぐらいでしたが、今は100億円を超えています。では、なぜアッカインターナショナルだったのか。いわゆる物流のオペレーションをやってる会社は、ほかにもいくらでもあります。そうした中で、当時、彼らがやっていたのは、倉庫のオペレーション屋ではなくて、「フルフィルメントサービス」だったのです。

これは、倉庫のオペレーションもするけれど、商品の撮影もするし、サービスもするし、原稿も書くし、コールセンターも自らでやりますということです。なおかつ、自分たちのところで、仕組みとして店舗に送るものと、ECで売るものの在庫の共有もきちんと行っていました。また、これからECが伸びていく中で、ロボット、AGV(無人搬送車)も導入しようとしていました。

これらは、僕らがイメージしていること、先取りをしてやらなければいけないことでした。それをやろうと思ってる会社だったので、結構な買収金額でしたが、グループに入ってもらったわけです。

小泉: なるほど。元々テクノロジーで、できることをやろうとしている人たちだったわけですね。

秋葉: ただ、オーナーが自らやってる会社だったので、借り入れできる額も知れており、また思っていることはあるけれど、やろうとしたら時間がかかるということでした。そこで、「我々のグループに入って、資本力を使って、それでスピードアップをしましょう」という話になったのです。

小泉: なるほど。それが始めなんですね。

秋葉: そうです。それと同時に、物流でいえば、倉庫の中の話もあるけど、配送周りの話も当然ありますよね。そこを正にやろうとしていたのが、Hacobu(ハコブ)という会社でした。その社長である佐々木太郎氏と出会ったことで、当時、Hacobuに15%を出資をしました。

Hacobuとしては、ほかからも当然、資金を調達しますが、リードの企業が入ると、彼らも調達をしやすくなります。だから、出資をして、サポートできることはサポートもしました。そして、彼らなりにピボットはしながら取り組んで、今ではバース(荷物積み降ろしなどに使用するスペース)予約の仕組みで60数%くらいのシェアを取るようになったのです。

最初の頃、彼らがいろいろとピボットしていて、ディスカッションをしていたときは、倉庫がずっと店舗に物を運ぶことを中心にしてきていて、同じ事業者がECの対応をどうやってしていくのか、という過渡期だったのです。

しかし、配送周りは、宅配なのかBtoBの配送なのかで明確に分かれています。そして、宅配であれば、今ではアマゾンや、いろいろな会社がありますが、やはり、佐川急便、ヤマト運輸、日本郵便(JP)という話になります。ただ、「EC」と「BtoC」と「BtoB」は明らかに違います。総物量でいくと、BtoBのが圧倒的に多い。これは当たり前なのです。

「バース」に集まる情報を重視し押さえる

秋葉: そして、Hacobuとすると「どちらをターゲットにするのか?」ということになったとき、「BtoB」で「トラックをどうやって追いかけるか」という話になったわけです。

このことについて、私の中では、大きく2つポイントがありました。車自体を追いかけることもあるけど、実は僕らが強みとしている「倉庫」と「車の接続点」という意味でいえば、「バースだ」と思ったわけです。だから、このポイントを押さえられるかどうかがひとつ目のポイントでした。

小泉: それは、データをつなげられるかということですよね。

秋葉: そうです。「どこからどこ」ということがわかれば、使うサービスは何でもいい。カーナビがどんどん普及してくるタイミングや、ドライブレコーダーをみんなが積まなければいけないということに対して、ここの間は、ほかのテクノロジーで何とかなる。だから「どこからどこ」というところのポイントを押さえられるかが重要と思ったわけです。

小泉: そうですよね。倉庫事業者の人と、トラックをやっている事業者の人は、そもそも違いますし、大体、仲がよくないですよね。

秋葉: だから、そこの接続点がひとつのポイントになるのです。

小泉: バースで荷物を受け渡しするときに、荷物のIDを知っていて、そのIDがわかった荷物をトラックに積み込むという形ですよね?

秋葉: そうです。そして、積み終わって、車が出たことが着側がわかれば、大体どれぐらいで到着するかが分かります。配送では隣の会社やコンペティターが同じような動きをしているケースが当然あります。けれども、よその会社のことはみんな知らない。でも「from to」の情報がすごく集まってくると、「ここを一緒に運んだらいいんじゃないか」という話ができたりするわけです。

すごく極端な例ですが、届け先が大きなショッピングモールの場合、隣町の物流センターから、小泉アパレル、秋葉スポーツでモノを出してますみたいなことがありうる。そして、それぞれが毎日毎日、2トントラックを走らせているとしたら「4トントラックで回ったらいいのではないか」といったことにもなるわけです。

しかし、こうしたことも情報がないと、わからない。そういう意味で、接続点としてバースは重要で、その情報がすごく集まってくると、それを利用してムダな配送をやめることができるのです。

小泉: そうか、バースは荷物が何かもわかっているけれど、誰がどこに届けたいかもわかっているわけですよね。

秋葉: そうです。出すときに、どこ向けなのかを当然出しているからです。

小泉: でも、それは、なぜバースでやるのですか? 荷物が倉庫に入って、出荷指示が来た時点でわかるわけですよね。バースのシステムではなくても出荷指示のシステムを押さえれば、つなげられる気もするのですが。

秋葉: つなげられます。つなげられるけれども、実際に車に乗せたのかは、また別の話なわけです。もっというと、この車が直接行くのか、どこかを経由していくのかを、倉庫側は知らないのです。

小泉: そこは運送会社の領域になるので、わからないわけですね。

6年前まで物流センターのデータは非公開

秋葉: これが「サードパーティロジスティクス(3PL)」といわれる人たちで、「倉庫も配送も自分の会社で請け負っています」ということであれば、自分たち会社の中で、クローズでわかりますが、そうではない。

お客さんが、それぞれ倉庫運営に任せて、それぞれ車の手配をしている場合には、お客さんしかそもそも分からない。そして、お客さん同士がその情報を公開してやり取りするかというと、しない。今でこそ「データをオープンにしましょう」とか、「一緒になってデータを共有して、何かをしましょう」となっていますが、そうなったのは、ここ数年なのです。

僕らは「オープンデータコンテスト」の第1回目を、を2016年に行いました。そのときに、「お客さんにも協力をしてもらい、物流センターのデータをオープンにします」と言ったら、それだけでニュースになりました。すごく笑える話なのですが、それがたった6年前のことです。逆にいうと、6年前までデータは全てクローズドだったわけです。

「クローズド」ということは、荷主サイドが当然、その販売データがばれるのではないかと思ってクローズにするのですが、委託されている物流会社は、当然、物流会社同士でそんなことはできない。そういうこともあって、数年前は、隣が何をしているのかを知らなくてもよい世界だったのです。(第3回に続く)

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