標準化に向け動き出した物流業界 ーフレームワークス秋葉氏インタビュー5

「ロジスティクス」は製造業と小売業をつなぎ、産業に必要不可欠な業種だ。ただ、ロジスティクスと一言で言っても範囲が膨大なため、簡単に語るには難しい側面がある。

そこで今回、ロジスティクス業界について、長年現場で支援を行ってきた、フレームワークス代表取締役社長CEOで、ダイワロジテック取締役の秋葉淳一氏に「ロジスティクスとデジタル」をテーマに現状を語ってもらった。第5回は「物流業界と標準化」について聞いた。

小売業のために作られた段ボール

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 例えば、ECではない、違う買い方が出てきたり、2個、3個をセットで買う人が多かったりと、そういう場合には解決策は出てこない。ほかのパターンが来たときには考えられないわけですか?

フレームワークス 秋葉淳一氏(以下、秋葉): 「そうなったら、どうしよう」ということになります。店舗に送るのも、コンテナのまま店舗のバースにつけるみたいなアメリカのような話ではないのです。

店舗配送では「カゴ車」といわれるものに、売り場ごとに詰めて送ります。そして、店の生鮮食品や加工食品などの売り場のところまで、そのカゴ車で行って、パートの人たちが、棚の中に品出しをするわけです。そのため、メーカーも、卸も、物流会社も含めて、「小売業がオペレーションをしやすいようにどうするか」と考えていることがすごくあります。

少し話は変わりますが、ペットボトルであれば段ボールから全部を抜いて置いてあったり、段ボールの上だけ開けて置いてあったりしますよね。段ボールを開けるのはまあまあしんどい(笑)。それを店のパートの人たちが何十ケースも開けると想像をしたら、いかに開けやすくしてあげるかということを、小売業も望まれるわけで、メーカーはそれに対応した段ボールを使っているのです。

ただ、人間が開けやすい段ボールということは、フタの接着がやや緩めだったり、力がなくても簡単に開けられるようなミシン目の入れ方をするわけです。人が作業することを前提にそうなっているのに、「人材不足だから」、「2リットルのボトルが6本で重たいから」という理由で「ロボットでやった方がいいよね」と、ロボットを使うとなったら、その瞬間に壊れる段ボールが多く存在します。

小泉: なるほど。だから段ボールのところに「店用」と書いたものがあるわけですね。

秋葉: 「それも標準化をしましょう」という話になっています。形とかデザインではなくて、ロボットが持ちやすいための標準化のガイドラインを作ることを今やっています。

その標準化を進めるのに、RRI(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ評議会)の中で、物流倉庫TC(テクニカルコミッティ)が検討をしています。標準化の検討中で、とある飲料メーカーの段ボールが壊れやすいという話をしたら、そのメーカーが「自分たちの段ボールを直します」と仰ってくれて、その実証を今まさにしている最中です。

ただ、メーカーとしても直すとは言ったけれども、説明のために「ほかのメーカーは壊れないが、うちのが壊れるというデータが欲しい」という話でした。これについては、今の季節だと湿気が少ないから壊れづらいなど、環境条件によってもデータに違いがあります。いくつかの条件下でデータを収集する必要があります。

当たり前なのですが、段ボールは工場から出てくるときには、きっちりとしています。輸送がされていないので、ずれたりもしてない。工場出荷タイミングでは、「この段ボールで大丈夫」という話になるのですが、サプライチェーン全体ではそれでは不十分なわけです。なぜなら、店舗に届けるところまで壊れないことが求められるからです。

小泉: そうですよね。普通はフォークリフトとかに山積みされた段ボールはトラックに積み込まれて揺すられたり、場合によっては雨でぬれたりとかしますよね。

秋葉: 物流は、その業界によって違うという横幅の話をしましたが、サプライチェーン上でいくと、メーカーから小売業も含めて我々の手元に届くまでの流れの中でも、形がどんどん変わってきます。

そして、ケースは、どんどんへたってくるという話になります。ここも自分たちが見ているものの姿が全てではなく、そのように変わってくるという流れ自体も知らなかったりするわけです。だから、メーカーの物流担当者も、自分たちのところを出たら、「後は運送会社や問屋に任せておけばいい」という話でしかない。つまり、間の話を飛ばしているわけです。

ロジスティクス目線での標準化の動きが加速

小泉: なるほど。それならおカネをとったらよいのでは?

秋葉: そうはいかない。「じゃあ、あなたのところは使わない」と言われてしまう。

小泉: 「商習慣」とか、そういうことですよね。

秋葉: 今まで標準化みたいなことを考えようといっても、業界の中だったのですよ。業界の中で考えているからサプライチェーンでつながっていかない。当たり前だけれど、飲料メーカーだとしたら、飲料メーカーとしてどうしたら効率がよいか、しかない。それが「物流に対して、よくも悪くも影響を与える」とか「小売業にとってどうなのか」という話ではないのです。

それを、「サプライチェーンをつないだときに」いうことで、いろいろな人たちが集まって、議論をして、「標準」と言っていることを業界標準ではなく、「ロジスティクス、サプライチェーンとしての標準として、きちんと考えましょう」と、活動しているのが物流倉庫TCで、すごく大きな変化だと思います。

小泉: それはいつぐらいからなのですか?

秋葉: ここ3~4年ですかね。最初は「勉強会」と称して、人を集めて、議論をしました。それから「これをきちんとした組織体で回しましょう」ということで、RRIという別の組織に、物流倉庫TCを作って行ってきました。

小泉: 初めはメーカー同士の有志の集まりだったのですか。

秋葉: 最初からメーカーとか小売りも入ってもらった勉強会です。

小泉: それは秋葉さんが主催しているのですか?

秋葉: 経産省などと一緒に行っている勉強会です。「手弁当で志のある人たちも集めてよいですか」と言って、経産省の人に理解をしてもらいました。「物流」というと国交省の管轄ですが、「ロボットをどうやって活用するか」「データをどうやって活用するか」「働き方にどう影響を与えるか」については経産省の管轄になるわけです。

小泉: 物流は国交省なのですか。違和感がありますね。

秋葉: それは、元々が運輸や建物の話だからです。ただ、作業者になると厚労省、そこで使われているシステムや仕組みについては経産省になるわけです。

そして、経産省を動かすためのキーワードが「ロボット導入」なのです。

小泉: 要は国交省とか厚労省とかの管轄じゃない話をした方がよいということですよね。そもそも「サプライチェーン全体をよくしましょう」という話は経産省の管轄ですしね。

秋葉: あと、もうひとつ追い風なのは、省エネに対する取組みもエネルギー庁で、ここに向けた効果もサプライチェーンで検討していけるということです。ロボット導入を前提とした標準化の検証や省エネにむけた実証実験をやろうとなると、経産省にも支援をしてもらうわけです。

先ほどの飲料メーカーの話もそうですが、国の補助金という御旗(みはた)があると社内に説明しやすいことがあります。御旗を持った上で、志のある人たちが集まって変えていくわけです。一方で、そのときに「標準化」や「こういうガイドラインでやりましょう」ということを発信するためには、日本の場合、業界ナンバーワンの企業が集まり、成功したことが、おそらくすごく重要になると思います。人と違うことをやったのが格好良いのではなく、「誰がやっているのか」「どこがやっているのか」といったことが日本人のマインドにあるからです。

そのために、消費財でナンバーワンの花王、リテールではイオン、3PL(サードパーティロジスティクス)では日立物流、建物は大和ハウス工業に入ってもらいました。そして、フォークリフトで世界ナンバーワンの豊田自動織機に協力してもらうというやり方をしました。

私の仕事は、そういう座組を組んでメッセージを発信するということも役割のひとつだと思っています。しかし、それを発信したところで、きちんとロジカルに教育されてない人たちからすると、簡単には理解できないのです。

小泉: どこのプロジェクトも、ビジョンが共有できてない問題はすごくあります。初めは方向性を共有して「そうだ。そうだ」とういうことになりますが、それぞれ分かれて活動を始めると「できた!」と言った後に「これで何をするんだっけ?」となっている人がたくさんいます。

秋葉: そうですね。だから、RRIの物流倉庫TCも、例えば、ビックカメラが入ったり、IHI、ロボットベンダーのMujin(ムジン)、ラピュタロボティクスも入ったりしている。運送会社では鴻池運輸、システム系であればBIPROGYも入っている。いろいろな会社が入っています。

そして、RRIの会員になるのに年間で何十万も払っているし、会議をやったりするのはみんな手弁当です。だから、ある意味、志ある人間しか集まらない。それはそれでよいと思うのです。

ただ、その考え方や決まったことをどうやって普及させていくか、認知させていくか。あるいは、決まったことだけをやっていればよいのではなく、それには理由があるというロジカルな部分をどうやってみんなに伝えていくかの話は、まだ取り残されているとは思っているわけです。(第6回に続く)

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