「ロジスティクス」は製造業と小売業をつなぎ、産業に必要不可欠な業種だ。ただ、ロジスティクスと一言で言っても範囲が膨大なため、簡単に語るには難しい側面がある。
そこで今回、ロジスティクス業界について、長年現場で支援を行ってきた、フレームワークス会長の秋葉淳一氏に「ロジスティクス業界とデジタル教育」をテーマに現状を語ってもらった。第7回は「物流で敬遠される荷物」について聞いた。
物流で手間がかかる品物とは?
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 「Warehouse Management(倉庫管理)」であれば、担当者が見なければいけない画面とかデータがありますよね。「こういうことをしている人は、こういうことを見ていなければいけない」というような。こういうことを少し教えてもらうのは、よいかもしれないと思いました。
なぜなら、「全体の流れからいうとこういうことではない」という紹介もありだなと思うからです。そうすれば、ひとつのシステムをベースに語られているので、見ている人はわかりやすいですよね?
フレームワークス 秋葉淳一氏(以下、秋葉): そうですね。それと前にお話した「バースの予約の仕組み」(第2回)と一言で言うけれど、「どういう情報を集めていて、それが集まることで、どういう効果があるのか」という話もあると思います。
小泉: それぞれの役割で適切な情報システムがあるので、まずはその辺を大づかみにサプライチェーン全体像みたいな感じで、どういうふうに通しているかを知るわけですね。
秋葉: そのほか、「全体を見通す仕組みが今はないから、それを開発している」といった話もできますね。
小泉: それがわかってくれば、「ここに部分、部分でロボットを入れようか」「搬送機を入れようか」といったことは結局、現場の話になってきますね。
秋葉: そうなれば、「ロボットや搬送機を導入しようと思うと、いろいろなパレットや段ボールが存在していると、ロボットなどもそれに合わせたいろいろなものを導入する必要があるのか」といった話になります。また、「標準化って必要だよね」「マルチベンダーのロボットやマテハンをコントロールしようと思うと、それらをコントロールする仕組みも必要だね」という話にもなると思います。
小泉: あまり複雑なことには入りすぎない方が、よいかもしれないですね。単純化して、今あるシステムベースで、パッケージングされているぐらいだから「標準系」なわけですよね。だから「標準系とは、こうだよ」ということをまず知って、どこでイレギュラーが起き出すのかをきちんと説明していけば、一本分かる気がします。
秋葉: 他には「保税」や「酒税」の話があります。
小泉: 「保税」とは何ですか?
秋葉: 例えば輸入をすると関税がかかります。しかし、一時的に関税の徴収が保留された商品を保管しておく倉庫やエリアもあります。日本に品物は届いているけれど、税金をかけてないわけです。
小泉: まだ品物が入国はしてないわけですね。
秋葉: そうです。保税の倉庫は財務大臣の指定か税関長の許可が必要です。物理的に品物はあるけれど、保税の許可を取った倉庫に置いてあれば徴税されないのです。
あとは「酒税」ですね。保税場所からの出荷タイミングで税金の換算をしなければいけません。仕組みとしては簡単ですが、システムがきちんとしていても、お客さんのオペレーションの品質も重要になります。
「不定貫」と呼ばれているものもあります。1個、2個と数えられないものです。例えば、魚があります。1匹で300キロだったマグロを、バラして商品にしたら、300キロにはならないですよね。ただ、こういうものもあるという知識の話と、そこを深ぼりするのは別だとは思います。
さらに、我々でいえば、「異形物」や「重量物」は扱いが難しいです。典型的なのは建材系などです。グループの大和物流はそういう建材を運ぶのを得意としています。
建材を運ぶのには、いくつかポイントがあります。もし、小泉さんが家を建てるとすると、毎日、その日使う部材を持ってきてくれないと、置き場に困りますよね。
建材の出荷では、「集積」という言葉を使っていて、一般的な物流センターで出荷のための仕分けをしているイメージとは違っています。
トラックの荷台のイメージで床に線が引いてあって、そこに物を集めてくる。建材は、いろいろな形をしているので、「これで大体トラックに積めるな」というシミュレーションをするわけです。
そして、トラックが来たら、置いてある線のところにあるものを積んで持っていくすごく特殊です。だから、(品物が)パレットや段ボールに入っていることは標準化の検討がしやすいとも言えます。
小泉: 今は、ツーバイフォー住宅ができて、住宅の建材はわりと形が整っていると思っていましたが、確かに部品は壁だけではないですよね。
秋葉: 建材は大きいし重い。だから「ユニック」という、持ち上げる機器が付いたトラックで来る。なおかつ、「平ボディ」というボックスになってないトラックでなければダメなのです。
そして、そのトラックは、そういう平ボディに載せる荷物だけしか積めない。一方でボックス型のトラックでは建材は積めない。という制約もあるわけです。
小泉: 平ボディのトラックを持っている運送会社は、平ボディがなるべく効率的に回るような人たちと本当は仕事したいけど、たまたま付き合っているのが大きな会社だと、取りあえず始めてしまう。そして、調子がよいときは仕事があるけど、調子が悪くなると困るわけですよね。
秋葉: そうです。飲料などであれば、ボックスの大きいトラックで、ウイングをあげてフォークリフトを使って荷積みをして配送に出るという流れになっている。だから、「運送」「物流」と一言でいうけれど、取り扱う荷物で全く違うわけです。
また、物流は、「重量」か「容積」で料金が決まります。「トラック自体は何トン車」という管理単位ですから重量ベースで換算しています。
発泡スチロールのようなものを運んだら、重量は積載制限を超えないのに、容積はめちゃくちゃ大きい。こういう状態を「容積勝ち」といいます。家の建材でいうと、断熱材などもそうです。
重量で換算すると全然運べてはいないけれど、容積でみるとすごく多いとなります。そして、それは「空気運んでいるようなものだ」というような話になるわけです。
「魚箱」といわれる、魚と氷を入れる発泡スチロールの容器は完全に容積勝ちですね。
専門家でも物流の全てを知ってはいない
小泉: でも、こういうことを全てうまくフォローする手段はない気がします。
秋葉: 全くないですね。全てをひとつの仕組みでフォローすることはできないです。しかし「そもそもそういう現実がいっぱいある」とか「こういうものもある」ということが、みんなが見えているテーブル上に乗っていない。
これらをテーブルに一度並べて、ある程度カテゴライズをしたり、整理をしたりするのは我々の仕事かもしれない。
一方で、物流に関わっている人たちは、「物流」の範囲が広いということを知らないことには、新たな知識が入ってこない。というか、知ろうともしないかもしれない。
小泉: そういう意味では、トラックの種類だったり、荷姿の種類だったり、倉庫の種類みたいなものも、項目としてはあった方がよいということですよね?
秋葉: ボックスでずっと運んでいる人からすると、「平ボディなんて使わないだろう」という考えなのです。
小泉: 物流業界といったら、普通は2トントラックを思い浮かべます。だから、特殊なトラックが走っているのはわかるけど、車が乗っているトラックを何て呼ぶかなんて考えもしないです。
秋葉: あれは車以外を運ぶことはできません(笑)。「それは知っているよ」と言われるかもしれないけれど、今知っていることが物流の全てではない。
仮に商社のサプライチェーンをずっと担当していても全てを知らない物流があるわけだから、多くの人が知らなくて当たり前なのかもしれません。
だから、知らないことを揶揄(やゆ)する必要もないし、がっかりする必要もない。けれども、「知れたら面白いよね」とか「もっといろんなアイディアが出るんじゃないの」とは思うわけです。(第8回に続く)
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