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今後、物流業界に求められる姿 ーフレームワークス秋葉氏インタビュー8

「ロジスティクス」は製造業と小売業をつなぎ、産業に必要不可欠な業種だ。ただ、ロジスティクスと一言で言っても範囲が膨大なため、簡単に語るには難しい側面がある。

そこで今回、ロジスティクス業界について、長年現場で支援を行ってきた、フレームワークス会長の秋葉淳一氏に「ロジスティクス業界とデジタル教育」をテーマに現状を語ってもらった。最終回となる第8回は「これからの物流に求められる業界の在り方」について聞いた。

ロジスティクスに自ら投資するユニクロ

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 今回、いろいろとお話を伺ってきましたが、まずは業務システムということですよね。ど真ん中の一本筋を通すところを、まずは教えてもらって、そこからバースのシステム、荷姿、トラックの種類などを調べて「こんなものなんだ」ということを出せたらよいなと思いました。

フレームワークス 秋葉淳一氏(以下、秋葉): 最近、すごく顕著になっているのですが、ユニクロやヨドバシカメラは、自分のところで売る商品がたくさんあるので、自ら物流オペレーションをマネジメントしています。自らやるので投資もできる。ここはすごく大きいポイントだと思います。

特にユニクロはSPA(製造小売業)ですから、自ら企画して、消費者に買ってもらうまでの一連に自分たちが責任を持たなければならない。責任を持った上で、どれだけ効率的にオペレーションできるかとなったときに、最後の最後で物流のロジスティクスも自らでマネジメントすることにした。そしてそこに投資をする。

システムも、マテハンもロボットも、全体の中で投資ができる。それはロジスティクスに価値があるかどうかではなくて、商売全体としてみて、そこに価値があるからやるという話なのです。

物流会社に物流を委託している人たちからすれば、「物流費」というコストとなる部分です。コストでしかないわけです。だから「これが自分たちの商売にどう影響するか」という発想には距離があります。

「物流費」というコストだと思っているから、「安い」「高い」の議論になる。一方で、受託をしている物流会社からすると、払う人が価値と思っていないために、価値としてのおカネがもらえないから、投資ができない。

きちんとしたデータをどこまで把握ができているのかという話はありますが、我々が生業としている「Warehouse Management System(倉庫管理)」という物流の仕組みが導入されてない物流会社、荷役をやっている会社は、全体の40%超えているといわれています。

このような本質的な問題を、理解されていない方が多くいる。なぜかというと他社、他所と比較するデータもない。システム導入していなければ基準もないからです。「1日に、これだけの処理をしてきている」という過去の経験があって、それからの比較なのです。

例えば、実際にストップウォッチを持ってデータを取って、「これを仕組みとして、こういうふうに回して、それから遅延が起きたら、アラートを出しましょう」といったやり方をしているわけではないのです。

小泉: FAプロダクツの貴田(FAプロダクツ社長の貴田義和氏)さんの話では、製造業で一番売れているのは生産シミュレーションだそうです。今までは、まさにカン・コツでやっていたけれど、今は多品種少量生産が過ぎてカンが効かなさすぎるので「1回システムでやってみよう」とやってみたら、すごく生産性が上がった。そうしたら「もうこれでいいんじゃないか」と、みんな黙ってしまったと言っていました(笑)。

秋葉: 基準がないですよね。「基準がない」ということは、言い訳をする必要もない。基準があれば、基準に対しできていなかったら、できない理由を並べる。だけど基準がないから言い訳もいらない。

小泉: まずは、生産性改善の話からした方がよいということですね。

秋葉: 「現場を改善してくれ」や「レイアウト変更も含めて考えてくれ」という話ももらいます。ただ、仕組みが、きちんとしていなかったら、人間は緩い方に流れる。だから、「安いものでも何でもよいから、仕組みを入れて、まずはきちんととデータを取りましょう」と言っています。

小泉: ただ、隣近所にある物流センターが「Warehouse Management System」を入れたことで、すごく段取りがよくなって、「100個の荷物しか運べなかったのに、150個を運べるようになりました」といったような実績が、どんどん公開されてくれば、「やるしかない」となりそうですよね。でも「うちは違うみたい」になるのですか?

秋葉: 「うちとは違う」「うちは大変だ」「うちのセンターは、こんなイレギュラーが起こるから大変だ」とか、そういうのは、すごくあります。

しかし、先ほど話した物流作業を受託している企業からするとそのおカネを捻出できないんです。日々、業務をやっていて、少しの利益を出すくらいしか作業費をもらえていない。生産性を上げるためにかかる少しの投資額も捻出できないという話もあるのです。

次のステージに行こうとしない倉庫経営者

小泉: 例えば、私が中小企業物流倉庫のオーナーだとします。その人が、おカネを儲(もう)けることができたら、次に何をするのですか。もうひとつ倉庫を持つのですか?

秋葉: もう1個を持ちます。

小泉: なるほど。だから、次にジャンプするためにおカネがかかるから敷居が高いわけですね。

例えば、ソフト会社の場合、次の投資となると「よいオフィスに行こうか」や「人を増やそうか」と、割とそれほどおカネがかかる話ではなくて、ちょこちょこと伸ばしていけます。

秋葉: 「倉庫を新たに借りましょう」というと、家賃の何か月分かを前もって払わなければいけない。そして、「新たに借りましょう」というくらいだから、何十坪とかではなく、「少なくても300坪とか500坪の床を借りましょう」という話になるわけです。仮に500坪で坪4000円だとしても、1か月でとんでもない額になりますよね。それを「6か月分は取りあえず払ってください」と言われます。

実際に仕事を受託するためには借り入れをしなければいけない、そして、借り入れのために銀行に行くと「その荷主との契約書を見せてください。何年契約ですか? 本当にその間は大丈夫ですか? 本当にそれを受けてちゃんと利益が出せますか?」と言われることになりますよね。

小泉: このことは、農業でいえば、自分で田や畑を持っているけれど、長年やってきて年を取ったから、引退したいと思っているとします。そうはいっても毎日、食べていかないといけないから、頑張って体を酷使してやっている。でも、農業は、すごく儲かるわけでもない。普通に工場で働くよりは儲かりますが、「もうひとつ畑を買うか」とはならない。なぜなら、維持していると結構よい暮らしができるからです。

物流会社の社長も同じで、結構よい暮らしをしていたら、もうひとつ倉庫を買って、もう1回チャレンジしようとすると「今のよい生活は全部担保になっちゃうの?」と思ってしまう。だから、「次のステージがあるから頑張ろう」というマインドになるとは限りません。

秋葉: 配送の方もそうなりつつあります。トラックドライバーは今、足りていない。これは多分解決しません。

なぜかというと、自動運転になるとわかっている業界に、若い人が、わざわざくるかということなのです。昔の佐川急便のように、「20歳で月100万円を稼げます」という話であれば、「一定期間だけはやってみようかな」とは考えるけれど、そうでなければ、就職先候補として運送会社はなかなかならない。

そうなると、今、100億円くらいの規模でうまくいっている会社ほど「今のうちに会社を売却しよう」ということになります。うまくいっていない会社は、売却するとなっても大した金額が付かないからまだ様子を見ている。

物流はこれから水平分業が重要になる

小泉: そこですね。次のステージがないから、投資する気にならないのではないですか。農業では、「ビジネス農家」といったものが出てきていて、借りて農業をしています。倉庫でも、「持ち主はオーナーだけど、オペレーションはうちがやるよ」ということを行っている人もいますよね?

秋葉: ホテル業界だと、「星のや」(星野リゾートが運営するホテル)がそうです。それまでは、彼らのようなやり方している人たちはいなくて、オーナー兼運営者兼みたいな話でした。

ただ、海外のホテルではやっていた。ブランドを貸すようなことは、いくらでもやっていたわけです。そして、星野(星野リゾート代表の星野佳路氏)さんは海外で勉強をして、日本の旅館で、それをどういうふうにやるかとなったとき、そうしたやり方を行ったわけです。

小泉: それしかないような気がします。

秋葉: このやり方は、これからの世の中ではすごく大事だと思っています。倉庫の床だけ、車だけではなく、ロボットやマテハンも資金が必要なわけです。そうであれば、投資ができる人、その周りで人を少し扱って作業する人、倉庫のオーナーと、もう少し分業をしていけば、よいのではないですか。

今までは「倉庫内の作業をする会社がロボットの投資をします」という発想になっていますが、「ロボットやマテハンは、ほかの人が投資してやってくれよ」ということです。ただ、それだけで全部をやりきれるわけではない。「人もいるよね」という話にもなる。そうしたら、「そこの人の部分は私がやる」というモデルもアリだと思いますね。

ユニクロの場合は柳井(ファーストリテイリング会長兼社長、ユニクロ会長兼社長の柳井正氏)さんが、疑問視をした。物流企業との契約期間は、1年更新です。そうしたら、物流企業は投資なんかできるわけない。だから「投資は自分たちでする。その代わりに作業や配送のところだけやってくれ」ということになったわけです。

小泉: ユニクロはSPAだからそういう発想もありですよね。情報システムだけではなく、マテハンやロボットも、ユニクロは投資をしているわけですね。

秋葉: 自ら倉庫を借りて、システムを作り、マテハン投資、ロボット投資もする。そして、システムには我々も関わらせてもらっています。

小泉: 大企業であれば、例えばサントリーもキリンもそうすべきですよね?

秋葉: そうなると、人がやる作業は、人しかできないところに、どんどん収斂(しゅうれん)されていくはずなんです。効率化する話は絶対にしてきますから。

別にユニクロではなくても、ロボットやマテハンが攻め込んできたら、人しかできない作業は決まってきます。そして、ここを習得した人たちは高い給料をもらえるはずなのです。

すると、「最初からそこを目指して商売を考えよう、事業を考えよう」という人たちが出てくる。この人たちはDX(デジタルトランスフォーメーション)ではないですが、テクノロジーが分かってないといけないし、ロジカルにモノを考えられる人でないといけない。だから、作業者ではないのです。

小泉: 道具は、すごく一杯の種類が用意されているけれど、どれをチョイスして、どのようなやり方をするのが一番よいのかを考えなければいけないということですよね。そして、倉庫の床の絵があって、そこにどんな機材を入れて、どんな荷物がくるかと入れていったら、AI(人工知能)が「こういう配置にしたらすごく効率がいいよ」と提案をしてきそうですよね。

秋葉: そうです。もう近いです。だから、どちらかというと、その作業請負をする会社こそ、最後に人間しかできないところを強みにすべきです。前に話した問屋はなくなりようがない、除(のぞ)けなくなるという話(第3回)と同じです。「最後の最後、この会社のこの人たちに頼まないといけない」というところは残るわけです。

そうなると、マテハンやロボットは、同じ機能や似たような機能を持った会社は複数あるわけだから、「このレイアウトで、こういう商材で、1日の入出庫量がこうだったとしたら、ここのベンダーのこれとこれを集めて、こういうレイアウトにしてくれたら、人をこれだけ入れて、1日の生産性をこれだけ出せますよ」というように、請負の会社が言いきれてしまう。そうすると、マテハンのベンダーも、請け負っている会社に「ぜひ、うちのロボットを使ってください」と協業を申し入れる。最後の最後にはなるのです。

小泉: そのロボットも全部資産じゃなくて、リースになるということですよね?

秋葉: あとは「使用料でおカネを払いますよ。それができるなら採用するけれど」のような話にもなっていくのだと思います。

小泉: そうなったら、高齢化問題にも対応できる。オーナーはどんどん高齢化していると思っているのですが、その問題にも対応できそうですよね。でもあと10年ぐらいはかかりそうです。

ただ、リース会社が入れば、リースは今日からでもできる。だから持ち主の倉庫オーナーが決断をするだけですよね。「全部リースにします」と言って、「うちはAGV(無人搬送車)を使ってないんだよね」と言ったら、リース会社が買ってくれて、働かせて、一部もらえるというような話ですよね。

秋葉: 三菱商事からカーブアウトしたガウシー(三菱商事などが出資し、物流向けロボットサービスを手掛ける会社)が、そのシェアリングサービスを始めています。

ただ、倉庫の建物は結構ややこしい。例えば、大和ハウス工業が建てるとなると、請負でお客から頼まれて建てる以外は、一旦は大和ハウス工業がオーナーなります。しかし、ずっと持っていると資産ばかりが増えるので、グループの中にリートの会社を作って、基本的には1回、リートに売却し、流動化して、みなさんからおカネをもらって運用しますという状態にする。

一棟を丸々建てるみたいな、そんな資金を持っている会社は多くありません。そうした会社に対して、物流企業が何をするかというと、2年や3年契約で床を借りるのです。借りた上で、自分たちがオペレーションをしたり、転貸をして別の企業に貸したりする。その時には賃料は上乗せされる。

小泉: そこについて、私はデジタルトランスフォーメーション(DX)だと思っています。デジタルで制御をし始めると中抜き商売、既得権益はなくなる方向に動きます。ただ、人が人を接待しながら仕事を取っている時代が終わらない限りは、無理です。DXの本質は、既得権益がなくなることだと思っています。

秋葉: 運送会社は今、6万3000社あります。ただ、我々でも100社の運送会社を言えない。ということは、もう多層構造がとんでもないという話なのです。

なぜそうかというと、そもそも下の層の人たちが情報を知らないからです。発注している人たちは、リアルタイムに荷物の情報がわからないので、何となく過去からの経験で信用できそうな会社に依頼をしているのです。

小泉: 自分で責任を取りたくないだけですよね。多重下請け構造の根源はそこにあります。

秋葉: それは土建もそうだし運送もそうだしITもそうです。労働集約型はどうしても、そうなってしまっているのです。

小泉: なるほど。今回は貴重なお話をありがとうございました。(終わり)

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