輸送能力3割不足の可能性、「2024問題」へ対応するデジタルソリューション

国土交通省によると、トラックドライバーは他の全産業と比較して、年間労働時間が約2割長く、それに反して年間所得額は約1割低いのが現状だ。

その結果、脳・心臓疾患による労災が、運輸業・郵便業が全業種において最も支給決定件数の多い業種となるなど、長時間・過重労働が課題となっている。

こうした中、厚生労働省によって定められている、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準である「改善基準告示」が改正され、2024年4月より、ドライバーの拘束時間、運転時間などの規制が強化される。

また、「働き方改革関連法」に基づき見直された時間外労働規制に関しても、自動車運転業務を含む一部の事業・業務に関しての5年間の猶予期間が終了。自動車運転業務においても、2024年4月1日から時間外労働の上限規制が適用されることになっている。

これらの変更は、労働環境改善のため必要である一方、何も対策を講じなければ、輸送能力が1割〜3割不足する可能性があると国土交通省は見ている。

ドライバーからしても、一人あたりが運べる荷物の量や距離が減少し、結果として売り上げの減少につながる。運送事業者にとっても、さらに多くのドライバーが必要になるほか、「ドライバーの労働管理」という新たな工数が発生する。

これらは、企業の業績悪化や、それに伴うドライバーの賃金低下・離職につながるリスクもある。

そこで本稿では、2024年4月より適応される時間外労働規制の内容や改善基準告示の改正内容、これらが与える運送業界への影響について触れ、効率化や省人化に寄与するITツールを紹介する。

2024年4月より適応される時間外労働規制と改善基準告示の改正内容

これまで、法律で時間外労働の上限が定められていなかったが、時間外労働規制により、2024年4月1日から、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年960時間(休日労働を含まない)を限度に設定する必要がある。

さらに、厚生労働省が発行している「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」である改善基準告示も改正され、自動車運転者の拘束時間の上限や休息期間などについて、さらに細かな基準が設けられている。

以下が、改善基準告示の改正内容だ。

トラック運転者の拘束時間の上限時間

年間の総拘束時間が3,300時間かつ、1か月の拘束時間が284時間を超えないものとする。ただし、労使協定により年間6か月までは、年間の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲内において、1か月の拘束時間を310時間まで延長することが可能。

この場合、1か月の拘束時間が284時間を超える月が3か月を超えて連続しないものとし、1か月の時間外・休日労働時間数が100時間を超えないように努める。

トラック運転者の一日の拘束時間

1日(始業時刻から起算し24時間)について、13時間を超えないものとし、拘束時間を延長する場合は、1日についての拘束時間の限度(最大拘束時間)は15時間。

ただし、1週間における運行が全て長距離貨物運送(450km以上)で、かつ、一の運行(勤務先を出発し、帰着するまで)における休息期間が住所地以外の場所である場合、1週につき2回に限り最大拘束時間を16時間とすることができる。

いずれの場合も、14時間を超える回数(週2回までが目安)をできるだけ少なくするよう努めるようにする。

トラック運転者の休息期間の取扱いについて

勤務終了後、継続11時間以上の休息期間を与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないものとする。

ただし、1週における運行が全て長距離貨物運送(450km以上)で、かつ、一の運行(勤務先を出発し、帰着するまで)の休息期間が住所地以外の場所である場合、1週につき2回に限り、継続8時間以上とすることができる。

この場合、一の運行終了後、継続12時間以上の休息期間を与えるものとする。なお、休息期間のいずれかが9時間を下回る場合、一の運行終了後、継続12時間以上の休息期間を与えるものとする。

トラック運転者の運転時間の限度

2日を平均し1日当たり9時間、2週を平均して1週当たり44時間を超えないものとする。

トラック運転者の連続運転時間の上限時間

連続運転時間(1回がおおむね10分以上、かつ、合計が30分以上の運転を中断することなく連続して運転する時間)は、4時間を超えないものとする。なお、「おおむね10分以上」とは、10分未満の運転の中断が3回以上連続していないこと等を指す。

ただし、サービスエリア、パーキングエリア等に駐車又は停車できないことにより、やむを得ず連続運転時間が4時間を超える場合には、30分まで延長することができるものとする。

これらの基準以外にも、二人乗務の場合や隔日勤務の場合、事故・災害時の対応など、イレギュラーにおいての対応策も明記されている。基準に違反した場合、行政処分や社名公表などの可能性がある。

労働時間の短縮が運送業界へ与える影響

こうした基準適応後、これまで同様の人員ややり方であれば、当然一日に運べる荷物の量が制限される。

そこで、運送事業者は運賃を上げたいところだが、運送業者間の競争と、荷主企業(発注者)が低運賃を求める傾向の中で困難なのが実情だ。

加えて、中小企業では、2023年の法改正で時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられたことにより、人件費が増加するため、利益減少に繋がると予測されている。

ドライバーにとっても、走行距離に応じた運行手当の支給制度があるため、労働時間の制限により収入減少のリスクが生じ、これが離職や労働力不足の加速に繋がる恐れがある。

厚生労働省は、労働時間規制後に具体的な対応を行わなかった場合、2024年度には輸送能力が約14%(4億トン相当)不足し、その後も対応を行わなかった場合、2030年度には輸送能力が約34%(9億トン相当)不足する可能性があると発表している。

ITツールの活用

こうした2024年問題への対応は、様々なアプローチが考えられているが、今回は、長距離輸送において効率化や省人化を促すITツールを紹介する。

動態管理

動態管理ツールは、トラックの走行ルートや速度、着荷、停留などデータを収集して、ダッシュボードで可視化してくれるツールだ。ダッシュボードの情報をもとに現状を把握し、ダイヤ変更や走行ルートの見直しにつなげることができる。

これまで手書きで行っていた運転日報も、ツールにより自動で作成することができるため、ドライバーやそれを取りまとめる管理者の負担を減らすことができる。

また、急なヘルプの手配や突発的な対応が必要になった際にも、リアルタイムでドライバーの位置を把握することができれば、対応をスムーズに行うことができる。

MOVO Fleet

輸送能力3割不足の可能性がある「2024問題」への対策を考える
MOVO Fleet

株式会社Hacobuの物流領域に特化したテレマティクスサービスだ。

車両ごとの走行時間・停留時間・配送地点での滞在時間(着荷時間)、およびそれらをあわせたドライバーの拘束時間を一覧で表示し、拘束時間の超過有無や適切に休憩が取れているかなどを確認することができる。

また、拘束時間の帯にマウスをかざすことで、一運行における稼働実態が確認できる。これらの情報は、ドライバーの手入力によるデータではなく、GPSによる位置情報をもとにしているため、客観的なデータに基づいた分析を行うことが可能だ。

配送計画と連動することににより、到着・遅延を可視化するほか、自動でのメール通知も可能だ。

SmartDrive Fleet

輸送能力3割不足の可能性がある「2024問題」への対策を考える
SmartDrive Fleet

株式会社スマートドライブが提供する、クラウド型車両管理システム。デバイスをシガーソケットに挿すことで、ドライブレコーダから走行データを自動収集し、リアルタイム位置情報や走行履歴の確認に加え、安全運転診断や運転日報・月報などを作成することができる。

ナビタイム

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ナビタイム
株式会社ナビタイムジャパンの動態管理システム。スマートフォンのGPSを活用し、作業者の位置や作業状況、次の訪問先とその到着時間などを地図上に表示する。

作業者は、リアルタイムの渋滞情報や車両に合わせた規制情報を考慮したナビゲーションを利用することが可能。

VICSとナビタイム独自のプローブ交通情報を元に解析した渋滞予測や、カーナビアプリで培ったルート検索技術による到着予想時刻の提供などが特徴。

また、到着希望時間や交通状況を元に最大100件の訪問先の訪問順とルートを最適化することができ、作成した計画は作業者のスマートフォンに送られ、訪問予定の確認やルート案内を行うことができる。

配送管理

次に紹介するのは、配送管理ツールだ。効率的な配送ルートを提案してくれたり、情報共有のツールとして活用される。先に紹介した動態管理とともに提供されていたり、連携できたりするものもある。

Loogia

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Loogia

数億件のGPSデータを解析した速度推定モデルを活用した配車計画を自動で作成可能なクラウドサービスだ。

配送先の時間指定をはじめ、配送先への左付け、一方通行、Uターン禁止、有料道路の選択など40項目に渡る制約を考慮した上で、最適な配送ルートを自動算出する。

作成した計画は、Excel形式で出力できるだけでなく、ドライバーアプリへの連携も可能で、リアルタイムでの運行状況や走行位置の確認といった動態管理機能も提供している。

LogiSTAR配車管理簿

輸送能力3割不足の可能性がある「2024問題」への対策を考える
LogiSTAR配車管理簿

株式会社パスコ独自の空間情報技術を応用して作られた配車管理システムだ。

配送先への接車や納品条件など、熟練の配車担当者のノウハウを活かした配送条件の設定や、各道路区間の月別・曜日別・時間帯別の平均走行速度を考慮した渋滞予測などの機能を搭載している。

また、自動配車だけではなく、手動配車にも対応しているので、急な配送や積載量の変更などの微調整も可能だ。

配車画面はカスタマイズできるほか、配車結果はExcelやCSVでのデータ出力にも対応しているので、配車表やガントチャートを情報共有できる。さらに、基幹システムやWeb・スマホアプリなどとのAPI連携や、動態管理システムなどとの連携も可能だ。

ODIN リアルタイム配送システム

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ODIN リアルタイム配送システム
株式会社オンラインコンサルタントが提供する、動態管理と配送計画の両方に対応可能な配送システムだ。

100カ所の配送場所を回る配送計画を89秒で作成できるほか、定期便を自動で組み込んだルートを作成することも可能だ。

スマホアプリの動態管理を組み合わせれば、配送先での注意事項をドライバーにもスマホで逐次共有することができる。

また、配送計画の進捗・遅延を随時確認でき、急に配送先が増えた場合でも、ドライバーに地図付きのメッセージを送信することができる。

バース予約

トラックドライバーの長時間労働の背景には、「長時間の運転」「荷待ち時間」「荷役作業」などが挙げられている。こうした時間を少しでも軽減できるよう、バースを予め予約することができるツールだ。

トラック簿

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トラック簿

株式会社モノフルのトラック受付・予約サービス。受付にタブレットやパソコンを設置し、ドライバーがドライバー情報や入出庫製品情報などを入力することで、バースの予約受付をすることができる。

各バースの作業状況やドライバーの受付情報がリアルタイムに把握でき、バースに呼出することができる。

ULTRAFIX

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ULTRAFIX

NECソリューションイノベータ株式会社の、トラック予約受付・バース予約サービス。ドライバーのモバイル端末もしくは運行管理者のPCから物流センタ到着の事前予約を行うことで、トラックの待機時間を短縮する。

物流センタ管理者は、ドライバーからの予約情報とバース運用状況を加味してバースの割り当てを行うことができる。また、物流センタ側は、バースの予約状況や利用状況を確認することが可能だ。

LogiPull

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LogiPull

株式会社シーイーシーのバース予約管理システム。入荷先・出荷先(仕入先、配送会社など)から、物流センタや工場におけるトラックバースの予約を受け付け、管理する機能を、クラウドベースのWebシステムとして提供している。

入荷先と出荷先がバースの仮予約を登録し、物流センタや工場が予約を確定させる形でバースの利用を行うことができるというものだ。

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