近年、企業の脱炭素化への要求は、自社の事業活動による直接・間接排出(Scope1, 2)だけでなく、取引先からの原材料調達や製品の輸送・使用など、サプライチェーン全体での排出量(Scope3)の算定・削減へと拡大している。
しかし、Scope3の正確な算定には、サプライヤー各社が保有する製品ごとのカーボンフットプリント(以下、CFP)データが不可欠であり、企業秘密を含むこれらの情報を、いかにセキュアかつ効率的に共有するかが大きな課題となっていた。
この課題の解決策として注目されているのが、組織間、国間、異業種間でも、参加者が自身の管理下にあるデータを手元に置いたまま、許可した相手とだけ共有できるデータ空間という概念である「データスペース」だ。
特に欧州の自動車業界では、業界標準のデータスペースとして「Catena-X」の導入が先行しており、グローバルサプライチェーンに連なる日本企業にとっても対応は喫緊の課題となっている。
こうした中、三菱電機株式会社、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)、SK Inc. C&Cは、サプライチェーン全体のCFPを可視化するための共同実証実験を2025年6月1日より開始すると発表した。
サプライチェーン全体にわたるCFPを可視化させるには、世界中にある製造現場からCFP算出に必要なデータを収集するために、国際標準に準拠した企業間データ連携が不可欠だ。
そこで今回の実証では、製造現場のIoTデータを起点としたグローバルな企業間データ連携の確立を目指す。
具体的には、製造現場のOT(Operational Technology)データからCFPを算出し、企業間で連携させる仕組みを構築・検証する。
対象は、完成車メーカと電池サプライヤという関係を模擬した環境における、電気自動車(EV)の基幹部品であるリチウムイオン電池の製造工程で、2025年6月1日から10月下旬まで実施される。
まず、電池サプライヤ側の「積層工程」に設置された装置から、産業用機械やプロセスの自動制御を行うための専用コントローラである「シーケンサ」を活用し、CFP算出に必要となる電力使用量、エア使用量、生産実績といったリアルタイムデータを収集する。
そして、収集されたデータを基に、SK C&Cが提供するモニタリングツールが装置単位のCFPを自動で算出・可視化する。
算出されたCFPデータは、「Catena-X」の標準データ形式に変換され、NTT Comが提供する実証実験用IT環境内のストレージに自動で格納される。
完成車メーカ側は、リチウムイオン電池サプライヤへCFP算出結果のリクエストを実行。データを受け取り後、自社側のCFP算出/モニタソフトへ取り込んでCFPを確認し、完成車としてのCFPを算出する。
なお、両者が「Catena-X」標準の通信手順およびデータ形式に対応するシステム間データ通信機能を使って、データをやり取りすることにより、「Catena-X」標準の通信動作制御が実現され、データ主権を保ちながらデータ連携が可能になるとのことだ。

今後3社は実証実験の結果を基に、自動車産業を中心とした製造業全体に同システムを提案していき、導入企業拡大によるモノづくり向上とエネルギー使用量削減を図る計画だ。
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