「感覚器」の代用から「脳」へ、私たちがAIに期待すべきこと
八子: これまで話してきたように、AIで汎用的に使われている例というのは、私たちの感覚器の代用でしかないと思うんですね。
たとえば、「見る」「聴く」がこれまでの話ですが、それは、インプット情報となるセンシングの部分ですよね。(AIという)”脳”で考えるというよりは、感覚器の代用にとどまっているのかなと思います。
今後AIで重要なのは、クラウドの中などに入っている既知の情報から、人間では想像しえないような、これまでになかった新しい発想を生み出すことですね。
産業の応用例では、「ジェネラティブデザイン」というコンセプトがあります。3Dプリンタメーカーの(株式会社)ストラタシス・ジャパンの片山浩晶社長から教えていただきました。
製品のデザインにおいて、ある「強度」だけを入力します。そうすると、魚の骨や葉の葉脈など、そうした自然界に存在する情報から、入力した強度を満たすデザインを、AIが判断して自動生成するのです。
デザイン自体は、人間からすると気味が悪いものになるようです。ただそれは、強度が十分に担保されていて、自然界において生き残ってきたデザインなのです。
これは、創造性のあるAIの産業応用例と言えるのではないかと思います。
小泉: それはたとえば、飛行機の部分などを、「強度」を担保しながら3Dプリンタでつくる場合の新しい手法ということですよね。
これから先、色々な部材が3Dプリンタでつくられる時代が来ると思います。その時に、3DCADの設計情報を用い、従来の方法で製品の「形」をつくっていくという方法もちろん残るでしょう。
ただ、それとは別に、本当に必要なのは形じゃなくて強度だという場合には、強度の情報からスタートして形を自律的に生成していくという方法があるということですね。
八子: そうですね。それはさきほどのように、インプット部分をAIで代用するということではなく、人間が気づいていないことをAIが自動的に判断・判定してくれるということです。今後の産業はこうしたAIに期待をしていくべきでしょうね。
小泉: これからの産業利用の可能性としては、あまり人間の既成概念にとらわれず、機械任せにした時に、どういうアウトプットがあるのかということも、楽しみの一つということですね。
これまで語られてきたAIは、どちらかというと、人間が持っているアルゴリズムの中にAIを抑え込もうとする話が多かったと思うんですね。
今まで人間がやってきた判断、あるいはそれを超える判断をしてくれそうというように、「人間を超える」という観点がベースになっているんですよね。その「超える」と言っていることの中身が、実は自分たちがやっていることの延長線上のことだったりします。
八子さんの今日のお話からは、頭脳という観点においては、AIが人間を超えるというよりは、新たに考えだす・生み出すといった世界が待っているのかもしれないなと思いました。本日はありがとうございました。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。