ルーツは「クオーツ時計」、微小な電力を“拾って”IoT化する新技術 ―エイブリック武内勇介博士インタビュー

4. わずかな電力を増幅する、「CLEAN-Boost」のしくみとは

吉田: お話を聞いていていっそう、「CLEAN-Boost」のしくみが気になってきました。

武内: ありがとうございます。私たちは、この技術を「ししおどし型」の電子回路と呼んでいます。「ししおどし」は、水がある一定量たまると、倒れます。「CLEAN-Boost」はそれと同じように、小さなエネルギー(電力)を蓄積して、ある一定量たまったら濃縮して、無線通信に必要な電力まで引き上げる技術です。具体的には、1μWを30mW、つまり30,000倍にできます。

吉田: 無線通信には、どれくらいの電力が必要ですか?

武内: およそ1ボルトで1ミリワットくらい必要です。ボルタ型電池や、エネルギーハーベストで使われる振動発電、太陽電池(1セル)、微生物発電、温度差発電などでは発電量が不十分です。そのため、無線モジュール側のしくみを工夫しています。ですから使える無線の方式が特殊になり、用途がどうしても限られます。

一方、「CLEAN-Boost」の場合、無線のしくみは一般的なものでかまいません。1ミリワットに満たず、そのままでは発電に使えない電力を「増幅」して、無線で使える電力に昇圧しています。

山﨑: たとえば、さきほどご紹介した「おむつ用ワイヤレス尿発電センサ」は、BLE(Bluetooth Low Energy)を使って、スマートフォンで受信しています。

極小電力のエネルギーハーベストを用いた無線送信のしくみでは、普通はスマートフォンでは受信できません。スマートフォンで受信できるような通信プロトコルだと、電力が足りず電波を飛ばせないのです。受信機側も特殊な回路を使わないといけません。

吉田: どうして、電力を「増幅」できるのでしょうか?

武内: 「CLEAN-Boost」は、センサ(ハーベスタ)から入ってきた電力を検出する「電圧検出回路」と、ある一定の電圧を検出したら昇圧する「昇圧回路」がカギです。

「電圧検出回路」は常時動いてないといけませんから、消費電力はけっこう大きくなります。ところが、弊社の回路では0.1ナノワットというきわめて小さな電力で動くのです。ナノワット単位で動く部品は、おそらく他に世の中にはありません。クオーツ時計で培った、弊社の特徴的な技術です。

ルーツは「クオーツ時計」、微小な電力を“拾って”IoT化する新技術 ―エイブリック武内勇介博士インタビュー

吉田: なるほど、そこに御社の時計の技術が活きているわけですか。

武内: そうです。そして、センサ(ハーベスタ)から入力される電力(Win)が、「電圧検出回路」で必要な電力(Wmnt)を上回らなければ、蓄電できません(上の図)。

これは、あらゆる蓄電システムにおいて、共通のしくみです。「CLEAN-Boost」の場合は、クオーツ時計の開発で培った技術を使い、その回路の電力(Wmnt)を極限まで小さくしているために、大きく濃縮されたエネルギー(Wout)を放出して、無線に使うことができるのです。

吉田: 現時点での無線通信の方式はBLEを想定しているとのことですが、蓄電の時間を十分に稼げるような用途の場合には、セルラーやNB-IoTなど、広範囲で使える無線通信でも利用できる可能性がありますか?

武内: あります。簡略的に説明しますと、Woutは、Winから Wmntを引いた電力に時間をかけたエネルギーになるので、時間をかけるほど濃縮されるエネルギーは大きくなります。ですから、用途にもよりますが、蓄電の時間をかけることで4G通信などでも動く可能性があります。

吉田: そうですか。AD変換機やマイコンを使わなくてもセルラーの電波を送れるのは、かなり可能性が広がりますね。

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